女帝フリッガ
一方、天馬たちは。
「フフフ……御使 天馬よ。私の部下になるつもりはあるか?」
「? 何を言っている?」
天馬には不快なことだった。
地球を裏切ってテラにつけなど、言語道断もいいところだ。
天馬には不可解なことだ。
「フフフ……私は十分本気だ。今なら、そちらのお嬢さんといっしょに来てもかまわないが、どうだ?」
「ふざけたことを! 俺は地球の人たちを裏切るつもりはない! 俺は地球人だ!」
「おまえの半分はテラ人であろう? それなら我が陣営につくこともおかしくないが?」
フリッガが天馬を揺さぶろうとする。
「ふざけるな! 俺は確かに地球人とテラ人のハーフだ。だが、俺は地球で育った。テラ人とは思っていない!」
天馬が激烈に叩きつける。
「そうか……残念だ。ならば戦うしかあるまいな」
フリッガが腰から剣を抜いた。
その剣は漆黒の剣だった。
フリッガから圧倒的なオーラが放たれる。
それは見る者を圧倒した。
天馬は思った。
これが女帝フリッガ……。
彼女は強いということが骨身にしみた。
「フローネは戦わなくていい。この女帝とは俺が一人で戦う!」
「でも!」
フローネが異議を唱える。
「この敵とは俺が一人で戦わなくてはならない。フローネは下がってくれ」
天馬の意思が強いことを悟り、フローネはしぶしぶ受け入れた。
「わかり、ました。でも無理はしないでください。隊長が傷を負ったら、私が回復させますから!」
気丈なまでにフローネは天馬を支えようとしてくれる。
「ありがとう、フローネ。その気持ちだけでも十分だ」
天馬はフリッガを見据えた。
フリッガは余裕の笑みだ。
「フフフ、二人いっしょにかかってきてもかまわないのだぞ? これは戦争だ。戦争ではどんな卑怯な手でも許される。スポーツとは違うのだ。正々堂々とか、フェアプレーとかは愚昧にすぎない」
「これは俺の意地の問題だ。それに俺はフローネが回復してくれる限り戦える。別にフェアプレーではないさ」
天馬が刀をフリッガに向ける。
「ククク……言うな。では私の剣技をとくと味わえ!」
フリッガが天馬に斬りつけてきた。
天馬は刀でそれを防ぐ。
「まずは剣の技量で勝負だ!」
フリッガは剣で斬り払った。
天馬はフリッガの一撃を受けて気づいた。
フリッガは強いと。
その斬撃には無駄がなかった。
極限なまでに研ぎ澄まされた剣だ。
天馬は横に刀で斬り払う。
フリッガはジャンプした。
ジャンプしてくるりと回転し、上段から斬撃を浴びせてくる。
フリッガはさらに追い打ちをかけてくる。
フリッガは天馬の脚を狙った。
天馬はそれをガードする。
すさまじい斬撃の応酬が繰り広げられる。
しかし、互い顔は正反対。
フリッガは余裕。
天馬は苦悶。
このままではフリッガの斬撃に追いやられるであろう。
天馬は不利とわかると後退した。
「フッフッフ……いいところだったのにな。どうやら私の方が強いようだな」
「どうやらそうらしいな」
天馬は平静を保つ。
天馬は剣に光をまとわせた。
「だが、戦いは強さで決まるものではない。俺には技がある!」
天馬の刀がきらめき出した。
「はっ! 天光刃!」
天馬が光の刃をフリッガに向けて放った。
フリッガはふふんと鼻を鳴らす。
フリッガは剣に闇をまとった。
「闇黒剣!」
フリッガの剣を闇が包み込んだ。
フリッガは闇の剣を振るい、天馬が飛ばした刃を無効化する。
フリッガは天馬の刃を斬り裂いたのだ。
「フッ、単発で技を出しても当たりはしないぞ? でやっ!」
フリッガが闇の剣で天馬に攻撃してくる。
天馬はとっさに天光剣を出した。
光と闇が互いを排斥し合う。
二人の属性は対照的だった。
フリッガが袈裟懸けに斬りつけてくる。
それは強烈な打撃だった。
天馬はガードしたものの、多少斬られてしまった。
エーテルプロテクターに傷が入る。
「天馬さん!」
フローネが天馬を心配して叫んだ。
剣には二種類ある。
一つはフリッガのような直線的な剣で、主に打撃を主体とするもの。
もう一つは天馬の刀のように、湾曲した剣で、斬り払うところに特徴がある。
二つの武器は扱いからして違う。
これは互いの技量が同じ攻撃では決まらないことを示す。
天馬はフリッガに打ちに行っている。
それはなま暖かくない。
だが、それでも天馬は勝てないとは思わなかった。
天馬は光の斬撃を繰り出す。
「天光斬!」
光の斬撃がフリッガを襲う。
フリッガはニイッと笑うと、闇の斬撃を繰り出した。
『闇黒斬』である。
光の斬撃と闇の斬撃がぶつかり合い、互いに互いを否定し合う。
フリッガは闇の刃を飛ばしてきた。
フリッガはそれをそれも連続で繰り出す。
「くうっ!?」
天馬はそれを天光剣で迎撃する。
天馬は徐々に追いつめられていった。
じわりじわりと端まで追いつめられる。
「くっ!?」
「天馬さん!」
フローネが神にもすがるように。
「フフフ……次の一撃で海まで、死海まで落としてやろう。くらえ!」
フリッガが闇の斬撃を出した。
天馬はむしろ前に出た。
そして必殺の一撃を叩き込む。
「天光覇斬!」
これは天馬の最強の攻撃。
「何!?」
フリッガが斬撃もろとも天光覇斬に呑み込まれる。
しかし、フリッガは倒れなかった。
フリッガはダメージは受けはした。
