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迷宮の妖精に英雄は眩しすぎる――推しに認知されたくない!!――  作者: 雪村灯里
翠眼の迷宮妖精

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1/8

#1 妖精の姿は揺らぐ

「見つけた。迷宮妖精ラビリンスフェアリー


 ――ひぃっ!!


 わわわ……私はカノン。い、今……推し英雄・ノクトに文字通り捕まってます。ちなみに私は人間です! 妖精じゃありませんっ!!


 ちらっと、私を抱き締める彼の顔を見ちゃいました。嗚呼(ああ)っ、顔面国宝をこんな間近で!?……ブラウンの前髪の奥に見える蒼い瞳は、真剣で……メロいよぉぉぉ!


 うぅ……。彼が眩しすぎて、心臓に悪い。限界化しそう。いや、もうしてる。


 でも、なんでこんな事になっちゃったの?  私が一番知りたい。心を落ち着けるために、少し記憶をさかのぼろう――




 ◆



「リーナさん、おはようございます」


 私は、朝イチで冒険者ギルド『フェルマータ』の受付へと向かった。まだ、ひと気の少ないギルド内。受付デスクでは受付嬢のリーナさんが、涼しい表情で書類を見ている。


 彼女は私より少し年上(20代半ば)のクールビューティー。長いオリーブ色の髪を耳に掛け、眼鏡の奥のアメジスト色の瞳が私を見つめます。


 でも……彼女は一瞬目を見開き、私を下から上へとじっくり観察したのです。


「おはようございます。また、イメチェンしたのですか? 銀髪翠眼……前のピンク髪も良かったですが、銀髪セミロングも似合いますね。ファッションも可愛い系から正統派魔術師ですか」


「あ、ありがとうございます! そうなんです原点回帰というか……」


 リーナさんから「似合う」の言葉を貰って心が躍りかけていた私は、はっと我に返った。この現場を誰にも目撃されたくないのだ。スピード重視。リーナさんには悪いけど、早く終わらせないと!!



「――原点回帰したんですけどっ……そ、そのう……例の手続きをお願いします」


「ああ。いつものギルドネームの変更ですよね?」


「そうです! お願いします!!」



 ギルドネーム――これは冒険者としての活動名だ。本名を名乗るのが一般的だけど、本名を明かしたくない人はペンネームよろしくギルドネームを設定する。

 リーナさんは棚から私の情報が載った台帳を持ってくると、眉を顰めた。


「3か月前に変えたばかりじゃないですか……今年2回目ですよ?」


 あぁ……やっぱりそこツッコみますよね?


 リーナさんに『例の手続き』で話しが通じてしまうくらいだ。私は頻繁にギルドネームを変えている。頻繁過ぎて、変更に制限が掛かっちゃうかな? 不安になりながら、リーナさを見ると……彼女は好奇心に目を輝かせながら、こっそり尋ねてきた。


「トラブル? 色恋沙汰? それとも悪い事しちゃいました??」

「いえ、その……気分転換というか……心機一転頑張りたいといいますか」


 私はギルドの天井付近に視線を泳がせ、しどろもどろになりながら答えた。嘘はついていない。けど……本当の理由も話していない。


 チラリとリーナさんを見ると、軽く頷いてくれた。彼女はデスクの中から書類を一枚取り出すと、私の動機を復唱しながら書き込んでいく。


「『心機一転』……と。書類にはそう書いておきますね。でも勿体もったいない。S級に片足入っている強さなのに。名をとどろかせないと、いいクエスト貰えませんよ?」


 確かに、ごくごーく普通の冒険者ならそうだ。有名になった方が冒険やクエストで指名が掛かり有利に進む事が多い。それに割のいいクエストも上級者に多い。でも私は……轟かせたくないんです。静かに、ひっそりと冒険できればいいんですぅ……。


