ユダ
天馬たちは司令部に呼び出された。
「ユーリア大佐、本日はどのような用件でしょうか?」
天馬は一同を代表して尋ねる。
天馬たちはそこに一人の男性がいるのに気づいた。
彼はユーリアのデスクの隣にいた。
ユーリアが口を開く。
「来たのね。本日は重大な案件があるの。そこで、説明してくれるかしら、使者さん?」
使者と呼ばれた男が前に出た。
「あなたが御使 天馬さんですね? あなたの噂は向こうでも聞いていますよ。ダエモノイドを次々と倒しているということで……」
男性が笑った。
この男性はメイクや口紅をしているようであった。
正直、天馬としてはこの手のやからはあまり好きではない。
天馬が好みなのは質実剛健なタイプだ。
男性は天馬に近づく。
「ぼくはユダ(Juda)。テラからの使者ですよ。フフフフ」
ユダは妖し気な笑みを浮かべた。
何か企んでいるのだろうか。
天馬はそう疑ってしまう。
この男が何を考えているにせよ、まずは話してみないとわからない。
ユダは天馬に握手を求めた。
「これはどうも」
天馬も握手する。
天馬にはこの男がナルシスティックに見えた。
「テラからの使者とは?」
天馬が質問する。
『テラ』という地名は知っていたが、使者とはどういうことか。
まさか今になって戦争をやめようとでもいうつもりか?
「『テラ』とはあなたがたが異世界と呼んでいる世界の名ですよ。あちらのことを我々はテラと呼んでいます」
「異世界『テラ』?」
ユダは両腕を大きく開いて演説するようなポーズを取った。
「そこで私はみなさんに一つ提案したい」
ユダが話を一時止める。
ユダの言う提案とは何であろうか。
ユダは全員の顔を眺めた。
「それは?」
天馬が追求する。
「こちら側、つまり地球の側からテラに攻め込んではどうでしょうか?」
ユダが衝撃の提案をする。
「何だって!?」
天馬たちは顔色を変える。
誰もが呆然としてユダの言葉を聞いていた。
例外はユーリアくらいだ。
おそらく彼女はすでに聞き知っていたに違いない。
それに今までの戦いでは一方的に地球側が防衛していただけだった。
こちらから攻め込むというのは初めてのことだ。
「テラでは現在二つの派閥が争っていまして。一つはフリッガ派。女帝フリッガ(Frigga)を中心とする一派で、現在地球侵攻を企てている一派です。それに対して、ヘブラエイ(Hebraei)というもう一つの一派があり、こちらは地球と友好関係を確立したいと考えています。まずはこのヘブラエイと現地で接触するといいでしょう。道案内は私がしますよ。さて、どうですか、みなさん?」
「……」
ユーリアたちは沈黙に包まれた。
それは当然だろう。
いきなり、こちらから侵攻しないかと提案されたのだ。
いきなり答えを出せと言われても無理がある。
まずはこの提案を検討することが必要だった。
誰一人としてこの提案にショックを受けていない人はいない。
ユダはそれを察したのか、天馬たちを安心させようとする。
「安心してください。ヘブラエイはあなたがたに友好的ですよ。こちら側から侵攻するなら、まずは味方を作ることが良いかと。ヘブラエイは反フリッガ派でもあります。ヘブラエイと協力し、フリッガを倒せば、この長い悪夢のような地球侵攻も終わりを告げて、二つの世界に平和が訪れます。どうですか? 私は席を外しますので、検討してみてください。私がいたら議論できないでしょうからね。結論が出たら答えを聞かせてください。それでは」
ユダと名乗る男は退出していった。
中にはユーリア=マリーア、サーシャ、そして天馬たちが残された。
重苦しい沈黙に支配される。
ユーリアがその沈黙を破った。
「これが罠ということも考えられるわ。彼の素性はわからないし、彼の言っていることも確認のしようがないのよ。それを真に受けるのは危険ね」
天馬がそれに続く。
「ですが、これはチャンスでもあります。これまで奴らは一方的に地球を侵略してきた。それをこちら側から乗り込み、諸悪の根源を叩けるんですよ? むしろ俺は賛成です」