だがまだ、戦闘の意思を放棄していない。
「これまでだな」
天馬が刀をフリッガに突き付ける。
「もうあきらめろ」
天馬の宣告。
「フン! そんなこと誰がするか! ふざけるな!」
フリッガは強烈な瞳で天馬をにらみつけた。
「そうか……なら次の一撃で決める!」
「勝つのは私だ!」
天馬とフリッガが斬撃の応酬を始める。
だが、フリッガにはダメージがあるのか、少し前とは剣筋が違った。
天馬はこの隙を逃さなかった。
天馬は天光剣でフリッガを貫いた。
「がはああ!?」
フリッガが叫び声を上げる。
フリッガは天馬の刀で貫かれた。
天馬がそれを引き抜く。
「ぐっ!?」
フリッガが膝を付いた。
「さあ、勝負はついた。ここで終わりだ」
「フン! ふざけるな! 最期まで決着をつけろ!」
フリッガが憎々しい瞳で天馬を見つめる。
とそこに一人の男の声がした。
「そうだよ、天馬。最期までケリをつけるべきだ」
「!? ユダ!?」
その場に現れたのはユダだった。
どうやらユダは空を飛行してきたらしい。
頂に着地する。
「フッフッフ! いいざまだな、フリッガ!」
ユダがフリッガを見下した。
「きさま……この裏切り者が!」
フリッガがユダを弾劾する。
「裏切り者だと!?」
驚愕する天馬。
「フッフッフ! ぼくは今最高にうれしいよ。このフリッガの死に、立ち合えるのだから、ね」
ユダは恍惚とした表情をしていた。
「ユダ……おまえはフリッガをどうするつもりだ?」
「簡単なことだよ。サンダーストーム!」
雷の嵐がフリッガを襲った。
雷はフリッガを屈服させるべく、次々とフリッガに降り下る。
「かああああああ!?」
フリッガが苦しむ。
「やめろ、ユダ!」
天馬がユダを止めようとする。
「フフフフフフフ……」
ユダは不敵な笑いを浮かべた。
それに対して、フリッガはユダをきつくにらみつける。
「フハハハハハハハ! 君はもはや必要ないんだよ。地球侵略も、テラの支配も、このぼくの手に渡してもらうよ。そしてすべてはこのぼくにひれ伏すのさ!」
「フン! おまえごときにできるか、ぐう!?」
ユダが雷撃を放った。
もちろん、フリッガを簡単に殺すつもりはない。
ちまちまとダメージを与えるつもりなのだ。
「口のきき方には気をつけてもらおうか。さて、フリッガよ、君には退場してもらおう。そして、ぼくの支配が始まるのさ! サンダーストライク!」
ユダは手から雷の弾丸を放った。
それはフリッガをガラスの窓から、塔の頂から、吹き飛ばした。
「フッフッフ! これでいい。ん?」
ユダはフリッガを塔から落としたつもりだった。
だが、違った。
フリッガは片手で塔の端をつかんでいた。
「フフフフフフ……ずいぶんしぶといね」
ユダはフリッガを見おろす。
まるでその命、生殺与奪の権利を握っていると知って、ユダは狂喜した。
しかし、フリッガの目は死んでいない。
「預言してやる! おまえの支配は必ず失敗する!」
フリッガは片手でつかまりつつ、ユダを否定する。
「フッ、それは弱者のたわごとかい?」
ユダはフリッガの手を足で踏みつけた。
そしてそれをじわりじわりと押しのけていく。
フリッガの手が端から離れた。
フリッガは不敵な笑みを浮かべながら、死海へと落ちていった。
この高さから落ちたらまず助からないだろう。
「なぜだ……なぜフリッガを殺した? 殺す必要があったのか!」
天馬の言葉はまるでナイフのようであった。
天馬はわなわなと震えていた。
「フッフッフ! 当然だよ。支配の本質はそれさ。それに民衆は誰が支配しようがそんなことは考えない。民衆にとって関心があるのは自分たちの自由や権利、安全であってそれが保障されれば、文句などないからだよ」
ユダが妖しく笑う。
「おまえはフリッガ派と通じていたのか?」
「フッフッフ、まあね。ぼくはフリッガ派ともヘブラエイとも関係を持ってきた。ぼくは双方の陣営の間に入って、情報を互いにリークしてきたというわけさ」
「? どういうことだ?」
天馬は混乱した。
ユダは哀れみの目を向けた。
「フッ、つまりはすべてはぼくの手のひらの上で躍っていたのさ。すべては地球もテラもぼくが支配するためさ。君たちを招き寄せたのも、フリッガの支配を終わらせるためさ」
「なら、どうする? 俺はおまえを許さない! ここで俺はおまえを殺す!」
天馬の怒りのまなざしをユダは軽く受け流す。
「フッ、できるかな? それに今は君たちと戦いたくないな。それに……」
ユダは片手を上に上げた。
すると、ユダの上方に大きな天体のようなものが出現し、光を発していた。
「!? なんだ、あれは!?」
「大きい……いったい何!?」
天馬もフローネも突然の出現にただ驚くばかり。
「フッフッフ! あれはテオスファイラ(Theosphaira)。地球侵攻のかなめさ」
ユダは宙に浮いた。
「さて、天馬。ぼくは一足先に地球に行くよ。ぼくは地球で君たちを待っている。今回はゲートの場所を教えないよ。ヘブラエイの人物にでも聞くがいい。それじゃあ、ごきげんよう。互いの再会を祈ってね。フッフッフ! フッハッハッハッハッハ!!」
ユダはテオスファイラの中に吸収されるかのように姿を消した。
ユダの哄笑が、大空でこだましているかのようであった。




