ご苦労様です
車内が静まり返った後は、誰も話す事は無かった。
最低限の会話はあった。
しかし、雑談をしようとする者は一人も居なかった。
疲労が溜まっていたのもあるかもしれない。
道中では、運が良かったのか
もどきに遭遇する事は無く
小休憩を取りながら3日後、[ニセクロ王国]に到着した。
王国と呼ばれていたのなら
人々が多く暮らし国は栄えていたのだろう。
だが、今は見る影もなかった。
建物は崩壊し、人の気配はない。
そして、飛散した血痕。
あくまでも推測だが、人々は
国を守ろうともどきに対抗したのだろう。
結果は、現状が物語っている。
敗北したのだ。
この光景を見た のこじは
目を瞑り合掌した。
助ける事は出来なかった。
だが、少しでも安らかに眠れることを祈って。
のこじに、出来る事はこのぐらいしかないから。
「やっと、辿り着きましたね。
のこじさん、あの城が見えますか?
あの城に向かいましょう」
ショウロは、高く聳え立つ城を指さした
いつまでもここに居ても仕方ないので、一同は城に向かった。
城の目の前まで来た。
城門は、開いている。
中に入ろうとすると
中から血生臭い匂いが漂ってきた。
[カキシ村]の防具屋と同じだ。
この匂いを嗅ぐのは二回目だが慣れない。
城内に足を一歩踏み入れると
まばゆい光に包まれた。
「な、何だこれ」
のこじは、何が起こったのか
ショウロに聞くため後ろを振り返った。
のこじの表情を見たショウロは笑い始めた。
「プッ。ぎゃははははははは。
あぁ、すいません。
あまりにも間抜けな顔だったもので」
ひとしきり笑うと、今まで見た事がない程
冷酷な目をしていた。
「なぁ、ショウロ。
そろそろ、殺っちまって良いか?」
ショウロの隣で一部始終を見ていた
アイラが、意味不明な発言をした。
殺る?のこじを?
状況を全く呑み込めない のこじ。
冷酷な目をしているショウロ。
殺意むき出しのアイラ。
大人しいもどき。
ピりつく空気。
沈黙を破ったのは、のこじ だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。
殺す?俺を?
冗談だよな?
それに、さっきの光は何なんだ?
教えてくれよ!!」
のこじは、今何が起きているのかを問うた。
それと、殺すと言われた事が何かの間違いだと思いたかった。
ショウロは、「はぁ」と溜め息をつくと
めんどくさそうな表情で説明し始めた。
「アイラさん、殺すのはダメですよ。
のこじさんは、生きて返す必要があるので。
まだ利用価値があるんですから」
その言葉を聞いたアイラは
つまらなさそうに、殺意を抑えた。
「のこじさん。
さっきの光は、オンラインゲートが開いたんです。
この《イーターきのこの世界》と貴方の世界を繋いだんです。
私が、貴方をここに連れてきたのはその為です。
名前に『きのこ』が入った人しか開けれないので。
利用させて貰いました。
これが、私が貴方を選んだ本当の理由」
予想外の回答に理解が追い付かない。
世界を繋いだ?
何を言ってるんだ。
ゲートを開ける為に、のこじを選んだ?
ショウロの言っている事が意味不明だ。
だが、一つだけ理解出来た事がある。
それは、あの話が本当なら
取り返しのつかない事をしてしまったという事。
それに気づいた のこじの顔が、みるみる青ざめていく。
そして、膝から崩れ落ちた。
「そう、その顔ですよ。
私は、ずっとその顔を見たくて
貴方をサポートし続けました。
絶望した人の顔を見るのは初めてですが
何て気持ちが良いんでしょう。
例えるなら、そう。
空っぽだった器が満たされる感覚です」
先程の冷酷な表情とは裏腹に、喜色満面になっていた。
それを見た のこじは、「狂ってる、、、」と呟いたのだった。
「ショウロ、一人だけ楽しんでてズルくね?
あたしにも楽しい事させろよ。
殺すのがダメならさ、
手足の一本や二本ぐらいなら切り落として良いよな?」
アイラが、頭の後ろで手を組みながら
ショウロに対し発言した。
その言葉を聞いた、ショウロは
後ろを振り返りアイラに向かって
呆れた表情を向けた。
「アイラは、ほんとに殺す事しか頭にないんですね。
私が、配置していない宿屋には居るし。
だから、貴方を見張る為に私は
姿を隠して、のこじさんの前に現れたのに
特殊な眼鏡で私を視認したり、、、」
ショウロは、抑えていた感情を吐き出し始めた。
先程から、二人は前からの知り合いのような感じだが。
のこじは、まだ立ち直れていないようだった。
が、ショウロの長い吐露の間に
震えた身体で立ち上がり
「アイラ、お前は一体何者なんだ?」
ずっと自身の中で、抱いていた疑問をぶつけた。
「きのこだよ。それも幹部な」
アイラは、あっさりと答えた。
今更、隠す必要もないという事か。
知られた所で、何も出来ないと分かっているからか。
それとも、強者の余裕からなのか。
まぁ、どれにせよ のこじ に出来る事は無い。
「長々と話しすぎましたね。
のこじさん、そのゲートを通れば
元の世界に帰れますよ。
その為に、今まで頑張ってきたんでしょう?」
確かに、ショウロの言うとおり。
元の世界に帰る為に、のこじは
命懸けで戦ってきたのだ。
だが、本当にこのゲートを通って良いのか?
何か嫌な予感がする。
そう感じる のこじだった。
今の現状は、最悪だ。
だが、このゲートを通る事で
最悪の最悪になる予感がする。
きのこの世界と現実の世界が繋がっているなら
何故、二人は通らないのか。
もしや、ゲートが開いただけで
まだ繋がってはいないのかもしれない。
そう のこじは、考えた。
しかし、ゲートを通らなければ
二人を相手にする事になる。
二人を相手にして勝算は0だ。
ショウロは、何でもありのAI。
アイラは、未知数。
選択肢は、あるようで無い。
生き残る為には、前者を選ぶしかない。
のこじは、生き残る為に前者を選んだ。
例え、その選択で世界が危険に晒されてもだ。
「俺は、生きる為にゲートを通る」
そう言い放ち、のこじ はゲートを通った。
「これで、全ての準備が整いました」
のこじの、背中を見ながらショウロが
意味深な発言をした。
~現実世界~
2025年5月8日(木)
時刻は7:00
のこじ改め木野 康介は
無事に元の世界に帰ってきた。
「何か忘れてる気がする」
テレビを観ながらポツリと呟いた。
テレビでは、《イーターきのこ》の発売が取り上げられていた。
今回で17話目になりますが
やっと、序章が終わりました。
ここからが本当の始まりです。
今回のラストは、王道ではありますが
予想外の展開だったのではないでしょうか。




