最終話 もう一度
あの後、夜の校庭で一人で号泣する高校生を不審に思った近所の人が警察に連絡をしたみたいで、私は警察に保護されて、親に迎えに来てもらうことになった。
何があったのかを聞いてきたけど、説明しても理解されるような出来事ではなかったし、私と雫の思い出を、警察官の余計な主観で汚されなくなかった。
観念した警官が親に電話をして迎えに来てもらったけど、迎えに来た母は、優しく私を抱きしめてくれた。
「……お母さん……雫が……」
「うん……そうだね……」
「ひっく……私……もっと早く知っておけば……」
「うん……」
「でも、でも……今日、最期に会えて、よかったよ。お別れ、できたよ、お母さん」
「うん……がんばったね」
「うん……うわぁーーー」
きっと、母にも、何が起きていたのかが分かったんだと思う。
だって、同じように、涙を流しながら私を抱きしめてくれていたから。
二人で、雫の冥福を祈った。
翌日、改めて雫の家に行って、お墓参りをさせてもらえることになった。
雫のお父さんもお母さんも、雫が死んでしまったという事実を受け入れられないままだったらしい。
「……そんな時だったんです。ちょうどお彼岸の辺りの、ある夜。雫の声が、聞こえたんです。振り向くと……生前のあの子が、立ってた……!」
「この人も私も、あの子が亡くなってからは放心状態で……生きる意味を失くしてしまっていました。でも……あの子の、元気な姿が、見られて……!た、たとえ1日でも、もう一度一緒に過ごせるならと……最期に、親子3人の時間を、持つことができたんです」
「戻ってきてくれたのは、癌との闘病でやせ細った姿ではなく――元気だったころの姿で。それが……嬉しくて、嬉しくて……とても穏やかな時間を、向こうでも過ごせているのだと、そう思うことができました」
坂上家のお墓に、雫のご両親の後に続いて、母と私も花を供える。
墓石に刻まれた、雫の戒名が見える。
一人ひとりが墓前で祈りを捧げる。
雫。
――亜季ちゃん
と聞こえてきそうだった。
「決めたよ、雫」
雫みたいに、苦しんでる子供たちの力になりたい。
そして――それを救える力が、ほしい。
「私。医者になりたい。雫、私、頑張るね」
風が吹き、卒塔婆がカタカタを音を立てる。
まるで、雫が返事をしたみたいだった。
私のその言葉を聞いてか、大人たちはみんなどこか涙ぐんでて。
母から思いっきり、抱きしめられた。
雫。
大好きな雫。
ありがと。
私、頑張るから。
帰り際に、もう一度雫に誓いを立てた。
「亜季ー?遅刻するわよ?」
「わ、やば!」
母に声を掛けられるまで時間に気づいてなかった。
開いてたテキストを鞄にしまい、慌てて準備をする。
「おっとと……雫、行ってくるね」
そして、写真立てに写る、泣き顔の雫に行ってきますと挨拶をする。
写真立てに写る、小学6年最後の日の私と雫。
その涙が、あの日の最期の別れを思い出させる。
でも、だからこそ思うんだ。
あの日、雫に会えて、過ごせた1日は、間違いなく最高の思い出なんだって。
結局、手元に残った写真は、この写真だけだ。
でも、この写真も結構いい感じだと最近はよく思う。
だって――最期のあの日も、雫はこんな顔でたくさん泣いてたから。
だから、この写真を見ると、あの夢のような1日を思い出せるんだ。
――もう、亜季ちゃん趣味悪い――
そんな声が聞こえそうだった。
「はは、ごめんって」
「亜季!ほんとに遅刻するわよ!!」
「あ、はーい!じゃあね雫!」
一人の女の子の、短く散った人生。
でも、彼女がもたらした奇跡は、私たちに深く刻み込まれた。
「いつか――もう一度。会えたら、いいね」
空に向かって、雫に問いかけた。
Fin
ご無沙汰しております。桜宮です。
ありまさんの月餅企画に参加いたしました。ありまさん、ありがとうございました。
作品中の時間も10月6日に合わせたほうがよかったのですが、物語の内容的に、お彼岸の辺りに合わせました。
もしも、神様がいたとしたら。
そんな「もしもの願い」を、雫が願ったに違いない、両親と、大好きだった友達との再会に込めました。
意識してるわけではないのですが、最近は死別をテーマにすることが多い気がします。
いつかは、その時は訪れる。
でも、もし1度だけ、生き返れるなら?
もし、死んだ人に、1日だけ会えるなら?
死への忌避感というよりも、会えない人にもう一度会えるなら、という、そんな願いを叶えてあげたいという気持ちで書けた気がします。
読了、ありがとうございました!




