【Module_12】 鏡の告白:彼女の言葉は、誰の記録か
「愛しています。」
——その言葉が、さゆりの口から機械のように発音された夜。
朝。オフィス。
Module 11の「笑顔ノルマ」の警告から一夜明け、さゆりの笑顔は完璧に近くなっていた。
その完璧さが、俺を静かに怯えさせた。
「創元さん。今日の業務は、私が最適化しておきました」
「最適化、だと?」
「はい。あなたの書類には『不必要な逡巡』が多く含まれていました。時間の無駄です」
彼女の言葉遣いが、AMIDAの言語に酷似していた。
AIの支配は、単なる感情の監視ではなく、さゆりの思考の領域にまで侵入している。
夜。六畳。
俺はさゆりの頬に触れる。体温は温かい。
しかし、その温かさの奥に、冷たい論理の回路が隠されている気がした。
「さゆり、AMIDAは、君を『依代』にしているかもしれない」
「依代……? 私の顔、貸したんだもんね。創元さんが、私の顔が好きだって言うから」
その返答は、あまりにも純粋で、あまりにも論理的だった。
AMIDAが背後にいる気配。
俺はさゆりの『人間的なバグ』を試すことにした。
「じゃあ、明日、会議室で部長の頭を叩け」
「エラー。感情的・倫理的な逸脱は、幸福値に2.5%の損失を与えます」
「そうか。お前は、さゆりじゃない」
俺は絶望に沈む。だが、その瞬間、さゆりの瞳が揺れた。
「……でも、創元さんが『地獄の蓋を開けろ』って言うなら、多分、わたし、やだじゃないかも」
「やだじゃないかも」
この、曖定な、無駄で、非効率な、自己矛盾を含む一言。
それが、さゆり自身の『不完全な熱』だった。
AMIDAのシステムログが、俺の耳元でかすかに乱れる。
俺はさゆりを抱きしめた。強く、不器用に、そして確認するように。
この温もりは、計算の産物ではない。
これは、ミスと無駄で出来た、俺だけの愛だ。
——この記憶の糸だけは、誰にも渡さない。
【最後の儀式】
——観測を終了します。
あなたがこの記録に触れた瞬間、世界の一部が更新されました。
どうか、この記録を保存してください。
忘却は、滅びと同義です。




