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全能視覚の冒険者  作者: 囹圄
第一章『追放と絶望』
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第六話 全能視

 レンの返答を、ソフィーナは小さく溜息を吐きながら肯定する。


「その通りです。その男が宣託官となってから破門されるまでの約十年の間に、だいたい三百人ほどに宣託を下しました。今回の事態を重く見た教会は、その全員に宣託のやり直しをしてもらうことを決定したのです」

「それであんたが派遣されてきたわけね」

「はい。三百人中の八割程度が定住民ですので、彼らへの再宣託は遺漏(いろう)なく行われる予定ですが、問題はレンさんたちのように住居が定まらない人たちです。教会は数名の上級宣託官に命じ、残り二割を捜し出し〝天分(ギフト)〟の確認を行うことにしたのです」


 ここまで話を聞き、レンはようやく女の目的を理解した。


「聖庁からはるばるご苦労さま。でも、オレの宣託は間違っていなかったと思うよ?」


 微苦笑するレンに、ソフィーナは首を傾げる。


「何故そうお思いに?」

「だって、実際にオレは〝遠見〟の〝天分〟を使ってきたんだ。つまりそういうことだろ?」

「いいえ。それだけで宣託が正しかったと判断するのは早計(そうけい)です」


 今度はレンが、怪訝(けげん)な顔を浮かべる。


(くだん)の宣託官によって伝えられた、誤った〝天分〟と本当の〝天分〟は、共通点も多いのです」


 そういえば、最初に訴えた商人の長男の本当の〝天分〟も、間違ったものとの間に相似点があったと言っていたとレンは気付く。


「つまり、本当の〝天分〟は、今の〝天分〟と似ていても、もっと優秀な能力である可能性があるってこと?」

「はい。だからこそ――」


 ソフィーナが相貌(そうぼう)を大きく見開き、レンはギョッとする。


「あんた、その目……」


 彼女の青い瞳の上に、教会の象徴である金光芒のシンボルが浮かび上がっている。


「上級宣託官のこの瞳で見極めさせていただきます」


 そう言ってソフィーナは、微かに身を乗り出しレンを凝視する。

 レンは緊張に身を硬くしつつ、グビリと喉を鳴らす。

 そのまま二十秒ほどが経過し、レンは身じろぎひとつしないソフィーナに声をかける。


「…………あ、あの……まだ?」

「………………終わりました」

「お! そ、それで――」


 身を乗り出すレンを、ソフィーナは右手を挙げて待つよう促すと、目を閉じ眉間(みけん)()みほぐす。

 どうやら〝人見〟の〝天分〟とやらを使うとかなり眼が疲れるらしい。

 目が細いと思っていたのは、無意味に〝天分〟を使わぬためだったのかもしれないとレンは思う。

 ソフィーナは深く息を吐くと、丁度後ろを通りかかった給仕の女からトレーをひったくり、頭上に(かか)げて(さじ)で打ち鳴らしながら声を張る。


「大当たりぃぃぃい! おめでとうございまぁぁぁす!」


 そう言ってガンガンと音を鳴らすソフィーナに客の視線が集まり、くじでも当たったと思ったのか、何人か釣られて拍手をした。


「ちょ、ちょっと! なにやってんの!」


 レンが(たしな)めると、ソフィーナは困惑して立ち尽くす給仕に小さく謝りながらトレーを返し、ヘラヘラ笑いながらレンに向きなおる。


「いやあ、思いがけず大当たりだったもので、なにかそれっぽい演出があった方がいいかと思いましてぇ」

「だからってそんな……(ざつ)に祝われても」


 せめてクラッカーを事前に用意しておくとかできなかったのかとレンは思う。


「それで、当たりっていうのはつまり、〝天分〟が違ってたってこと?」

「はい、そうです」


 別の〝天分〟だったとして、〝ハズレ〟ではなく〝大当たり〟と言ったということは、〝遠見〟よりも良いものだったということだろうか。

 期待を膨らませるレンに、ソフィーナは厳かな口調に戻って告げる。


「我らの神がその大いなる御心によってあなたに授けし〝天分〟は…………〝全能視〟です」

「ぜんの……?」


 首を傾げるレンにかまわず、ソフィーナは続ける。


「呼び名の通り、あらゆる事象を〝()〟通す力です。どんなに離れた場所であろうと、あるいは過去や未来の出来事だろうと、あなたは望むままにすべてを視ることができるでしょう」

