第1話 任命、そして任務へ
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「『…詠月命、貴殿を陰陽連直属の陰陽師として任命する』…か」
1枚の紙を見つめながらそう言って、ほんの少しだけ面倒そうな顔を浮かべる男。名を『詠月 命』という。彼は元々、ひっそりと陰陽師としての活動を続けていた人間である。本来、陰陽師を名乗っていいのは陰陽寮から任命された者のみなのだが、命はそれが本当に嫌だった。やりたくも無い任務にも行かされ、行動や使っていい技も制限される、と不自由になることを心から嫌っていた。誰よりも自由を目指す彼は陰陽連に見つからないように活動をしていたのだが…数日前、町を襲った危険度の高い呪いを祓う際に強い式神を使用してしまった。呪力の高い式神を使ってしまったことにより、強い式神を使役する陰陽師がいる、とバレてしまったのだ。が、まさかここまで早く見つかるとは。さすが陰陽寮と言ったところか。
なんて感心している場合では無い。この紙が届いてしまった、それは今までひっそり自由な暮らしから、堂々不自由な暮らしへと変わってしまうことを意味する。何度が破り捨ててやろうかと思ったが、紙に呪力が込められていることに気付き、何が起こるかも予測出来ないためやめた。
「…行くしかないよな…はぁ…あの時、助けなきゃ良かったのかな」
なんて呟いてしまう。しかし、直ぐに首を横に振ってから
「…仕方ないよね、助けを求める人がいるなら助ける、普通のことだ」
と自分で答えを出した。重い腰をあげゆっくりと立ち上がると、着替えて準備をする。陰陽寮に行くのは乗り気では無いが、任命されてしまったのならば仕方がない。任命されたからには頑張ろう、その思いを胸に、陰陽寮へと向かった。
「早速で悪いんだが、君に任務を頼みたい」
到着してわずか数分。陰陽寮のトップ、陰陽頭にそう言われた。任命されて早々任務とは、陰陽寮はもしや人手不足なのか…なんて考えていると、陰陽頭は続けて
「…少し前から、陰陽師達が消息を絶つ事件が起こっている、その調査を行って欲しい」
と告げられた。陰陽師達が?消息を絶つ?そんな事件が起こっていたなんて知らなかった。知るはずもないのだが。
「陰陽師達が消息を絶つ?詳しく聞かせてください」
「…事件が起こったのはひと月ほど前。任務に出ていた3級の陰陽師が行方不明になった。依頼者と同行中の事だったそうだ。…依頼者の目撃によると、『謎の穴に吸い込まれていった』らしい」
謎の穴。そこに吸い込まれるとどこかへとワープする…いや、そんな単純なものなら呪力探知で今頃見つかっているはずだ。そうなると…
「別の世界に繋がる穴へと吸い込まれた…ということでしょうか」
「その可能性が1番高いだろうな」
なるほど、陰陽頭もそう考えていたか。まぁその考えに行き着くのは妥当なのかもしれない。と、ふと質問を投げかける。
「…他の陰陽師達はその穴の調査には出ていないのですか?」
陰陽頭が言葉に詰まった。まさか…と嫌な予感がした
「…この調査に出たものは誰一人として帰ってきていない…十二天将すらもだ。そして…現状、この世界に陰陽師は君しか残されていない」
そう告げられた僕は、この事件がとんでもなく大きな事件であることを改めて認識した。元々数は少なかったとはいえ、まさか全員が消息不明だとは思っていなかった。これは想像以上に大変なことになったぞ…
「…頼む、命よ、いきなり危険な任務を頼んで申し訳ないとは思っている。ただ、もう頼れるのが君しかいないんだ。…引き受けてくれないか?」
そう頼まれてしまっては仕方がない。僕は陰陽頭を真っ直ぐに見つめながら答えた。
「…任せてください。陰陽頭直々の任務、引き受けさせていただきます」
とは言ったものの。どうしていいかは分からない。どうすれば穴が出てくるのか、それは陰陽頭も分かっていないのだから。だから僕は、最後に陰陽師の1人が消息を絶った場所へと向かった。特に何の変哲もない森の中。なんだか大声で歌いたい気分になってくる。なんて考えていると不意に足元に穴が現れた。考え事をしていたせいで落ちそうになるも咄嗟の反射神経で飛び退いた。
「…これが穴か…確かに入ったら帰ってこられなさそうだね」
と少し冷静に分析する。どこに繋がっているのかも分からない穴。行って、どうなるかなんて想像もつかない。それでも、この穴の先で、もしかしたら陰陽師達が助けを求めているかもしれない。そう考えたら体が勝手に動いていた。迷わずに穴へと歩き出し、そのまま飛び込んだ。鬼が出るか、蛇が出るか…もしくはいきなり火の海とかだったらどうしよう、なんて考えながら穴の中へと落ちていく。途中で光に包まれたところで気を失ってしまった。
次に目を覚ますと視界に入ったのは…
どこまでも続く青空。白い雲。そして羽ばたくドラゴン。
…間違いなく異世界だった。
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