シャファン
次の日、フローネは自動販売機の前にいた。
「お嬢さん、私と同行してくれないかな?」
「? ……っ!? あなたは!?」
そこにシャファンがいた。
この男はメグミとキナコを傷つけた男だ。
「よくもメグミちゃんとキナコちゃんを!」
フローネは怒りの目を向けた。
「フフフ……その怒り、実によろしい」
シャファンは笑った。
「いったい何が目的なの!?」
「フフフ……さきほど言った通りだよ。私といっしょに来てもらう」
「誰があなたなんかと!」
フローネは吐き捨てるように言った。
「フッ、嫌でもいっしょに来てもらう。天馬をおびき出すためにね」
「フローネさん!」
「!? 天馬さん?」
そこに現れたのは天馬だった。
恰好は普通のジャージだった。
「シャファン、フローネさんに何をするつもりだ!」
「フハハハハハハ! これはいい!」
シャファンが消えた。
するとシャファンはフローネのすぐ近くに現れた。
「きゃああああああ!?」
「フローネさん!」
シャファンはフローネを魔法陣の中に入れる。
「フフフ、天馬。ぼくはデパートの屋上にいる。すぐに来るといい。私は彼女に危害を加えない。安心してくれたまえ。それでは」
「くっ!? シャファン!」
その場には天馬一人だけが残された。
フローネはシャファンにさらわれた。
「くっ! なんてことだ……デパートの屋上か……」
フローネは首に首輪をつけられて、デパートの屋上にいた。
「フッ、この私といっしょとは気にくわないかな?」
「あなたはメグミちゃんとキナコちゃんを傷つけた……それだけでも許しがたいのに……」
フローネはキッとシャファンをにらみつけた。
「おお、怖い、怖い。でも、安心したまえ。あの天馬が必ず、君を助けに来るよ」
もっともシャファンは怖がっていなさそうだ。
それどころか、薄ら笑いを浮かべていた。
「ほら、そう言っているそばから彼が来たよ」
「え?」
フローネは放心した。
天馬は何と空を飛んできた。
天馬は青いプロテクターを装着していた。
天馬のそれはエーテルプロテクターと言い、エーテルをマテリアライズしたものである。
そのボディーのシルエットはさながら天使を思わせた。
天馬はデパートの屋上に着地した。
「ようこそ、天馬」
「シャファン……おまえの悪だくみもここまでだ!」
天馬が白銀の刀を向ける。
「フフフフ……彼女は無事だよ」
「フローネさん!」
「天馬さん!」
フローネは首輪をつけられて地面に座っていた。
「さてと、私たちもいい加減に因縁を続けるわけにもいかないからね。ここらで決着をつけようか」
「そうだな。おまえとの因縁、ここで断ち切ってやる!」
「それでは決闘と行こうじゃないか! 彼女は返してあげよう」
パリーンと音が鳴った。
天馬が見てみると、フローネにつけられた首輪が砕け散っていた。
フローネは天馬のもとに駆け寄る。
「フローネさんは俺の後ろにいてくれ。もう怖い思いはさせはしない!」
「はい!」
天馬は自分でもどうぢてこんなにフローネを守りたいのかわからなかった。
今天馬にあるのは怒りだ。
それもフローネをさらったシャファンが許せない。
自分とシャファンには因縁がある。
それにフローネを巻き込んでしまって申し訳ないという気持ちもあった。
もう二度とフローネに怖い思いはさせはしない。
天馬はそう決めていた。
「さあ、おさらいだよ! エアカッター!」
シャファンが空気を刃に変えて天馬を切りつける。
これはシャファンがメグミとキナコを切り付けた技だ。
天馬はそれを怒りの刃で、一撃のもとに斬り捨てた。
シャファンは目を見開く。
確かにこの攻撃が天馬に破られのは予想していた。
しかし、これほど簡単にとは思わなかった。
「全身を切り刻んでやる!」
シャファンがエアカッターを次々に連発してきた。
それをすべて天馬は刀で斬り伏せる。
「これならどうかな? 風刃!」
シャファンが風の刃を放った。
天馬は一刀で風の刃を斬り捨てた。
「フフフ……やるね、天馬。さあ、これでケリをつけるよ! 五重風刃!」
シャファンが五重の風刃を形成した。
きれいに五つ集まって風刃が現れた。
五重の風刃は一発と二発はそれぞれ天馬に飛来する。
天馬はそれをきらめく刃で斬り捨てる。
シャファンは三重の風刃を一気に天馬に飛ばした。
天馬は上に刀をかかげた。
光の刃が伸びて周囲を光で照らした。
天馬はタイミングを測って、三重の風刃を斬った。
