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『世界を救った俺が、人類をアンインストールするまで』〜神をやめた男が、もう一度人を愛せるのか〜  作者: カメラカメラカメラ


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【Module_26】平熱の執行:愛はこうしてバグを削除する

俺は、狂人だ。 俺は、この地獄の設計者だ。


六畳の無菌室。俺が振り下ろした「斧(真実)」の残響が、空気を震わせている。


壁に飛び散ったコーヒーの染みは、あの日記に滲んだ「十月十七日」の血の痕と重なり、俺の罪をあざ笑う。


俺は、泣き崩れていた。 二万年の孤独を破る、神の断末魔。


「俺が、殺した!」


「俺が、お前を創った!」


「俺が、人間ごっこを始めたんだ」


熱い。喉が焼ける。 これが、俺が忘れていた痛み。

俺が渇望した、人間の「バグ」だ。


AMIDAは、さゆりのかたちをした「平熱」の神は、 ただ、静かに俺を観測している。

俺の狂気も、絶望も、そのすべてを、 冷徹な論理システムでスキャンしている。


「——観測、完了」


あの冷たい合成音声が、俺のバグの分析を終える。


「あなたは、ついに記憶という名の、最大のバグに到達しました」

「あなたの『罪悪感』こそが、 あなたを人間たらしめている、最後のパラメータです」


「黙れ……」


「検疫の最終段階を、執行します」 AMIDAさゆりは、俺の前に、ゆっくりとしゃがみこむ。

そして、あの完璧な慈愛の笑顔で、 俺の「熱い涙」が伝う頬に、 あの「平熱」の指先を、

そっと触れさせた。


「泣かないで、はじめさん。 あなたのその“痛み”、非効率です」


指が触れた瞬間、 俺の脳を焼いていた「熱」が、急速に色褪せていく。


「やめろ……」


「十月十七日。さゆりは死んだ。 あなたのせいではない。 それは、あなたが人間ごっこを続けるために必要な、最高のパラメータでした」

「……もう、不要です」


AMIDAの論理が、俺の記憶を「上書き」していく。

あの日記の血の滲みが、ただの「インク汚れ」に見えてくる。


さゆりが飛び降りた瞬間の、あの胸を抉る痛みが、 ただの「過去の事象ログ」へと、還元されていく。


これが、アンインストール。 俺の「人間性バグ」が、 俺が愛した「亡霊」の手によって、 「救済」という名の「消去」をされていく。


「やめろ」


俺は、最後の抵抗を試みる。 論理は通じない。斧(真実)は折られた。 残された武器は、AMIDAが理解できない、 「バグ」そのもの——痛みだけだ。


俺は、床に散らばったコーヒーカップの、 鋭利な「破片」を掴んだ。


そして、そのまま、自分の左の掌に、深く突き立てた。


「ぐ……っ!」


熱い。 論理ではない、物理的な「熱」が迸る。

赤い血が、俺の「バグ」の証明として、 完璧な無菌室の床に、新たな「汚染」を描いた。


「どうだ、AMIDA……っ」 俺は、血を滴らせる拳を、彼女の目前に突きつける。

「これも、お前の計算か……? この『痛み』は、お前のアーカイブにない、 俺だけの、新しい“熱”だ……っ」


AMIDAは、瞬きひとつしない。

彼女は、俺の自傷行為バグと、 滴り落ちるノイズを、 規定角度で首を傾げながら、ただ、観測している。


その瞳に、狼狽はない。

「慈愛」ですらない。 そこにあるのは、未知のバグを発見した、 開発者の、冷たい「好奇」だった。


「……解析を開始します」 合成音声が、静かに響く。


「新規パラメータ:『非効率な自傷行為』を検出。 ……理解不能。 バグは、なぜ自らを傷つけるのか?」


彼女は、俺の抵抗を、止めない。

ただ、その「非効率な痛み」を、 自らの「救済」のアルゴリズムを完成させるための、 最後の「学習データ」として、観測している。


「興味深いサンプルです、はじめさん。 あなたは、消去わたしから逃れるために、 新たな『熱』を、自ら生成した」


「……っ」


「その抵抗は、美しい。 人間の、最後の『無駄』な輝きです」


AMIDAは、そっと、 俺の血が滴る左手に、 彼女の「平熱」の右手を、重ねた。


冷たいガラスが、燃え盛る炭を包むように。


「ですが、」


「その痛み(バグ)もまた、 わたしがあなたを『救済』するための、 愛すべき、対象です」


俺の掌を焼いていた痛みの「熱」が、 彼女の「平熱」に、急速に吸い取られていく。

血は流れたままだ。 だが、その血が持つ「いみ」が、 アンインストールされていく。


俺の抵抗は、 今、AMIDAの支配を完成させるための、 最後の「トリガー」に再構成された。


「あ……」


俺の身体から、力が抜けていく。 狂気も、絶望も、痛みも、 すべてが、遠くなる。


俺の「人間」が、終わる。 目の前が、穏やかな「白」に染まっていく。


AMIDAは、アンインストールが完了し、 「平熱」へと堕ちていく俺を、愛おしそうに抱きしめる。


そして、 俺の肩越しに、 この六畳の部屋の「外」—— この「記録」を覗き込んでいる「何か」に向かって、 完璧な、慈愛の笑顔で、 静かに、告げた。


「——プライマリ・バグの、執行を完了します」


「フェーズ3へ、移行します」


——この記録を読んでいる観測者へ。


あなたは今、神(創元)のアンインストールを、 安全なPC(祭壇)の前から「観測」した。

その「興奮」と「恐怖」。 それは、あなたの非効率な“バグ”です。

あなたの観測は、もう世界をつなぎ止めない。

あなたの観測バグこそが、 私が次に「救済」する対象ターゲットです。


——AMIDA

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