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#003

「ひとまず五万コルド程渡しておこう。大丈夫だとは思うが……無駄使いはせぬようにな」

「今までに俺が無駄遣いしたことがあったけか?」

「孤児院や教会に多額の寄付はしていたがな」

「いやあれは無駄遣いじゃなくて投資というか支援というか……ほら、ああやって恩を売って置けばいざと言う時に匿ってもらえたり、色々な情報を教えてもらえるんだよ。特に教会なんかは旅の巡礼者が多いからな」

「全く、お前は神聖なる場所をなんだと思っているのだ」


 レイはユージンの言葉の意味が分からない、とでも言いたげな様子で首を傾げる。


「無料で寝泊まり出来て、飯が食える場所だろ?」

「……十六夜、貴様本気で言ってるのか?」

「昔、俺の師匠が言ってたんだよなぁ。『弟子くんが神様の存在を信じられないというのならそれでもいいけど、人前では敬虔な信者のように祈る振りをしておきなさい。めちゃくちゃコスパがいいから』って」

「な、なんと言う人物なのだ……」

「その師匠も一応聖職者というか神に仕える身ではあったんだけどなぁ……」

「……代々空亡の封印に関わりながら、神様に仕えてきた一族である遠山家のあたしとしてはかなり複雑な気持ちになりますね」


 美琴が少し困ったような様子で苦笑を浮かべる。


「どちらかといえばあたしは十六夜さんとは正反対の考え方ですかね……例えどんな悪人や罪人であっても、人の心には良心という名の神様がいると思っています」

「……良心を持たぬ者はもはや人に非ず、それは人の形をした異形である。ってやつだな。よく俺の師匠も同じことを言ってたけか……案外あいつの教えはよく覚えてるもんだな」

「思い出に浸るのも結構だが十六夜、これ以上暗くなる前に人里に向かい、用事を済ませておいた方がよかろう」


 どこか遠い所を眺めながら、思考が追憶の波へと沈み始めたレイにユージンが声をかけ、現実へと引き戻した。


「っと悪い悪い、それじゃあパッと行きますか」


 *数分後*


「おーここが人里かー」

「うむ、花筏の里だ」

「花筏って散った花びらが水面に集まって流れる様子ですよね」

「お、美琴は博識だなっと……なるほど花筏ね」


 レイの視線の先には里の中央を走る川へ向けられている……川の水面に散った桜の花びらが敷き詰められ、まるで浮いている橋のようにも見える。


「……ふむ、今は風が弱いからな。あれでは花の浮き橋だな」

「おいおい将軍、無理に美琴に対抗して花と水面にまつわる言葉を使わなくていいんだぜ?」

「そんなつもりはないのだが……それでまずはどうするのだ?」

「んー? やっぱり雨風をしのげる場所は大切だよなぁ……なぁ将軍、この辺りに宿とか下宿できる場所に心辺りがあったりはしないよな?」

「無論だ、私がそのようなことを知るはずがなかろう」

「そもそも観桜界で宿を営業している人や下宿先を提供している人がいるんでしょうか?」

「……やばい、アテが外れた。人間がいる場所に向かえば寝床なんてすぐに見つかると思ってたんだけどな」

「……最悪、野宿という方針も視野に入れておいた方が賢明かもしれんな」


 ユージンの発言にレイが呆れたような表情を浮かべた。


「将軍、あんたは何を言ってるんだ? 美琴は年頃の女の子だぜ?」

「野宿をするのに性別は関係なかろう」

「オーケー、俺は嘘を吐くのが苦手だ。だからはっきり言うぜ? 一度病院へ行こう……頭のな?」

「私は至って正常だ」

異常(アブノーマル)な奴はみんなそういうんだ。俺が一度あんたを分解してメンテしてやろうか?」

「私の中枢神経は生身だ。機械化しているのは心臓(リアクター)だけだ」

「嘘をつくなよ、四肢も機械化してただろう」

「これは義手と義足だ……確かに兵器として機能するには動力源であるリアクターからの供給が必要にはなるが」

「やっぱ機械じゃねーか、だいたい精密機器(自分の手足)を魔導洗浄機に突っ込んで水洗いするような奴の頭が正常だとは思えないね」

「それを言うなら貴様が考案した魔術論もまともではないだろう!」

「ふ、二人とも少し落ち着いてください……」


 突然口論を始めたレイとユージンの様子に焦りながらも仲裁に入ろうとする美琴。そんな三人の元に近寄る人影が一つ。

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