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迷宮の妖精に英雄は眩しすぎる――推しに認知されたくない!!――  作者: 雪村灯里
翠眼の迷宮妖精

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7/8

#7 妖精と英雄の季節は巡る

※暴力描写あり

春の嵐(スプリングブレス)!!」


 掌から圧縮された空気と花びらが出現する。スラーは空気に弾かれソファから転げ落ちた。

 室内に発生した風は逃げ道を求め、窓と扉をこじ開ける。


「へ~可愛い魔法だね? お花畑でヤられたかった?」

「あ……貴方あなたとは、お断りです……!」


 両腕に嵌めていた、バンクル状の魔法補助アイテムがボロリと朽ち落ちる。

 廊下から彼の手下てしたたちが、心配そうに部屋の中を覗いた。


「大丈夫だ。お前らは見張っとけ。……抵抗されると燃えるんだよねぇ」


 扉が再び閉ると、頬を張られ再びソファに押倒された。必死に抵抗するがスラーは笑いながら私の両手を封じる。お願い! 届いて!!


 階下で言い争う音が聞こえた。その音は階段を登りこの部屋の前までやってくる。

 廊下で叫び声が聞こえた。見張っていた手下の声だ!  数発殴る音が聞こえ、扉が乱暴に開いた。


「見つけた!!」


 息を切らし、飛び込んできたのは亜麻色の髪の若い男……ノクトだ。青い瞳と視線が合う。

本当に助けに来てくれた……


「ノクト!!」

「クソッ! なんでお前がここに! うっ……!!!」


 スラーはノクトに殴られ再びソファから転げ落ちる。


「アリア、だいじょうぶか!?」

「は、はい!!」


 ノクトは私を優しく抱き起すと、そっと頬に触れた。頬に彼の手の温かさが伝わってくる。

夢じゃない……。

 私の無事を確かめたノクトは小さく安堵の息を吐いた。私を背で庇うように立つと、スラーを睨みつける。


「何故だって? 彼女は、僕を信じて助けを求めてくれたからな」


 彼は鳥の形をした紙をスラーに見せつける。あの時、私が使った魔法は二つ。「伝書の魔法」とそれをかく乱するための「春の嵐」。


「ギルドにも通報済みだ、応援も到着する。スラー、お前は人を傷つけ過ぎだ」

「ふざけんじゃねーよ! 英雄英雄って、いつも目障りなんだよ!!」


 スラーがナイフを取り出しノクトに襲い掛かった。だけどノクトは素早くスラーの腕を掴んで捻り上げる。カタンとナイフが床に落ち、その音で全てが決着した。


「ギルド最強クラスがこの程度? スラー、お前の強さは偽りだ」

「クソッ!!」


「「ギルドの治安部隊だ!! 全員動くな!!」」


 ◆


 私達はギルドで治療と取り調べを受けた。


 どうやらギルドもスラーの問題行動に困っていたらしい。そこに私の件を受け、彼を確保し除名・投獄に至った。ひと段落ついた私を、ギルドのロビーで待っていてくれたのは、リーナさんだった。


「取り調べ、お疲れ様です」


「リーナさん! 今朝、あの後リーナさんがノクトさんに話をしてくれたんですね? ありがとうございます。お陰で酷い事されずに済みました」


「良かったです。様子がおかしかったので。カノン……アリアさんと入れ違いでノクトさんも来られたので、うっかり情報を漏えいしました。スラーさんの隠れ家はこちらもマーク済みでしたし」


 彼女は悪戯っぽく笑った。そして私の手を握り優しく微笑む。


「ギルド職員と冒険者の間柄だけど、私達長いじゃないですか。私はアリアさんの事、友達だと思っていますよ」

「友達になってくれるんですか?」


 彼女は笑顔で頷いた。

 私は独りじゃなかった。リーナさんにも見守られて助けてくれた。嬉しくて嬉しくて言葉を詰まらせていると、リーナさんが衝撃的な事を言った。


「ええ。それに、今までダンジョン内で冒険者を助けてくれて、ありがとうございました。今まで渡していたポーション類は彼等からのお礼の品です。『もし、迷宮妖精を見かけたら渡して欲しい』って託されていたんです」


「私、妖精って呼ばれてたなんて、全然知らなかった。リーナさんはそれが私って分かってたの?」


「ええ。助けられた人々から聞き取りしましたから。オリジナルの高度な魔法を使いこなす魔術師。それに、見た目が変わっても緑の目だけ同じって、アリアしかいないから」


 リーナの笑顔につられて私も思わず笑みがこぼれた。みんなの優しさが嬉しい。

 取調室からノクトが出てきた。


「ノクトさん!」

「さて……二人とも取り調べお疲れ様でした。積もる話は余所(よそ)でしてください。私は書類がまだ残っているので」


 リーナは笑顔でひらひらと手を振り、私達を追い出した。


「わかった。リーナさん、今日はありがとう。アリアは僕が送り届けるよ。さぁ、行こう。アリア」

「えっ……えっ……はい」


 視界の端でリーナさんが満足そうに笑ったのが見えた。夕日に照らされながら、ノクトの隣を歩く。

 言わなくちゃ……お礼、言わなくちゃ……!


「ノクトさん。助けてくれてありがとうございます。急に家を飛び出したクセに……助けまで呼んですみませんでした……」


 ノクトが歩みを止めて真っ直ぐに私を見た。口を一文字に結んだその顔は……やっぱり怒るよね?


「本当に心配した。スラーに連れてかれたと聞いて焦ったよ」

「え……あの、何でノクトさんはそこまで親切にしてくれるんですか? それに何で私の本名も?」


「言っただろう? 僕は妖精に惚れてるんだ。6年前、僕を助けた命の恩人でもある。ダンジョンで倒れていた、痩せた長髪の剣士に覚えはないかい? 止血で君のハンカチを貰ってしまったね」


 彼はそう言うとポケットからハンカチを取り出した。そこにはAria(アリア)と名前の刺繍が入っていた。それを見て記憶が蘇る。初めてダンジョンに潜った日に助けた……


「あの時の……剣士さん!!」


「『このダンジョンで痛い目に遭ってしまったけど、綺麗な物も沢山ある。諦めずに宝物を見つけてください』君の言葉に支えられて今の僕が有る」


 鮮明に思い出した記憶の中で、確かにそう言っていた。少し気恥ずかしい。


「あの日から、アリアにお礼が言いたくてずっと探していた。4年前、傷ついた君が診療所からいなくなって、ギルドでも君の痕跡が消えてしまって酷く焦った。でも、やっと見つけた」


 私達はいつの間にか助け合っていた。ずっとお互いの背を追っていた……


「そんな……私、ノクトさんに助けられたから、挫けずに冒険者を続けられました。でも、これからは人を信じてみようと思います。ノクトさん、これからも好きでいて、いいですか?」

「ああ、僕だって宝物を手放す離す気は無いよ。一緒に生きようアリア」


 ノクトは私を抱き締めた。まだ少し恥ずかしかったけど、彼の笑顔を間近でみられて嬉しかった。


 その後、私はアリアと名乗り彼と冒険を続けた。美しい世界をこの目で見たい。かけがえのない時間を大切な人と過ごしたい。私達は広い世界を旅する。


 いつまでも、どこまでも。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

明日12:00 後日談の番外編を1話公開いたします。もしよろしかったら読んで頂けると幸いです!

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