#004
「十六夜ちゃん! 十六夜ちゃんじゃないかい!?」
品のある初老の男性がレイ達に声をかけた。
「なんだよ、今俺たちは取り込んでて……ってマスターじゃないか!?」
「久しぶりだね十六夜ちゃん、急に店に来てくれなくなって心配してたんだよ」
「ロマリアに店を構えていたマスターがなぜ観桜界に?」
不審げに眉をひそめ警戒を強めるユージン。
「坊ちゃんもご一緒でしたか、なに妻に先立たれましてね、気が付いたらこちらに流れついていたのです。まぁ種族の壁というものですよ」
ユージンとは対照的に素直に再会に喜んでいる様子のレイが、マスターと呼ばれている人物と話している。
「情報通のマスターが観桜界にいるなら頼りになるな。俺達さこの辺りで寝床を探してるんだよ」
「待て十六夜、彼が本物のマスターとは限らんだろう」
「大丈夫だって、六百年たってるけどマスターの固有マナの周波数が変わってないから本人だよ」
「しかしだな……」
「坊ちゃん、相変わらず疑り深いところは変わりませんなぁ。ではこうしましょう……初めて坊ちゃんがお酒を飲んだ時に何をしたのかというお話でもしましょうか」
「ま、待て!分かった本物だ、十六夜がこういうのだから間違いないだろう」
美琴がやや呆れたような、困ったような何とも言えない表情でユージンを見上げた。
「一体何をやらかしたんですか……?」
「やれやれだぜ、これだから酔っぱらいは……なぁ美琴?」
「十六夜! 貴様だけには言われたくないぞ!?」
「俺は酔いつぶれたりしないからなぁ……どこかの誰かさんと違って、ちゃーんと自分の酒量はわきまえてるぜ?」
二人の口論をマスターが諫める。
「まぁまぁ、それより寝床を探してるんじゃなかったのかい?うちの店の二階で良かったら部屋が余ってるよ」
「お、助かる! マスターの店なら情報も集まるし、昔ロマリア帝国にいた頃にも下宿させてもらってたしな。ユージンからの借金を返すために店の手伝いもさせてほしいし」
「十六夜ちゃんなら即戦力だからね、ちょうど人手が欲しいと思ってたんだよ。それじゃあ私の店に向かおうか、すぐそこの夜空の金糸雀亭って店だよ」
一行はマスターの案内で彼の店へと向かった。
*夜空の金糸雀亭にて*
「……なるほどねぇ、こちらのお嬢さんが次の巫女様の候補と……こんな幼い子がね」
「と、遠山美琴です。母には及びませんが精一杯尽力します!」
「これはどうもご丁寧に、私はマスター=アルベルドと申します。勘違いされがちですがマスターという名前なのですよ」
店の内装を眺めていたレイが椅子に座る。
「へぇ当時と同じ内装や配置にしてるんだなぁ……これなら勝手も分かるしマスターがいなくてもワンオペで回せそうだな」
「ははは、その必要はないよ十六夜ちゃん。もう一人看板娘の従業員がいるからね」
マスターが紅茶の入ったカップを人数分テーブルに並べた。
「マスターさんは十六夜さん達とはどんな関係だったんですか?」
「二人は私の店のお得意様だったのですよ、巫女様」
「まぁ俺とユージンはよくマスターの店でだべってたんだよ」
「……ふっ、そのようなこともあったな」
「酔っぱらい相手に大乱闘の大立ち合いをしたこともあったよなぁ」
「全く、始末書を書かされた私の身にもなってみろ、酒場で乱闘などベタなことをやってくれたものだ」
「あの時の十六夜ちゃんは生き生きとしていたねぇ」
「十六夜さんって結構やんちゃしてたんですね」
「やんちゃの一言で済ませるな!」
ユージンの悲痛な叫びが店内に響き渡った……




