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学園祭

学園祭当日――。

フローネは天馬の来店をまだかまだかと待っていた。

「ねえ、フローネ。今日はフローネの想いの人が来るんでしょ? どんな人?」

メグミがフローネに尋ねてくる。

「え!? そう言われても……」

フローネは答えに困った。

天馬は黒髪、黒目でこれは月州人に多い形質だった。

「ええと……誠実な人……」

「うーん、性格じゃなくて、外見は?」

キナコが質問してくる。

「えーと……黒い髪で、黒い目をしていて……」

「それって月州人の典型じゃない。もっとはっきりとわかりやすいところはないの?」

メグミが突っ込んでくる。

「そう言われても……」

フローネは答えに窮した。

「いらっしゃいませー! 二名様ですね? あ、チケットをお持ちですか? こちらにどうぞ」

魔女っ子のコスプレをしたウエイトレスが誘導する。

「あっ、教官だ!」

「え!? どれどれ!」

「うーん?」

メグミとキナコが隠れて天馬を見る。

「教官!」

「やあ、フローネ。来てみたよ」

天馬は丸いテーブルに座って言った。

「フローネさん、ご機嫌いかが?」

天馬といっしょに来たのはユーリアだ。

天馬は黒いズボンに白いポロシャツを着ていた。

一方、ユーリアはスカートスーツだ。

「ユーリア大佐……」

フローネはユーリアを見て、胸に黒いわだかまりのようなものを感じた。

この気持ちを、フローネは今まで一度も感じたところがなかった。

そのため自分でも戸惑った。

「? どうした、フローネ?」

天馬が聞いてくる。

「い、いえ。なんでもありません!」

フローネは取り繕う。

ばれてはいないだろうか?

