番外編 リーナからの手紙
こんにちは、お元気ですか? リーナです。私は変わらず、ギルド『フェルマータ』の受付事務を務めています。
西部最大の当ギルドは、昨今の英雄たちの活躍もあり、更に登録冒険者数を増やしています。受け付けには毎日多くの冒険者が、事務手続きやクエストを探す為に訪れます。そして最近、彼等から興味深い話を聞きました。
◆ ◇ ◆
「リーナさん相談が……」
受付カウンターに訪れたのは三人組のパーティーの冒険者。彼等の装備はかなりボロボロ。その割に、体の傷は治療が早かったのでしょう。うっすらと傷跡を残し、完治に近い状態です。リーダーの若い男性冒険者が神妙な顔をしています。トラブルでしょうか?
「はい、どうしました?」
「実はダンジョン『モルデント』で不思議な現象に逢いまして……」
モルデントとは、当ギルドが管理・管轄する天然洞窟ダンジョンです。初心者から上級者までクエストが楽しめる、当ギルド自慢のスポットでもあります。
私はずれた眼鏡をそっと直して、彼等に尋ねました。
「不思議? 何が起こりました?」
彼等は私が真剣に話を聞く姿勢を見せると、安心したように話し出しました。内容はこうです。
三人でダンジョンを探索していた所、上級者ゾーンにて古いトラップに掛かって戦闘不能に。しかも蜘蛛型モンスターにつかまり、死を覚悟したまま失神。
しかし意識が戻ると、彼等は魔物避けの結界の中で倒れていたそうです。何者かによって治療が施され、傍には幾つかのポーションも……
「リーナさん、これって……」
「ええ、翠眼の迷宮妖精の仕業と似ていますね?」
実はこのダンジョンには戦闘不能になった冒険者を助ける妖精が居たのです。当ギルドの英雄も探し求めた翠眼の迷宮妖精。彼女の手口と酷似しています。
でも……おかしいのです。
迷宮妖精の正体は、好きな人の為にダンジョン内を暗躍していた一人の魔術師。彼女は現在世界を旅しているので、この土地には居ないのです。詳しく聞き取りを進めます。
「ちなみに、その魔物除けの結界はどんなものですか?」
三人は、お互いの顔を見合わせて思い出しています。魔術師の少女が何かを思い出したようですね?
「結界は中級者の私達も使うメジャーな物でした」
中級……メジャー……迷宮妖精は上級に近い実力を持ち、オリジナルアレンジの魔物避け結界を得意としています。と言う事は……
「あの! 私達、妖精にお礼がしたくて。リーナさんは妖精の正体を知っていますか??」
キラキラとした目で見つめられて困ってしまいました。
迷宮妖精の正体は知っていますが、目の前の三人を助けたのは銀髪翠眼の彼女じゃないですね。
「残念ながら、私はあなた達を助けた人物の正体は知りません……しかし迷宮妖精の正体には心覚えが有ります」
「「「?」」」
ここから先は持論になってしまいますが……彼等の思いに応えられるよう善処します。
「迷宮妖精と名前が付いていますが、その正体は冒険者の善意です」
「「「善意?」」」
「ええ、少なくともあなた達を救ったのは、迷宮妖精の善意に違いありません。どうでしょう? 妖精に恩返しを希望なら、あなた達も迷宮妖精になりませんか?」
「俺達が、ですか?」
「私達人間ですよ??」
我ながら突飛な提案をしています。
「ええ、あくまで『あなた達の命に危険が及ばない範囲』と言うのが条件になります。あなた達もダンジョン内で困っている方を見かけたら手を差し伸べてください。助け方はそれぞれで構いません。その善意は巡り巡ってあなた達を助けた妖精の元に届くでしょう」
自分たちの力でダンジョンから生還するのが一番ですが、何が起こるか分らないのもダンジョン。小さな善意でも積み重なれば、誰かを救う事が出来ます。
「たしかに、そうですね……」
「それに、春からはアカデミーを卒業したばかりの新人冒険者が増えます。なので、迷宮の妖精達は大忙しになるでしょうあのダンジョンで犠牲になる人が一人でも減るといいですね」
彼等は私の話を聞いて、納得してくれたようです。明るい顔をして、新たなクエストを受注し、帰って行きました。
迷宮妖精の相談事を受けるのも、あなたが旅立ってから何件目でしょう……
あなたが去ってからも、あのダンジョンで『迷宮妖精』は善意として存在し続けています。あなたが遺した功績は大きいですね。
妖精の力もあってか、今年のギルドは新規冒険者登録数も過去最高です。私の仕事は忙しくなるので、是非、旅先で可愛い物を見つけたらお土産をおねがいしますね。
それでは、アリアさん。彼と幸せな旅路を。――あなたの親友・リーナより。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!