天馬が持論を述べた。
天馬は今までテラから一方的に攻撃されることに対して不満を抱いていた。
こちらから攻撃できるというのなら、望むところだった。
サーシャがそれに続く。
「私も天馬君の意見に賛成です。ユダさんの真意がどこにあるのかわかりませんが、こちら側から攻め込むのは大きいでしょう。戦いの流れを変えることができるかもしれません」
サーシャも天馬に賛成のようだ。
この案は戦争の流れを変える可能性を持つ。
月州の側からテラに攻め込めるのならこちらにイニシアティブが生まれる。
戦いは主導権を握った側が勝つ。
ユーリアが難しい顔をする。
「そうね。それは確かだわ。ただ、私としてはあなたたちを危険とわかっている場所に送り込みたくないのよ。今のところ、情報は彼が言ったことを信じるしかないのよ? それはリスクが大きすぎると思うの。それに一度あちらに行ったら、どうやって戻ってくるのかしら? それも含めて情報が必要だわ。でも、肝心の情報がないのよ」
ユーリアはため息をついた。
ユーリアの立場ではなかなか判断が難しいだろう。
ユーリアの決定次第では特殊防衛隊が全滅するかもしれないからだ。
ユダ一人の意見を信じるのは危険すぎた。
「俺はそれでも行くべきだと思います。戦争では確実な情報は望むべくもありません。不確実でも、積極的に道を開くような行動が現実に影響を与えると思います。俺はテラへの侵攻を望みます!」
天馬は強く主張した。
天馬はやられてばかりでは気がすまないのだ。
こちらから仕掛けられるのなら、ぜひともそうしたい。
それにこの戦争を終わらせるには女帝フリッガを倒さねばならない。
フリッガが和平に応じる可能性はわからないが。
「そう……意思は硬いのね?」
ユーリアが天馬の目を見る。
口はだませても、目はだませない。
ユーリアは天馬の黒い瞳を見つめていた。
それからまたため息を出した。
「わかったわ。ただ一つだけ約束して。危なくなったらすぐに戻ってくること、いいわね? 一人でも欠けることなく戻ってらっしゃい。これは命令よ」
「は!」
かくして、天馬たちはユダと協力して異世界テラに赴くことになった。
天馬はフローネを追いかけた。
「フローネ!」
「天馬さん?」
フローネは二人きりなときは天馬さんと呼ぶようになった。
天馬はフローネを抱きしめる。
そして唇を強引に奪った。
「ん!? 天馬さ、ん……」
天馬はフローネの胸を揉みしだいた。
柔らかな双丘が天馬の手の中で形を変える。
「あん……だめ、です。こんなところで……」
フローネが喘ぎ声を発する。
「フローネ……今度の任務は生きて帰れるかわからない。その前に君としておきたい」
「もう、天馬さんったら……」
二人は恋人になった。
そのため、そういうこともするようになっている。
「うふふふふ……いいですよ。私も天馬さんとしたいです」
「フローネ」
天馬はフローネの口をふさいだ。
舌が互いに絡まり合う。
それから二人は再び結ばれた。
次の日――朝6時に部隊の全員が隊舎の前に集合した。
見送りのために、ユーリアとサーシャもいる。
そして使者にして案内人のユダ。
「さて、準備はできているかな? できたのならすぐに出発したいんだけど……」
ユダが発する。
ユーリアがみんなを代表して。
「これは危険な任務よ。みんな、私はみんなが生きて帰ってくると信じているわ。だから、天馬君、一人でも欠けてきたなら許さないわよ、いいわね?」
「は!」
みんなの胸に感慨が押し寄せてくる。
これから自分たちはテラへと侵攻するのだ。
テラはどんなところなんだろうか。
どんな人がいて、どんな文化があるのだろうか。
シスターズはまだ見ぬテラに期待を寄せていた。
案内役のユダが発言する。
「それじゃあ、テラへと案内するよ。ぼくについてきてくれたまえ」
ユダは再び妖しく笑った。
果たしてユダにどんな思惑があるのか。
それをまだ、天馬たちは知らない。




