テラ
ユダは天馬たちを御前山に連れてきた。
御前山は星見市のビュースポットでもある。
多くの観光客が訪れる場所である。
山は緑で覆われ、緑の木々がはえている。
この山は星見市の象徴だった。
「ここは御前山じゃないか。こんなところにいったい何があるんだ?」
天馬がぶっきらぼうにしゃべる。
「フフフ……ここにテラへのゲートがあるのさ」
ユダは最前列を歩き、後ろにいる天馬の方を軽く見る。
「何だって!?」
驚く天馬。
ゲート……世界と世界をつなぐもの。
その入口。
それが御前山にあるという。
ユダの言葉は信じがたかった。
「星見市がなぜ地球侵略の最前線なのかわかったかい? それはここにゲートがあるからだよ。もっとも、ここのゲートは人が入れるくらいの大きさしかないけれど、ね」
ユダが嬉しそうに話す。
天馬たちはユダの後をついていく。
「さて、ここがゲートだよ」
天馬たちは御前山の地下を歩いている。
御前山には地下道があり、内部はひんやりとしていた。
ユダは扉らしきものを開けようとした。
それが次元のゲートだった。
「さて、すぐにでも行きたいけど、君たちを簡単には通してくれないようだね」
ユダが妖しく笑う。
このユダの笑いに天馬は不信感を抱く。
「なんだと?」
天馬がユダに詰め寄った。
「きさまら、地球人か?」
地の底から声が聞こえた。
まるで冥府から語りかけてくるような低く恐ろしい声。
「!? どこからだ!?」
天馬たちはすぐさま武装を整えた。
武器を出して戦いの準備をする。
「きさまらを通すわけにはいかん。きさまらはここで果てるのだ」
「ユダ、いったいこれはどういうことだ!」
天馬が声を張り上げる。
ユダを詰問する。
ユダはからかうみたいに。
「あらあら、どうやらゲートキーパーがいたようだね。残念だけど戦うしかないね。ぼくは見ているから君たちはゲートキーパーと戦ってくれたまえ」
ユダは半分おもしろそうに笑う。
天馬はそんなユダをキッとにらみつけた。
ユダの言っていることは不愉快だが、今は戦うしかない。
「くっ! みんな! 戦闘態勢だ!」
「「「「「はい!」」」」」
天馬の前の地面から死体のようなものが現れた。
これが話しかけてきた主だろう。
アンデッドキング『リッチ』だ。
体はガイコツで死者の王のごとく衣をまとっている。
「不死者……アンデッドか!」
天馬が刀をリッチに向ける。
五人とも全員が武器を取る。
「きさまら全員を冥土へと送ってやろう! クエイク!」
リッチは振動で足場を揺らした。
だが、ただ足場を不安定にすることが目的とは思えない。
それ以上に何か狙いがあるはずだ。
そう天馬が思っていると、リッチは石の槍を放ってきた。
その槍が六人に降りかかる。
クエイクの直後に出されたそれは回避を難しくする。
六人は各々の武器でリッチの石の槍に立ち向かった。
石の槍が迎撃される。
「ほう……やるではないか……なら、これはどうだ?」
リッチが地面から土のエネルギーの光線を出してくる。
「まずい! 散開しろ!」
天馬がすみやかに指示を出す。
六人はばらけた。
リッチの光線が虚しく空振りに終わる。
リッチは宙に浮いた。
それから泳ぐように天馬に斬りつけてくる。
リッチの手には二本の刀があった。
天馬は自分の刀でそれを防ぐ。
「隊長から、離れなさい!」
ツェツィーリアが青いビームをリッチにめがけて撃ち込んだ。
リッチは幻影を伴って回避する。
リッチにとってこの程度の攻撃は回避できて当たり前ということなのだろう。
アンジェリーナが曲線を描く光の矢をリッチに撃ちつけた。
リッチは防壁を張ってそれを防ぐ。
「キエエエイ!」
リッチが手に土の魔力を集めた。
リッチの手から石のナイフが次々と発射される。
六人はそのすべてをかわすことができず、負傷していく。
ただし、致命傷だけは回避した。
各人から血が流れる。
フローネは広範囲回復魔法を使った。
まるで花が咲くような光が起こり、天馬たちを回復させていく。
「フローネ、ナイスだ!」
「はい、隊長!」
天馬がフローネをほめた。
フローネの判断は的確だった。
フローネは訓練の結果、広範囲回復魔法をも使いこなすことができた。