「わ……私ごとき、A級B級のクエストで十分なんです。この通り食べて行けますし。S級はこのギルドの最強クラスの方々にお任せします」

「まぁ、控えめですね。そう言うなら止めませんけど」


 良かった、止めないでくれるって。思わず安堵のため息が漏れる。


「で、新しい名前は?」

「“カノン”でお願いします」

「ギルドネーム・カノンさん、21歳ですね。あ! アレもいつも通りですよね?」


 さすがリーナさん。仕事の出来る女です。ちなみに、アレとは――


「ええ、()()()()()()()()()はトップシークレットでお願いします」


 そう、これだけは訳あって誰にも知られたくない。私はこうやって、名前と姿を変えて冒険している……。過去は私を不意に苦しめるから嫌いだ。今と未来だけを見て……ポジティブな女だという事にしてもらいたい! どうでしょう? リーナさん!?


「はい、大丈夫ですよ。じゃあカノンさん。これからも宜しくお願いします」


 やったー! 晴れて私はギルドフェルマータ所属のA級魔術師『カノン』になった。

 これで心置きなくダンジョンを冒険できる!


「カノンさん、何かクエスト受注していきます?」


 わーい! 早速お仕事貰えそう!!

 私は厚かましくも希望を出した。


「はいっ! できれば……剣士ノクトさんが受けているクエストの近くがいいのですが……」


 ノクトは、このギルドに所属するS級クラスの男性冒険者の一人だ。その優しく熱い人格と、成し遂げた偉業から、生きているのに英雄と呼ばれている。街やギルドでの人気が超高い。私が敬愛する冒険者でもある。


「……そう言うと思って、取っておきましたよ。B級クエストですがいいですか? 安いですよ?」


 リーナさん、マジでシゴデキ!! 彼女はニヤリと口の端で笑みを浮かべると、クエストが書かれた紙をすっと私に差し出した。私はさっと要点を読み、快諾する。


「ふぁぁぁ! リーナさんありがとうございます! つつしんでお受けします!」

「このクエスト、絶望的に人気が無くて困っていたので助かります。あっ、これはささやかですが、おまけのポーション類です。良かったら使ってください」


 リーナさんは机の引き出しを重そうに開けると、中からカラフルな小瓶を取り出した。体力回復のポーションに、毒消しの薬草、万能と名高い薬まである。


「こんなに沢山もらって良いんですか?」


「いいんです。協会員の皆さんがくれるのですよ。私は冒険に出ませんので、宝の持ち腐れです。それにカノンさんは、みんな受けない案件を受けてくれるので特別です」


 彼女は大きな布袋にガチャガチャと品物を詰めて私に差し出した。ギルド所属の冒険者の皆さん、気前がいい。


「えへっ♪ そうですか~? では、お言葉に甘えて」


「これは独り言なのですが……ノクトさんは明日、臨時パーティを組んでS級火蜥蜴(サラマンダー)の群れを討伐します。明日モルデントはクエスト受注者以外立ち入り禁止なので、巻き込まれない様に気を付けてくださいね」


 大きな独り言の締めに、ぱちんとウインクをしたリーナさん。

 ああーん! リーナさんも好きっ!! 雑貨屋で可愛い小物を見つけたら貢ぎます!!


「ありがとうございます! 気を付けて行ってきます!!」


 私はポーションが入った袋を抱えてギルドをあとにした。

 ノクトの情報に夢中で、瓶や液体の重さなど感じなかった。アドレナリンどばどばである。


「ふふ~ん♪ サラマンダ~ッ♪ 防火~♪」


 自宅に帰り、即興のサラマンダーソングを口ずさみながら、クローゼットを開けた。そこにはコツコツ買い集めた冒険グッツが所狭しと並んでいる。

 私は防火の装備を身に付け、銀髪を隠すようにローブのフードを目深に被る。新調した大きな杖を持ってぐっと気合を入れた。


 カノンになって初めてのクエスト……よりも、今は別の目的で胸を躍らせている。

 さぁ!行こう!! 目指すはギルドが管理するダンジョン『モルデント』へ!!!


この度は、お手に取って頂き、ありがとうございます。

本作は、本編全7話・番外1話の約12000文字の短編作品です。

もしよろしければ、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

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