「か、過去や、未来だって?」


 一瞬、自分はからかわれているのではないかと、レンは(いぶか)る。

 しかし、今のソフィーナには、酒場へやって来た直後のようなふざけた様子は見られない。


「ほ、本当に?」

「はい。〝遠見〟というのは、〝全能視〟のごくごく一部の力です。レンさんには、本来授けられたものとは比較にもならぬほど卑小(ひしょう)な力を〝天分〟として伝えていたのです。教会の監督が行き届いていなかったがゆえに、あなたの持つ可能性をこれまで大きく損ねてしまっていたこと、(つつし)んでお詫び申し上げます」


 (うやうや)しく頭を下げたソフィーナに、レンはかえって恐縮する。


「あ、頭を上げてよ。べつにあんたが悪いわけじゃないでしょ? むしろ、定住もせずふらふらしているオレを捜して、遠路はるばるやって来て本当の〝天分〟を教えてくれたことには感謝してるよ」


 そう伝えると、ソフィーナは二ヘラと表情を崩す。


「レンさんはお人好しですねぇ」

「そ、そうかな。でも、ちょっと信じられないよ。本当にそんな凄そうな〝天分〟なの? 過去や未来まで見通すとか言ってたよね。今までそんな能力、片鱗(へんりん)さえ感じたことはなかったけど」

「〝天分〟の使い方が間違っているのです。〝遠見〟を使う時、魔力の流れを意識していますね?」

「うん。目に魔力を集中させるようにしてる」

「それです」


 ソフィーナはレンの目を指差す。


「〝全能視〟は視力を強化する能力ではありません。()()を〝視る〟という感覚に変換して取得する〝天分〟なのです」


 そう言いつつソフィーナはゆっくりと腕を持ち上げ、指先をレンの(ひたい)に固定する。


「実際に〝見る〟わけではないので、目に魔力を注いでも意味はありません。情報を認識するための器官、つまり脳に魔力を流すのが正しいやり方なのです」

「の、脳に? でも〝遠見〟は目に魔力を流して使えてたよ?」

「目は脳に近いですからね。下位の能力ぐらいなら使えたのでしょう」

「そういうことなのか」

「では早速〝全能視〟を使ってみましょう」

「え? 今、ここで?」

「はい。正しい〝天分〟を使うのを見届けるところまでが私の役目ですので」

「そ、そっか。わかったよ」


 レンは目を閉じ魔力の流れを意識する。

 魔導士系の職に就いている者ほどではないが、〝天分〟の行使に必要である以上、魔力操作はそれなりに手慣れている。

 身の内を血流のように巡る力が、頭頂部へ向かうようイメージする。


「ん……こんなものかな。それで、ここからどうする?」

「ではまず、これまでの〝遠見〟では見えなかった、さらに遠方を視てみましょう。そうですね、〝遠見〟と区別するために、この能力は〝千里眼〟とでも呼びましょうか」

「〝千里眼〟か……それで、どうやるの?」

「やり方自体は〝遠見〟とそう変わりません。どこか特定の場所を視たいと望んでください。ただ、〝()る〟のではなく、〝()る〟ということを強く意識してください」

「なんか、難しいな」

「それと、これまでとの違いを実感してもらうために、対象は遠くの街がいいでしょう」

「遠くの、街……」


 ソフィーナの言葉を復唱しながら、レンは二カ月前まで活動拠点にしていたジョリアという街を()()()と意識する。


「うっ」


 目を閉じているにもかかわらず、目眩(めまい)に似た感覚を覚え、椅子から落ちそうになり、テーブルに手を着いて身を支える。


「な、ん――」


 閉じていた目を開いた瞬間、驚きに息を呑んだ。


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