「フローネはメイド服を着ているんだな? それもコスプレか?」

「はい、そうです! ……どうでしょうか?」

「ああ、似合っているぞ。かわいい」

「そんな、かわいいだなんて……」

フローネは赤面した。

さらににへらと心が躍る。

「フフフ……フローネさん、安心して。私と彼は特別な関係ではないわよ」

「そ、そうなんですか?」

フローネは恐る恐る尋ねた。

実のところフローネはそこを気にしていた。

「ユーリア大佐、どういうことですか?」

天馬は疑問に思っていないようだ。

「フフフ……これでわかるでしょ? 彼は鈍いのよ。あなたにアドバイスしてあげる。自分の気持ちをしっかりと伝えなさい」

「は、はい!」

どうやら、ユーリアには天馬を想っていることがばれているらしい。

「それよりも、オーダーを受けてもらえるかしら?」

「はい!」

フローネは笑顔で答えた。

天馬はアイスコーヒーを、ユーリアはカフェオレを注文した。

再び裏幕にて。

「へえー……あれがフローネの想い人……外見は普通ね」

メグミが天馬を評論する。

「でも、あの体の動き……かなり武術に秀でているようだね? 動きに無駄がないもん。それに、けっこう筋肉質だよ?」

とキナコ。

「ふーん、誠実な人、ね。まあ、フローネが好きになる人だから、性格はいいってことかー」

メグミとキナコは天馬を分析する。

フローネはウエイトレスとしてアイスコーヒーとカフェオレを運んだ。

「お待たせしました。アイスコーヒー、一。カフェオレ、一になります!」

「ありがとう、フローネ」

「ありがとう、フローネさん」

二人いはそれぞれの飲み物に口をつける。

「うん、おいしい。百円とは思えないな!」

「天馬君、これはきっといい水を使っているからね。水がいいとなんでもおいしくなるものよ。料理も同じでしょう。水道水ではないわね、違う?」

「はい、そうです。特別にろ過した水を使っています」

「フー……いいわね。おいしいわ。この飲み物を飲むために来たかいがあったわね」

「フローネ、本当に今日は来てよかったよ」

二人が称賛の言葉をかけてくる。

「ありがとうございます。えへへ……うれしいです」

フローネは心から笑った。

天馬が喜んでくれたのなら、天馬にチケットを渡したかいがあったというものだ。

「あ、それと教官?」

「どうした?」

「あの、この後のご予定は?」

「ああ、ほかに用もないし、そのまま帰ろうと思っていたんだが……」

「そうですか……」

フローネは残念な顔をした。

「? どうかしたのか?」

フローネが語り出す。

「あの、私そろそろオフなんですけど、いっしょに校内を回りませんか?」

「え!?」

天馬は大きく目を見開く。

「天馬君、ぜひそうしていきなさい。フローネさんといっしょに校内を見てきなさい」

「しかし、よろしいのですか?」

「フフフ……邪魔者はここで去るとしましょうか。それじゃあ、二人ともまたね」

「はっ!」

「は、はい! ありがとうございましたー!」

ユーリアは一人で席を発っていった。


フローネは制服に着替えて、天馬のもとにやって来た。

天馬は廊下にいた。

「フローネ、クラスを抜け出して大丈夫なのか?」

「はい。今はオフの時間ですし、それに教官といっしょにいたいので……」

「正直、うれしいよ。俺もフローネといっしょの時間を過ごしたかった」

天馬は照れているようだった。

フローネはそんな天馬を見て胸をキュンとさせる。

フローネはときめいた。

脈はありそうな気がする。

「それでは行きましょう!」

フローネが天馬の手を取る。

フローネは嬉しそうに天馬を引っ張っていった。


「フフフ……それにしても地球の人間どもは祭りが好きだな。そうは思わないか、エリファズよ?」

「はっ、ミリアム様のおっしゃる通りでございます」

ミリアムはエリファズを伴いながら、ビルの上から星見学園の学園祭を見ていた。

学園祭というだけあって多くの人々が学園を訪れている。

ミリアムの目に映るのは人々が楽しく笑っている表情。

ミリアムはそう言ったものが好きではなかった。

ミリアムが好きなのは恐怖と絶望で染まった顔だ。

ミリアムはつまらなそうに学園祭を見守る。

「エリファズ、おまえのすべきことはわかっているな?」

「はっ! もちろんでございます!」

エリファズは長い金髪の男性だった。

長身で天馬より背が高い。

「エリファズよ、おまえは魔獣を率いて、あの祭りをぶち壊すのだ。そして阿鼻叫喚の地獄絵図に変えろ!」

「はっ! ミリアム様!」


フローネは天馬をライブに連れてきた。

ライブはバンド部が行っていた。

ギターの音がリズミカルに響き渡る。

「みんな、乗っているかー!」

「おおー!」

「みんな、楽しんでいるかー!」

「おおー!」

ボーカルの声がマイクで大きく伝わる。

「意外だな。フローネは音楽が好きなんだな」

「そうですか? 私も一人だったら来なかったと思います。教官といっしょに来たかったんです……」

フローネが下から見上げるように天馬を見た。

演奏が始まり、音楽が奏でられていく。

ボーカルの歌声がさえわたる。

フローネは天馬の様子を見た。

その時、天馬がフローネの手をつかんだ。

「きょ、教官!?」

フローネは一気に感情のボルテージがはね上がった。

私、天馬教官に手を握られてる!

フローネは胸がバクバクした。

フローネは天馬の手の感触を感じた。

硬い……。

男の人の手はこんなに硬いのだろうか。

フローネはそれを想うと胸が張り裂けそうだった。

「私、一度でいいから教官とこうして来たかったんです」

「別に一度じゃなくてもいいだろ?」

「え?」

「俺はフローネとなら、何度でもこうしてライブに行きたい」

「教官……」

フローネは胸をときめかせた。

今は二人だけの時間だ。

フローネはもうライブのことなど頭から抜けていた。

それよりも、天馬の存在を感じ取ることがすべてだった。

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