1.幼馴染
秋の爽やかな風が窓から入り込む。
毎年のように続く酷暑はますます勢いを増していったけど、9月の末にもなるとようやく涼しさが訪れてくれた。
「――わっ!か、風つよっ!」
部屋に入り込む風でカーテンが揺れて、その拍子に1枚の写真立てを倒してしまった。
慌てて写真立てを元に戻すと、どうやらどこにも傷はついてないみたいで安心した。
「ふぅ……危ない危ない……雫ちゃん、今どうしてるかな……?」
写真に写るのは、小学生の卒業式の日に撮った、私ともう一人の女の子。
私と雫は小さいころからめちゃくちゃ仲がよくて、いつも一緒に遊んでた。
とはいえ、雫はあんまり体が強い子じゃなかったから、たいていは雫の家で遊ばせてもらってたけど……。
ずっとずっと、一緒に遊べて、学校に行けるんだって。
その時は、私も雫も、そう信じてた。
でも卒業式の日に、病気の治療に専念するからって、遠くに引っ越すことを聞いて。
雫も泣いてたけど、私もぎゃんぎゃん泣いて……
だから、この写真に写る私と雫の目は赤くパンパンに腫れたまま。
シャッターを切る私たちのお母さんたちも、つられて泣いてた。
泣き笑いみたいな顔で写ってる私と雫を見て、無性に彼女に会いたくなった。
そんなことを考えていた翌日、母から衝撃的なことを知らされた。
朝ごはんを食べて、食器を下げていた時だった。
「ねぇ亜季、坂上雫ちゃん覚えてる?」
「へ?も、もちろんだよ!写真飾ってるくらいだし。急にどうしたの?」
「それがね……ゆうべ、雫ちゃんのお母さんから久しぶりに連絡があったの。そしたら、1日だけこっちに帰ってくるみたいだから、雫ちゃんが亜季に会いたがってるって……」
「ほ、ほんと!?」
「お母さんもね、小学校卒業して別々になって以降、連絡は取り合ってたんだけど……ここ何年かは忙しかったのか、全然連絡も取れなくてね。だから急に雫ちゃんのお母さんから連絡が来て、びっくりしちゃって……」
雫が、この町に帰ってくる。
小学校の卒業式で泣き別れた彼女を思い出す。
細くて小さくて、病弱で外に出られなかった雫。
たまに調子がいいときは、体育も参加できてた。
でも、本当に調子が悪いときは入院するしかなくて、私は病室にいる雫によく会いに行っていた。
苦しそうな顔で寝込んでる時もあったし、症状が落ち着いて、笑えてる時もあった。
幼いながらも、私は雫の大変さを痛切に感じていた。
でも――それでも雫は、自分の体を呪うことなく、前向きに生きてた。
そんな雫に、あれから4年たった今、会える。
たった4年しか経ってない?
――ううん、もう4年も経ったんだ。
あの頃私たちはまだ小学生だったから、結局雫とはSNSのアカウントを交換することもできなかった。
「今どうなってるんだろうな、雫……」
今度の日曜日に来るみたいだと言われ、その日を待ち遠しく感じながら過ごしていった。
ただ、母が言っていた
「でもね……雫ちゃんのお母さん、電話口ですごく泣いてらして……雫ちゃんに何かあったんですか、って聞いても、いいえ、大丈夫なんです、どうか会ってあげてくれませんか、って」
「え……?」
今思えば、この時から始まってたんだって分かる。
でもその時の私も、そして母も、状況が分からず――
ただただ、雫への気持ちが募っていった。




