フローネの訓練
フローネは軍の基地に戻ると、メグミとキナコを治療した。
二人はそれでも出血からか目覚めなかった。
ユーリアはフローネの能力を見て。
「フローネさん、どうかしら? あなたは能力者として覚醒した。だから、もう一度言うわね。私たちのもとに来る気はない?」
「私は……」
フローネは天馬を一瞥した。
フローネは何かを決めかねているらしい。
それを見てユーリアが何かに気づく。
「軍に入ったら、天馬大尉が上官よ?」
「わ、わかりました! 私は軍に入ります!」
「本当にいいのか、フローネ? 無理に入らずともいいんだぞ?」
「安心して。まずは学生生活を優先してもらうわ。これまで通り星見学園に通ってOKよ。ただ、軍の基地内に住んでもらうことになるけど……」
「はい、ありがとうございます。天馬大尉、よろしくお願いします」
天馬はフローネのほおが赤いことに気づいた。
フローネの様子がもじもじとして浮ついている。
やはりそれを見てユーリアがにへらあと笑う。
「それじゃあ、握手しましょう!」
「はい?」
「え?」
「これから私たちは仲間よ。私は軍の階級を越えて仲間だと思っている。だから、天馬君とフローネさんで握手して!」
天馬はどぎまぎした。
まるでこれでは手をつなぐみたいではないか。
天馬は戸惑ったが、フローネの顔は明らかに赤面している。
「じゃ、じゃあ、フローネ」
「は、はい……」
天馬とフローネが握手する。
天馬はフローネの手の柔らかさを感じた。
本当に柔らかい……。
この柔らかな手を守りたい。
そう天馬は思った。
一体何を考えているんだ、自分は。
部下の女の子に手を出すなんてそんなの絶対にダメだ。
「俺のことはこれまで通り、『天馬さん』と呼んでくれてかまわない。その代わり、俺は君をフローネと呼ばせてもらう。いいか?」
「あ、はい……」
赤面するフローネ。
「私たちは特殊防衛隊よ。これから能力者を入れていく予定だから、改めてよろしくね!」
ユーリアの明るい声がこだました。
フローネは再び学校に通い出した。
スマホの禁止は解かれた。
フローネは世界の真実を知った。
異世界テラから地球が侵略されていること。
月州連邦共和国をダエモノイドや魔獣が襲っていること。
だが、フローネには同時に大切なものができた。
これはフローネが人生で初めて知る感情だった。
それは愛――。
フローネは天馬を好きになってしまったのだ。
それはあの身を張って守られた時からだった。
愛に理由など必要だろうか?
ただ、どんな時からとはいえ、ある人を愛してしまったのだ。
フローネが軍に入ったのは、天馬を好きになったことが大きい。
フローネには天馬のことを知りたい。
天馬と一緒にいたいという想いがあった。
それ以上に、自分を好きになってほしいという感情も。
メグミとキナコには伏せていた。
しかし、どうやら二人にはばれているらしい。
二人はただニヤニヤするだけだ。
フローネは学校でも浮ついていた。
天馬はフローネにジャージで訓練場に来るように伝えた。
「天馬さん、フローネ参りました」
「ああ、フローネ。よく来てくれた」
フローネは天馬に言われた通り、地味なジャージ姿でやって来た。
天馬は一瞬フローネに見とれた。
「さて、今日はほかでもない。君の能力を知るために来てもらった。今日するのはそのための訓練だ」
「私の能力?」
フローネは首を傾げた。
「ああ」
「私の能力は治療ではないのですか?」
「確かにそうだが、それは一面にすぎない。君の力の本質は『光』だ」
「光?」
「ああ、エーテルは八つの属性を持っている。君はそのうち光の属性を持っているというわけだ。杖を出してくれないか?」
「あ、はい」
フローネは天馬に言われて杖を、クリスタルロッドを出した。
「出しました」
「フローネ、あそこに的がある。そこで光の力を矢に変えて放つことはできるか?」
「ええ!? そんな!? 無理ですよ!?」
フローネは仰天した。
「フローネ、やる前からできないというんじゃない。できないと思っていたら、何もできない。まずは自分にできると言い聞かせること。そして自分の力をイメージすることだ」
「力をイメージする……」
フローネが繰り返した。
「エーテルの力を発揮するためにはイメージの力が必要だ。最初のうちはそのイメージに応じた形をとるが、慣れれば瞬時に出せるようになる。まずはやってみてくれ」
フローネは杖を的に向けた。
フローネは目を閉じる。
するとフローネの杖が光った。
フローネの杖から光が放たれた。
それは一本の小さな光だった。
矢と言えるかは微妙だったが……。
「今のは!?」
「やはり君には光の力の適性があるようだな。今のは最初にしては上出来だ」
天馬はフローネをほめた。
月州の文化では人はほめられて伸びる。
人を評価する、ほめる、たたえるなどは普通に行われる。
「もう一度やってみてもいいですか?」
「ああ、もう一度やってくれ」
フローネが目を閉じる。
フローネの杖先に光が集まる。
フローネの光は矢となって的の端の方に突き刺さり、消えた。
「すごいな。やはり君には才能があるようだ。今のは『光矢』だ」
「『光矢』?」
「ああ、光の矢という意味だ。次はレベルを上げてみよう。光の矢を四発出してくれないか? 狙いは合わなくてもいい」
「わかりました」
フローネは慣れてきたのかもはや目を閉じなかった。
フローネは光の矢をばらまくように四発出した。
四発の光の矢は的をかすめて飛んでいった。
「すばらしい! なかなか最初はそういう風にはできないものなんだぞ?」
教官からの称賛にフローネは顔を赤くする。
「いえ、教官の指導の賜物です」
フローネは謙遜してそう言う。
「さて、エーテルを使った訓練はこれくらいにしようか。次は体力トレーニングだ」
「体力トレーニング?」
「つまり走ることだ。ジョギングだよ」
フローネは天馬のゆっくりとしたペースにしっかりとついていった。
天馬は思った。
この少女は根がまじめなのだろうと。
人の期待に応えようとする。
天馬はフローネの訓練に無理はさせないことにした。




