2.再会
いよいよ日曜日。
雫と待ち合わせの日になった。
なにせ4年ぶりの再会。
あの時、最後に別れた時はお互いに小学6年生。
まだまだ子供だったように思う。
でも私は頑張ってファッションの研究をして、今通ってる高校でもオシャレでナウい(お母さんに「なんでアンタそんな古い言葉知ってんの?」って驚かれた)女子高生。
だからお化粧も普段より念入りにして、着ていく服も何通りも考えておいて……
と、一番可愛い組み合わせをシミュレーションしてるところなんだ。
「えっと……今何時?……って、ええ!!?」
ふと部屋の時計を見ると午前10時をちょうど過ぎたところ。
そう、雫との待ち合わせの時間を、たった今過ぎてしまっていた。
「え、ええーん!し、雫との待ち合わせなのに……私のばかぁ!」
ちょうど手にしていた服に着替えて、待ち合わせ場所に急いだ。
不幸中の幸いか、待ち合わせ場所は最寄り駅だから、走ればそんなにかからない。
雫がこっちに来てくれるってことになっててよかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……あー、着いた……し、死ぬ……」
腕時計を見ると、今は10時20分ごろ。
雫、怒って帰ってないかな……
と心配してると、息を切らす私に、背後から声がかかった。
忘れられない、凛とした声。
4年前、泣きながら別れたあの日。
「亜季、ちゃん?」
振り返った先には
「――雫!!」
雫が変わってたら気付けるかどうか、内心、ドキドキしてた。
私も相当あの頃から変わったと思うけど、雫はどうなってるだろう。
そんな思いを振り払って後ろを向くと――
そこにいる雫は
少し身長が伸びて、髪も綺麗に伸びてて――
でもやっぱり、一目でわかった。雫は雫だった。
「うう……亜季ちゃん……」
「……はっ!」
勢いあまって、つい雫に抱き着いてしまってた。
嬉しさのあまり舞い上がってた私は、雫の声に我に返った。
「あの……ちょっとだけ、恥ずかしいよ……」
「あ、ご、ごめん!距離感バグってた!?や、嬉しすぎてつい……」
慌てて抱きしめてた両手を離すと、雫が恥ずかしそうに言った。
「もう……でも、そんなに喜んでもらえて嬉しい」
「嬉しいに決まってるよぉ!ずっとずっと会いたかったんだもん!」
私がそう言うと、なぜか涙を流す雫。
「え、雫?大丈夫!?ど、どこか痛い!?」
「ううん……ちがうの……ちがうんだ……ただ……やっぱりうれしくて……」
「雫……」
「亜季ちゃんが、私の予想を超えたギャルになってて……」
「え、えええ!?な、泣いてるのそこ?わ、私そんなギャルじゃないよぉ!?」
「なんてね」
まだ涙で濡れた瞳を隠すかのように、「冗談だよ」と言っているみたいだった。
雫なりの照れ隠しなんだろうなって分かって、私も気にしないようにした。
「ふふ……雫ってば」
嬉しいのは、私もなんだから!
それから私たちは、いろんな場所に行った。
雫は身体が弱くてあまり外で遊んだことがなかったからか、身体が頑丈なことだけが取り柄の私には普通のことが、雫にとってはそうじゃなかったことなんて、たくさんあって。
カラオケ、買い物、ファストフード店、ゲームセンター。
雫と初めて一緒に歌うのは、緊張したけど、ものすごく楽しくて嬉しかった。
雫に好きなアイドルがいるのも、カラオケの時に知ったし。
真っ赤になって照れる雫が可愛かったなぁ。
あとは、イヤリングとか、私が使ってる百均コスメとかを見て回ったり、雫におねだりされて、雫にお化粧をしてあげたりもしたよ。
「ほら、完成。これが神代亜季流メイク術」
「おぉ……すごい、亜季ちゃんみたいにギャルになっちゃった」
「もう、ギャルは置いといて」
ただ――
記念写真撮ろう?って誘ったんだけど……
悲しそうな顔をした後、また後でね、って雫に言われて。
写真撮るのに抵抗あるのかな、って思って、何もそれ以上は言わなかった。
でも雫はメイクを気に入ってくれたみたいで、その後もそのメイクのままで一緒に遊んだんだよ。
ご飯はハンバーガーにしたんだけど、雫は初めて食べたみたいでね。
すごく感動しながら食べてて、それがめちゃくちゃ可愛かった。
「ねぇ雫。雫のハンバーガー、ひとくちちょうだい?」
「……やだ。全部私が食べるんだもん」
「えぇ、けちー。せっかく『交換こ』できるのになぁって思ったんだけど……」
「そ、それは……あ、亜季ちゃん、ずるい……」
「えへへ、ほら、私の、パクってしていいよ」
「じゃ、じゃあ……亜季ちゃんも、私の、ぱ、パクってして?」
そうやってお互いのを交換こして、「そっちもおいしいね!」とか言い合うのが楽しい。
「……雫と、こういう風に食べるのが夢だったんだ」
「……っ!わ、私、も!私も、夢だったよ!」
「ふふ……はい、ハンカチ」
「……ありがと」
今日の雫は、少し涙もろい。
まぁ、それは私もかもだけど。
その後ゲーセン行った時も楽しめたよ。
雫が意外と太鼓のゲームが上手くてびっくりだった。
雫自身も驚いてたけど。ふふ。
二人でドンドンと曲に合わせて叩いて、楽しかった。
クレーンゲームは私が得意だったから、雫にぬいぐるみを取ってあげたら、めちゃくちゃ喜んでくれた。
そんなに喜んでくれたら、私も嬉しいよね。ほんと。
だから、記念にどうしてもプリクラを撮りたかったんだ。
雫と過ごした、こんなに楽しかった思い出を残したくて。
――でも。
「ね?行こうよ、プリクラ」
「……プリクラって……鏡が、あるんだよね?写真みたいなのが、出来上がるんだよね?」
「……?うん、そりゃそうだけど……ひょっとして、さっき写真の時に言ってたことと関係あったりする?」
雫が、肩を震わせて泣いてる。
大粒の涙が、いくつも彼女の瞳から零れ落ちていった。
「ごめんなさい!……私も、私だって、亜季ちゃんと写りたいの!でもダメなの……」
「雫……ごめん、私こそ軽率だった。こんな気持ちにさせたい訳じゃなかったのに」
「ううん、ちがうの……ちがうの……」
ただ泣きじゃくる雫を、私はただ抱きしめてた。




