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迷宮の妖精に英雄は眩しすぎる――推しに認知されたくない!!――  作者: 雪村灯里
翠眼の迷宮妖精

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#2 ぼっちの魔術師

『ダンジョンはパーティーを組んで、みんなで力を合わせて冒険ッ!』がセオリーだけど……



 私はソロ(独り)



 はぁ……。冒険者になって5年。私もパーティーに加入していた時期も有りましたよ? でも……、そこで痛い目に遭ってからは、ずーっと独りなんです。


 痛い目に遭っても冒険は辞めなかったの? って……。確かに、冒険以外にも街で働けば生計は立てられる。でも、ここに留まる理由は――痛い目に遭って、ボロボロになった私は宝物を見つけてしまったのだ。


 それは、まだ英雄として持て(はや)される前のノクト。


 何が有っても自己責任のダンジョンで、彼は迷いもせずに瀕死の私を助けて、ダンジョンから生還させてくれた。彼の優しさに触れて心を取り戻した私は、恩返しをしたいと思った。それに、彼の活躍を……彼の笑顔を見ていたい。『ダンジョンは、冒険者を狂わせる』先人はよく言ったものだ。


「相変わらず、ここは綺麗だな……。お茶も美味しい」


 私はダンジョンの浅層から中層に差し掛かる、道を外れた場所に居る。ここは鉱石の群生が見られるお気に入りの場所だ。星空のようにキラキラ光る鉱石を眺めながら、お茶を飲み精神を集中するのが冒険前のルーティン。今日は珍しく過去の事を思い出してしまい、しんみりしている。


 ソロ活動を始めて3年。私は自分なりに努力した。一人でも危ない目に遭ったけど、それを乗り越えて確実に強くなってる。なんていったって、F級からA級までのし上がったのだから! 自信を持とう。……あっ、でも……S級になると目立つから、A級になってからは昇格の申請はしていない。


 ダンジョンの宝物に狂わされた私は、名声から興味を失った。憧れの英雄・ノクトの背中を追い、()()()応援する為に自分の力を使いたい。


「さてと、推し活を始めますか」


 お茶を飲み干すと、カップを荷物入れの中に仕舞った。立ち上がってローブに付いた埃を払う。


 陰からじゃなくて、もっと近くで応援すればいいじゃないか? 何言ってるの!? ムリムリ!! ぼっちの魔術師と英雄。生きる世界が違過ぎる!! 私より魅力的な人は彼のファンに多い。彼は私の手が届くような人物では無いし……きっと私を助けたことだって覚えてないよ。それでも、憧れの人には幸せになって欲しい。


 私は、ノクトが明日潜る予定のゾーンへと訪れた。


「トラップ発見~♪」


 私はトラップの魔力回路を焼き切った。動力を失った罠は杖で突いても、ウンともスンとも言わない。魔法を使ってトラップを掘り起こすと、持ってきた麻袋に投げ入れた。


「ゴミ拾いよ~し♪」


 なぜ、こんな所に罠が有るのか? モンスターを狩る為じゃない。他の冒険者を妨害するために罠を仕掛ける奴が居るのだ。私はそういったやからが仕掛けた罠を見つけては解除して回る。


 ちなみに、これは私のクエストでは無い。趣味の一環だ。


 だって! 憧れのノクトが罠で怪我したら大変!!  勿論もちろん彼がこんな罠にかかる事は無いよ? でも、煩わしい罠よりクエストに集中してほしいっ。



「それにしても、今日は罠が多いな~。誰がこんな事を……」



 不思議な事に、彼がダンジョンに潜ると噂される時は、倍増する。嫉妬と悪意は恐ろしい。私は慣れた足どりで奥へ進む。


 時にモンスターを倒し、ごつごつとした溶岩系の岩も混ざる場所にたどり着いた。ここは転ぶとめっちゃ痛い。それに蒸し暑い。こんな所に火蜥蜴サラマンダーの群れが居るのだ。勿論もちろん、倒す訳ではない! 推しのターゲットを偵察するだけ。岩の影から魔法双眼鏡で観察する。


(ここら辺はモンスターが多いなぁ。どれどれ、火蜥蜴の群れは?……いたいた~♪)


