表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮の妖精に英雄は眩しすぎる――推しに認知されたくない!!――  作者: 雪村灯里
翠眼の迷宮妖精

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

#5 妖精は蕩けそうだ

「見つけた。迷宮妖精ラビリンスフェアリー


 なっ……。ふぁ!?


 私はノクトに抱きしめられて混乱した。彼の目は真剣で、恋人を見つめるように熱を帯びている。彼は私を抱きしめたまま起き上がった。自動的に彼の膝の上に横抱きの状態で収まってしまう。


 ノクトの顔が近い……。睫毛までよく見える。


 彼は私の肩に頭を埋めた。それは恋人との再会を喜ぶような優しい抱擁だ。温かい。それにいい香り。彼の鼓動も聞こえて……まるで夢? その夢は数十秒後に覚める。

 我ギルドの英雄は、慌てて顔をあげた。先程まで熱を帯びた青い瞳は、普段の冷静さを取り戻している。彼は困り顔で詫びた。


「こんな方法ですまない。でも、やっと捕まえた」


 私の心臓が思い出したかのように鼓動を刻み、暴走を始めた。


「ひ! 人、妖精!?  違いです! 離してください!」


 私は顔を手で覆いながら、身をよじり、足をばたつかせるだが、彼の腕は離してくれなかった。更に腕に力がこもり、体が密着する。ノクトは少し不服そうに答えた。


「間違いない。迷宮妖精は君だ。それに離さない。離したら逃げるだろう? 落ち着いて、僕の目を見て」


 そう言われ、指の間から彼の目を見る。


(あ~! カッコいいよ~~! 直視していいの? 許される!? ダメでしょう! ヤバい! 逃げたい! 消えたい! 認知しないでっ!!)


 無駄な抵抗として、彼の腕の中で丸まった。そう、このまま小さくなって消えたい!


「くぅぅぅ……」


 思わず変な声が出る。お願い聞かないで~!! ノクトはそんな私を(なだ)(なだ)めるように、優しく頭を撫でた。これはご褒美ですかっ? 苦行ですかっ!? 


 更に彼は、私を落ち着かせようと優しく耳元で囁く。


「大丈夫。()()()、落ち着いて」



 ―――!!



 でもそれは逆効果で……。その心地よい声は甘い痺れとなり、情報を処理しきれない私の脳は、小さな悲鳴をあげて……失神した。



 ◆


『辛い目に遭ってしまったけど、どうか君の宝物は諦めないでほしい……』


 昔、命の恩人に言われた言葉を思い出しながら私は目を覚ました。

 どうやらベッドの上に居るみたい。


 ――あれは夢だよね? サービス精神旺盛な夢でした。ごちそう様です。あれ? この香り……。それに天井が違うっ!!



「――!!」



 思わず飛び起きた。ギルドの医務室でもない。ここは何所どこ? 何が起きたの?

 服は着ている。ローブは壁に掛けられ、鞄と杖がかたわらの椅子に置かれていた。怪我もないし、体も痛くない。すると部屋の扉がノックされ反射的に返事した。


「は、はいぃっ……」


 開いた扉から姿を見せたのは、英雄ノクトだった。


「起きたかい? 良かった。急に気を失って焦ったよ」

「ノクトさん! はうっ……」


 私は咄嗟に布団をかぶり隠れた。

 まって!? どういう事!? ゆゆゆゆ……夢の続きィ!?

 布団にくるまりながら、恐る恐る尋ねた。


「あ、あの……ここは?」

「僕の家だよ」


 僕の家ェ!?  布団から顔を半分出して部屋を見渡すと、確かに男性好みのインテリアだった。という事は……もしかしなくても、これ僕のベッド!? これはノクトの香り? ああ……。情緒がぐちゃぐちゃだよ。涙が出そう。


 ノクトはベッドサイドに椅子を持ってきて座った。冒険の装備を付けていない、オフモードの彼が私を見てにっこりとほほ笑む。かっこよすぎて涙が出そう。私、寿命が近いのかな? 死んじゃうのかな?