ハルカとソフィーヤが前に出る。
ハルカは刀で、ソフィーヤは槍でリッチを攻撃した。
リッチは二人の攻撃を二本の刀で受け止めた。
「ククククク……非力よのう!」
リッチは歪んだ笑みを見せると、ハルカとソフィーヤを押しのけた。
二人が地面に打ちつけられる。
「死ぬがよい!」
リッチはこの隙にハルカとソフィーヤを殺すつもりだった。
しかし。
青いビームと矢の連射がそれを阻む。
「そうはさせませんわ!」
「二人を殺させはしないです!」
ツェツィーリアとアンジェリーナの連携援護攻撃だ。
これにはリッチもひとたまりもなかった。
「くっ!? いいところで邪魔をしてくれる!?」
リッチは怒気をあらわにした。
その間にハルカとソフィーヤは体勢を整える。
天馬がすかさず斬りこんだ。
リッチはガードするしかない。
天馬の斬撃はリッチに届いた。
だが、リッチにダメージを与えた様子がない。
リッチは苦しんでいないのだ。
これは天馬の斬撃が効かなかったことを示す。
「? どういうことだ?」
「ククク! 我はアンデッドの王! きさまらのなまくら刀による攻撃など効きはせん! さあ、死ぬがいい! 地爆!」
天馬たちの中心から地面が隆起した。
土属性魔法『地爆』だ。
これはリッチの中でも高位に属する魔法だった。
シスターズは地爆の衝撃で吹き飛ばされた。
「くっ!? これがリッチ……これほどまでに強いとは……」
正直、六人そろって劣勢になるとは天馬は思っていなかった。
もっと優勢に戦えると思っていたのだ。
天馬は天光剣でリッチののどを狙って斬りつけた。
致命的一撃。
天馬はやったかと思った。
いくらアンデッドとはいえ、のどを斬られてノーダメージでいられるだろうか?
「ククク、無駄なことだ。抵抗はあきらめろ」
どうやらダメージはないらしい。
さきほどの攻撃は無力だったというべきか。
それともこのリッチには何か秘密があるのか。
それを暴かない限り、天馬たちに勝機はない。
その瞬間、天馬はリッチの胸に赤い宝石のような核があることに気づいた。
「!? あれは!?」
天馬はそれを見逃さなかった。
あれがリッチの核なら、リッチの弱点になる。
あれを攻撃して破壊することができれば……。
「クハハハハ! オーラブレード!」
リッチがエネルギーを刃に変えて斬りつけてくる。
天馬はそれを防ぐ。
天の光と土の魔力が衝突した。
「グオア!?」
リッチが揺らいだ。
好機が到来した。
天馬はリッチの核めがけて、天光剣で貫いた。
「ギイヤアアアアアアアア!?」
リッチがすさまじい叫び声を上げる。
その声は洞窟中に響き渡った。
天馬の推測は当たっていたらしい。
リッチが粒子化する。
「ミ、ミリアム様……お許しを!」
リッチは茶色の粒子と化して消えていった。
「へえ……やるものだね。さすが天馬君だ」
ユダが感心したように言った。
「ふう……ケガをした者はいるか?」
天馬がみんなを確認する。
「私たちはかすり傷程度です」
ソフィーヤが皆を代表して答えた。
「少しでも傷を負っているの者はフローネに治療してもらえ。フローネ、負傷者の治癒を頼む」
「はい」
天馬はそれからユダの方を見やった。
天馬はユダに詰め寄る。
「それにしても、ユダ。こんな奴がいるなんて聞いてないぞ!」
天馬はユダを非難する。
ユダは悪びれた様子もなく。
「奇遇だね。ぼくも今日知ったところさ」
「……」
天馬は沈黙した。
話しにならない。
天馬はユダに不信感を抱いた。
この先まだ何かを隠しているなら、ユダを信用するのは危険だ。
どうもこのユダという人物は癖があるらしい。
少なくともユダの言うことを完全に信用することは危険すぎる。
フローネによってシスターズが治療されると、天馬は次元のゲートの前に立った。
「ぼくが見本を見せるよ。ぼくのマネをしてついてきてごらん。さて行くよ」
ユダはゲートの中に跳び込んだ。
ユダの姿が紫のゲートの中に消えた。
「ええい、ビビってもしょうがない。俺たちも行くぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
天馬たちは一人ずつゲートの中に入っていった。