「無駄だ。おまえの技は俺には通用しない」
「フフフ……さて、それはどうかな?」
シャファンは三重の風刃をまっすぐ天馬に飛ばした。
天馬は上に刀をかかげた。
光の刃が伸びて、周囲を光で照らした。
天馬はタイミングを見極めて、三重の風刃を斬った。
「無駄だ。おまえの攻撃はこの俺に通用しない」
「フフフ……さて、それはどうかな?」
シャファンが不敵な笑みを浮かべる。
「風翔槍!」
シャファンが風の槍を出した。
シャファンの風の槍が天馬に向かって飛んでくる。
「はあああああ!」
天馬は横に刀を振るった。
風の槍が天馬に当たる前に、天馬は風の槍を斬り払った。
風の槍が霧散した。
シャファンはまたも笑った。
「? どういうつもりだ? 何がおかしい?」
「フフフフ……私の予想通りに事が運んでいるのがうれしいのさ」
「? いったい何を言っているんだ?」
「それはその時のお楽しみさ!」
「まあいい。シャファン、おまえがどんなことを企てていようとも、俺が断ち切ってやる!」
「フフフ……いいね! その調子で躍ってくれ、天馬! 多連・風翔槍!」
多数の風の槍が爪のように天馬に躍りかかる。
それを天馬は光の刃を発して、一つ一つ潰していく。
天馬が刃を振り送るころには風の槍は一本も残っていなかった。
風の槍はすべて天馬が潰していた。
「フフフフフ! フハハハハハ! すばらしい! すばらしいよ、天馬! 私はそんな君と戦えてうれしいよ!」
シャファンが恍惚とした顔を見せた。
これは己に酔いしれる顔だ。
天馬は気持ち悪さを感じた。
「不気味な奴だな? 何を狙っている?」
「私の真の狙いはこれさ! 多連・風翔槍!」
複数の風の槍が『フローネ』を狙った。
天馬は考えるより先に動いていた。
天馬は光の刃を極限まで振るい、風の刃を撃ち落とすことに努めた。
「き、きゃあああああああああ!?」
フローネが悲鳴を上げる。
天馬はフローネの前に立ちふさがり、その肉体を盾にしてフローネをかばった。
「くうっ!?」
天馬の体が風の槍に貫かれる。
致命傷は避けたが、重傷であることは変わりない。
エーテルプロテクターの防御力が高かったとも言えるのだが。
「ぐっ!?」
天馬は地面に膝を付く。
さらに吐血した。
「天馬さん! そんな! どうして!」
フローネが天馬の隣にやってくる。
「君は大丈夫か? ぐっ……」
「しゃべらないでください!」
この時フローネは心から思ったのだろう。
天馬を癒したいと……。
フローネの体が輝き、彼女の手から一本の杖が形成された。
それはクリスタルロッドだった。
「な、なんだと!? この娘が能力者!? バカな!?」
シャファンが動揺する。
フローネは無我夢中で力を行使した。
フローネから明らかに光の力があふれ出る。
天馬は感じた。
この力は癒しの力だ。
癒す以上にフローネの特性が入っているに違いない。
フローネは思っているはずだ。
天馬を癒したいと……。
天馬を、他者を癒したいという思うその心がエーテルを癒しの力に変換できるのだろう。
気が付くと天馬の傷は消えていた。
「ありがとう、フローネ。俺はこれでまた戦える!」
天馬がシャファンをにらみつける。
「くっ!?」
シャファンは動揺した。
「さあ、行くぞ、シャファン!」
天馬が踏み込んだ。
「くっ!? 五重風刃!」
シャファンが五つの風刃を一気に放った。
天馬は光の刃でそれを一気に斬り裂く。
「はああああああああ!」
天馬は光の刃でシャファンを斬りつけた。
「ぐはっ!?」
シャファンがのけぞる。
ダエモノイドの血は赤いらしい。
「ぐっ……この私が……ミ、ミリアム様……」
シャファンは倒れた。
そして粒子と化して消えていった。
「うっ……」
天馬は膝を付いた。
これは血を失ったことによるものだった。
「天馬さん!」
フローネが天馬に近づく。
「フ、フローネ……覚醒したのか?」
「覚醒?」
「能力者として目覚めることだ」
「そ、そうみたいですね……」
「ありがとう……」
天馬は心からお礼を言った。
「え?」
「君のおかげで俺はこうして生きている……」
「それはこっちのセリフです!」
「フローネ?」
もう二度とあんな無茶をしないでください!」
フローネは怒りとも戸惑いとも言えない表情を向けてきた。
気のせいだろうか? フローネのほおが赤みを帯びているような……。
「あ、ああ。もう二度とあんな無茶はしない。約束だ」
天馬は力なく笑った。