 巨大な蜥蜴たちが身を寄せて、丸くなり休んでいた。首の部分は襟巻の様に炎を纏わせてる。尻尾にも小さな炎が灯っていた。サラマンダ―の体高は成人男性と変わらない。後ろ脚で立ち上がったら相当大きいのだろうなぁ。ひい……ふう……みぃ……6頭。


 普段、サラマンダ―はダンジョンの最深近くで10頭程の群れで過ごしている。最深層に居るべき、そこそこ強いモンスターが中層に上がって来た。だから、今回討伐の話が出たのだろう。


(群れにしては少ないなぁ。それにみんな傷だらけ。深層で何かあった? まぁ、可哀そうだけど明日退治されてね♪)


 明日の現場の確認はこれ位でいいだろう。

 私は別の場所へ向かう。魔術師カノンの初仕事。受注したクエストを片づける!


 ◆―◆―◆


【B級クエスト: 増え過ぎた洞窟蜘蛛の討伐をお願いします】

 中層で洞窟蜘蛛の個体数が増えています。このままですと冒険者やダンジョンの生態系に異常をきたしてしまうので間引いてください。


 ◆―◆―◆


 巨大なクモたちがひしめくゾーンにやって来た。夜の蜘蛛たちは活発だ。巣にかかった餌を楽しんでいるようだった。またもや魔法双眼鏡で確認する。



(相変わらず大きいなぁ……12匹……半分狩ればいいかな?)



 杖を構えた。ジメジメした洞窟内は水分が豊富だ。空気中の水分を集め細い円柱状に形成する。更に熱を奪って氷にすれば、氷槍(ひょうそう)の完成! あとは、飛翔魔法を応用して狙いを定めて投げるだけ! 簡単~♪



氷槍アイシクル!」



 6本の氷槍を蜘蛛目掛けて投げた。槍は見事命中し蜘蛛を貫く。攻撃を受けなかった蜘蛛たちは驚き、洞窟の奥へと逃げて行った。


 私は火を灯し、蜘蛛の巣を焼き切りながら蜘蛛の亡骸の元へ向かう。この糸に絡まるのをみんな嫌がるので、このクエストは人気が無いのだ。蜘蛛、苦手な人もいるからね。しかも大きいし。


 私は腰からナイフを取り出すと、モンスターの解体を始めた。討伐達成の証として、部位をはぎ取る。この作業も慣れてしまった。



「糸線《糸袋》も取れたし終了かな……おや?」



 岩の影に隠れた蜘蛛の巣に、大きな糸の塊が3つ。人間が入りそうな大きさだ。まぁ、人が入っているのだけど……もぞもぞと動いている。よく見ると足元にはポーションの瓶が転がっている。


 昔から、私はお節介をしてしまう。6年前、初めてダンジョンにも繰り込んだ時も誰か助けたっけ?


 私はナイフで糸の塊を割くと冒険者がずるりと落ちてきた。男性2人に女性1人。3人とも蜘蛛以外からの傷を受けていた。傷は多いし攻撃を受けてかなり弱っているけど、まだ間に合う。


「ううう……」

「大丈夫ですよ。治療しますね?」


 私は毒を浄化する魔法を使いながら、リーナさんに貰ったポーションを鞄から取り出した。それを喉に詰まらせない様に、少しずつ口に含ませていく。さすが高級ポーション。効きが違う! 弱々しかった彼等の呼吸が次第に安定してくる。リーダーらしき男性冒険者が、うわ言のように言った


「ありがとう……」

「いいえ。今回は痛い目に遭ってしまったけど……諦めずに宝物を見つけてくださいね」


 落ち着いた彼らは、安心したのか眠りについた。よかった~。私でも治療できるタイプの毒や傷で本当によかった~。一番はリーナさんがくれた薬品類のお陰かも。


 さすがの私も1人で3人を運ぶ事は出来ない。なので、彼等の周りにオリジナルの魔物避けの結界を張った。彼らが目覚めた時に飲めるようにポーションを彼らの周りに置いておこう。これなら回復して自力でダンジョンから出られるだろう。あぶく銭ならぬあぶくポーション。困った時はお互い様である。



 さて、これで明日の事前準備は終わった。



 あぁ……。ノクトの活躍が楽しみで胸が躍る。どんな立ち回りを見せてくれるのだろう!!

 私は軽い足取りでダンジョンを後にした。


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