光が天馬たちの目に焼き付けた。
清涼なる空気、新鮮な風、見晴らしのいいスポット。
風が天馬たちに吹き付けてくる。
天馬は目を開いた。
そこは崖だった。
高い崖の上に天馬たちはいた。
天馬は周囲を見渡す。
「ここは高いところだな。ここがテラ。異世界テラ……」
天馬の後ろからシスターズが続々とやって来た。
「ここは……? どこに出たんですの?」
ツェツィーリアが周囲を見る。
「高いところだな。なんだか寒いような……クシュン!」
ハルカがくしゃみをした。
「空気が澄んでいるみたい……」
ソフィーヤが漏らす。
「全員いるか?」
天馬が各人の名を呼び確認する。
「フローネ!」
「はい!」
「ツェツィーリア!」
「はいですわ」
「ソフィーヤ!」
「OKです!」
「アンジェリーナ!」
「はあい!」
「ハルカ!」
「もちろん!」
「よし、全員いるな。どうやら無事に異世界にやってこれたようだ。それにしても、ここはどこだ?」
天馬が確かめる。
みんないることに安堵する。
「ここはガリラヤ。ガリラヤ湖を中心とした地方だよ」
ユダが崖の前まで歩く。
それから指をさした。
天馬はその隣に行く。
「ほら、見えるかい? あそこがヘブラエウム(Hebraeum)。ヘブラエイの町だよ」
「あれがヘブラエイの町……」
天馬はヘブラエウムを見た。
この町は赤い屋根の家々が建っていた。
また大きな湖ガリラヤ湖があった。
「それじゃあ、降りてあの町に行こうか」
ユダが皆を先導する。
天馬たちはユダについていった。
ユダの口元が妖しくつり上がっていた。
ガリラヤ湖畔の町ヘブラエウムにて。
町に到着するなりユダは町の有力者と出会った。
「おお、ユダ殿! よくぞ、お帰りになられた。それで、そちらの方は?」
男性は左右に髪を流し、黒い髪をオールバックにしていた。
そして黒いコートを着ていた。
「ああ、彼らは地球人さ」
ユダの発言は衝撃的だった。
男性が大きく目を見開く。
「なんと!? それでは本当にあちらの世界の人間なのですな?」
「疑いたいなら、直接聞いてみればいいじゃないか」
男性が天馬の前に立った。
「私はヨセフと申します。ヘブラエウムの市長をしています。初めまして。それで、あなたがたは地球人ですか?」
ヨセフが天馬にあいさつした。
ヨセフは天馬を地球人の代表と思ったのだろう。
天馬もあいさつする。
「初めまして。俺は御使 天馬と言います。彼女たちは俺の部下です。俺はこの部隊の隊長を務めております。それで、あなたがたはテラ人ですか?」
「そうです。我らはテラ人です。ヘブラエイと呼ばれています。ようこそ、テラへ。歓迎しますぞ」
ヨセフに敵対の意思はなかった。
どうやら友好的である。
天馬はこの人を信じられると思った。
ファーストコンタクトとしては成功だ。
「それで、この町は反フリッガ派の拠点となっているというのは本当ですか?」
「そうです。私どもはフリッガに反対している反体制派の者です。まずは地球の人々との歓迎のため、当町の温泉に入られてはいかがですか?」
「温泉があるのですか?」
天馬は軽く驚いた。
温泉があるとは、地球との接点を感じる。
まあ、どういう温泉なのかは入ってみないとわからないのだが。
「俺たちはまずテラで情報収集しようと思っております。俺たちはまずどこかに落ち着きたのですが……」
ヨセフは天馬の意向を察したようだ。
まずはリラックスできる状況を作りたかった。
「そうですか。わかりました。それでは部屋を準備させましょう。そこでみなさん、くつろいでください」
ヨセフは天馬を交渉の窓口と見なしたようだ。
天馬たちはテラで情報収集のための拠点を作るつもりだった。
「ところで、ヨセフ市長、うかがいたいことがあるのですが」
「? なんでしょう?」
ヨセフが振り返った。
穏やかな目が天馬を見つめる。
「『ダン』と呼ばれた人物のことを御存じですか?」
「ダン……ヘブラエイの思想的指導者ですな。彼はずいぶん前に地球に行ったはずですが? まあ、後で調べて報告させましょう」
「感謝します」
天馬はそう小さく言った。
これは天馬にとってどうしてもテラで確かめたかったことだった。