「体の具合はどうだい?」

「だ、大丈夫です……」


「良かった。まずは君に礼を言いたい。昨日、火蜥蜴サラマンダーから助けてくれてありがとう。昨日だけじゃない。君には過去に何回も助けられたね?」


 うっ……昨日以前も見られてた? その都度名前と姿を変えたのに。

 それでも私は、知らぬ存ぜぬで突き通す。


「き、昨日って何のことですか? 人違いです」

「はぁ……あんな事しておいてなんだが、僕の事嫌いかい?」

「――!! いいえ! そんな!!  嫌いじゃないです!!」


 むしろ、あなたは私の憧れで、大好きなんです!! なんて、言えないよぅ……

 ノクトは私がしらを切る様子を見て合わせてくれた。


「じゃあ、君もあのダンジョンで迷宮妖精に逢ったら伝えて欲しい。ノクトは妖精・アリアに惚れているから、いつまでも待っていると」


 彼は悪戯っぽく笑って告げた。

 私に、惚れてる!? 私は顔が赤くなって……耳まで赤くなってしまった。慌てて布団を被り隠れる。


「……左肩の傷、今は痛くないのかい?」


 彼に指摘されて目を伏せた。私の左肩には古傷がある。普段はローブを着て隠しているが、ローブを脱いだ今はどうしても見えてしまう。


「はい……助けてくれた人の処置が良くて。痛みは無いです」


 ダンジョンで困ってる人に、幾度も手を差し伸べているノクトは覚えてないかも知れないけど……。この傷は、3年前にあなたが治してくれた。左手も動くし、痛まない……。偶然助けた人物に好きと言われ、付きまとわれていたと知ったら……。きっと、ノクトは困ってしまうだろう。


「それは良かった。ずっと一人で冒険を? なぜパーティーに加入しないの?」


 その問いに、肩では無く胸が痛んだ。


「パーティーはいい思い出なくて。一人が好きなんです」

「集団が無理なら……どうだろう? 僕を君の用心棒にしないか?」


 その提案には驚き、体を起した。


「そそ……そんな! 英雄に護衛させるなんて! 英雄の無駄遣いです! 英雄が勿体ない!!」

「でも僕の事嫌いじゃないんだろ? それに、英雄じゃなくて、僕はノクトだ。一人の冒険者として見て欲しいな」


 ふわりと優しく微笑むノクトを見て、心臓が跳ねた。

 嫌いじゃない! ……けど、それはそれで困っちゃう……。


「ずっと君を心配していたんだ。いきなり信じろと言われても無理かもしれない。でも、助けが必要なら頼ってほしいし、背中を預けて欲しい。僕は絶対に君を裏切らない」


 憧れの人にそんなこと言われたら、天に舞い上がりそうなほど嬉しい。けど……。



『俺達は君らを裏切らない! さぁ、協力し合って俺達の名を轟かせよう!!』



 嫌いな人の言葉を思い出してしまった。結局、このセリフを言った人からはあっさり裏切られてしまう。

 ノクトを3年追ってきた。彼は簡単に人を裏切る様な冒険者じゃないのも分かっている。でも、心の中で過去の私が暗い顔をする。――怖い。彼を信じて裏切られたらどうしよう……それこそ立ち直れない。


「……お腹が減っただろう。下に昼食がある一緒に食べないか?」


 彼は部屋を出て階下へと向かった。私は覚悟を決める……


「お邪魔しました!!」


「え!? おい!! 待ってくれ!!」


 荷物を抱え、脱兎のごとく逃げ出した。

 ギルドを辞めよう。彼にここまで知られてしまってはもうダメだ。それに、断って彼をがっかりした顔も見たくない。


 彼の家を抜け出したその足で、ギルドに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