#3 ギルドの英雄たち
翌日、ギルドのS級冒険者の選りすぐりを集めた、スペシャルパーティーが火蜥蜴の討伐に向かった。ダンジョン入口の前は、それぞれのファン達で賑わっている。
「今日は特別クエスト実施の為、許可が無い人は入れませーん! そこの銀髪のあなた、許可書は??――洞窟蜘蛛の討伐ですか。どうぞご安全に」
呼びとめられ静かに許可書を見せると、容易くダンジョンに潜入できた。この為にクエストを選んでいたのだ! しかも、蜘蛛も討伐済みで後は報告するだけ。 今日は私にとって一番の楽しみと言っても過言ではない。私は気配を殺し英雄たちの後を追う。
小走りにダンジョンを進んでいくと誰かが戦闘している音が聞こえた。物陰に隠れ、魔法双眼鏡で戦闘の様子を窺う。体格のいい男性冒険者4人の集まりだった。ビンゴっ! ノクトたちだ!!
ノクトは冷静に状況を把握し、ブラウンの髪を乱すこともなく華麗にモンスターを倒してゆく。それはまるで優雅なダンスの様だった。
(あ~~! 今日もカッコいいなぁ……。それに、臨時パーティーとは思えない連携! ああっ♡ あの冷たい瞳に見つめられたら限界化してしまう!……ま! 見つめられる事はないでしょうけど~)
英雄たちは順調に火蜥蜴の居るゾーンへと近づいてゆく。彼等も本番前に休憩をはさんでいる様だ。私も物陰から集音魔法を使い彼等の会話を盗み聞く。
「偵察ご苦労」
ああっ♡ ノクトが労ってる。 しかし、ギルドのS級が偵察なんて何と豪勢な! でもさすが。偵察もこなしちゃうか~。
「ああ。ノクト、この先に火蜥蜴が5匹。他にモンスターは居なかった」
「よし、装備を整えたら向かおう」
5匹……? 昨日は6匹居たけどナゼ? それに昨晩は他にも結構いたけど……。なにか引っかかる。
私も彼らの後を追い、ダンジョンを進んだ。
◆
「よし、あと2匹! 気を抜くな!!」
「「「おう!!」」」
彼等は華麗に火蜥蜴を狩るが、様子がおかしい。火蜥蜴以外のモンスターがいない。それに心なしか火蜥蜴の動きが鈍い。何かに怯えてる……。
「よし! あと1匹!!」
その時、深層に繋がる奥の通路から轟音が響いた。みんなの視線が、音の主を捉えようと一点に集まる。そこに現れたのは――ドラゴンだった。口には火蜥蜴を咥え、それを生々しい音を立てて食べてしまう。
「火竜だと!!」
はー……なるほど! だから火蜥蜴は、深層から逃げて来たのね。ドラゴンなんてSS級じゃん! 逃げないと…… あっ!!
みんなが火竜に意識を向けた一瞬を狙い、火蜥蜴がノクト目掛けて攻撃を仕掛けた。このままではまともに喰らってしまう。私の体が反射的に動いた。
「石槍!!」
岩の槍が地面から生え、火蜥蜴を串刺しにした。火蜥蜴がビクンと大きく跳ね絶命すると、岩の槍がボロリと崩れる。崩れた先に視えたのは……こちらを見つめるノクトだった。
「誰だ!!」
ひぃぃ! マズイ!!
私は踵を返し逃げ出した。
「おい! 待……」
「ノクト!! でかした!! 火竜を狩るぞ!!!」
「あ、ああ……」
あぁぁぁ!!!……目が合った。どうしよう!! とりあえずこのローブと杖はもう使えない!!
私は息を切らし、家に逃げ帰った。杖も新調したばかりだけど、暫くは別の物を使おう。
冒険者になりたての時に買った杖とローブをクロークから引っ張り出した。古いし当時大量に出回った物だから、皆気付かないよね?
落ち着け……、落ち着け……。大丈夫。薄暗かったし……。大丈夫!!
自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻すと、夕暮れの空に星が光り始めていた。こっそりギルドへ向かうと、お祭り騒ぎだった。
「英雄たちがドラゴンを討伐したらしいぞ!」
「途中、蜘蛛に食べられかけた負傷者も助けたらしい。さすが英雄パーティー!!」
彼らは火蜥蜴と火竜の討伐に成功したようだ。私は受付のリーナさんに話しかけた。
「おつかれさまです。すごい盛り上がりですね。私も討伐終わりました。これ、成果物です」
「カノンさんもお疲れ様です。まさか火竜まで退治してしまうとは。英雄の名は伊達じゃありませんね。あっ!……そういえば、 ノクトさんが個人的にクエストをギルドに依頼したので、よかったら掲示板を見てください。カノンさんならダンジョンに詳しいし、見た事あるかもしれません」
ノクトがギルドに依頼? 珍しい事も有るものだ。なんて考えている間にも、リーナさんは手早くクエスト終了の処理をしてくれた。
「はい、報奨金です。受取のサインをお願いします。――彼等、今日はギルドの酒場で打ち上げするみたいですよ」
「本当ですか! 行ってみます!」
私は、温かくなった財布を抱え、受付を後にするのであった。




