月州軍の基地
月州軍基地にて。
その医療室にメグミとキナコ、そしてフローネが寝かされていた。
メグミとキナコは傷の手当てをされていた。
「この子たちの容体はどうだ?」
天馬が軍医に尋ねる。
軍医は女性でサーシャという名前だった。
本名は長いのだが、天馬は覚えていなかった。
愛称のサーシャと呼ばれている。
「ええ、一命はとりとめたわ。おそらくシャファンは二人を殺す気はなかったと思うの。予想だけど、ね」
「そうか……」
天馬は月州軍の軍人である。
階級は大尉。
フローネ、メグミ、キナコの三人は軍に保護された。
「それにしても、一ついい?」
「何だ?」
「あなたが連れてきた子の中で、あの傷の無かった子だけど……」
「? その子がどうかしたのか?」
「あの子、おそらく『能力者』よ」
「何だって?」
天馬は驚いた。
能力者――異能の能力に目覚めた者のことである。
彼らは特別な能力を持ち、人ならざる能力を振るう。
その時、フローネが目を覚ました。
「私は……?」
フローネのそばにはメグミとキナコが寝かされていた。
「メグミ! キナコ!」
フローネは二人に近寄った。
二人には医療機器がつけられ、脈の音声を伝えてくる。
それによってフローネは二人が生きていることを知った。
「目が覚めたようだな」
「調子はどう?」
そこに男と女が入った。
一人はラフな服を着ているが、間違いなく戦っていた男だ。
もう一人は白衣を着ていた大人の女性だった。
「まずは自己紹介をしよう。俺は御使 天馬。月州軍の軍人だ」
「私はサーシャ。軍医よ」
「軍?」
フローネは軍というキーワードに注目した。
「ここは軍の基地だ」
フローネは星見市に月州軍の基地があることを知っていた。
「それで君は?」
「あ……」
フローネは自己紹介の途中であることを思い出した。
「私は星名 フローネです」
「フローネ? 移民の子か?」
「はい、そうです」
月州は移民の国である。
月州では移民は珍しくない。
月州の民族構成はミズラヒーム、アシュケナジーム、スファラディームの三者で、ミズラヒームは月州系、アシュケナジームは西洋系、スファラディームはアジア系をさした。
月州で中核になっているのは本国生まれのミズラヒームだった。
「あの……あなたがたはいったい何者なのですか……?」
フローネが真剣な視線で天馬を見た。
実はこれは今のところ機密指定されている情報だった。
だが、天馬はいずれ機密指定を解除しなければならないと思っていた。
「わかった。教えよう。君たちを襲ったのは異世界の存在だ」
「は?」
無理もない。
荒唐無稽すぎる。
「もう一度言う。あのシャファンという男はダエモノイド……異世界の特殊能力者だ。君たちはそいつらとの戦いに巻き込まれた」
「何を言っているんですか……?」
フローネは天馬の頭がおかしいのではないかと思った。
天馬は事実を語る。
「俺たちの世界、地球は異世界テラ(Terra)から侵略を受けている。これは現在国家機密とされている内容だ。だが、今政府が秘密にしたところで、いずれダエモノイドたちは次々と侵略の手を伸ばしてくるだろう。つまり、これ以上隠し続けることはできなくなる。俺が話しているのはそういう内容だ」
フローネは隣の女性サーシャを見た。
サーシャは笑顔でうなずいた。
どうやら天馬の頭がおかしいのではなく、事実らしい。
「そんな……異世界からの侵略だなんて……」
フローネは愕然とした。
わなわなと震えている。
フローネは自分で自分の体を抱きしめた。
「君は現在軍の保護下にある。基地内は機密エリアをのぞいて自由に行動可能だ。ただし、軍の基地の外に出ることはできない」
「そんな!? 父と母に会えないのですか!?」
「両親に会いたい気持ちはわかる。だが、これも軍からの命令なんだ。わかってほしい。とりあえず君の部屋を用意してある。スマホは今は禁止だ」
「メグミちゃんとキナコちゃんはどうなんですか?」
天馬はサーシャの顔を見た。
「この二人は傷は深くなかったわ。安心して。命に別状はないわよ」
「……わかり、ました。部屋に案内してください」
「わかった。こっちだ」
天馬は背を向けて、フローネを部屋に案内した。
「そうですか。今はおとなしくしていますか……」
「はっ!」
天馬は上司に報告していた。
天馬の上司はアシュケナジーム、ユーリア=マリーア・フォン・カイザーシュトゥール(Julia-Maria von Kaiserstuhl)。
ベージュの長い髪に紺色のロングスカートを着用した女性である。
「今はショックを受けています。やはり、いきなり日常が崩壊したのが大きいかと」
「そうですね……彼女たちにはかわいそうですが、今は軍の保護下に入ってもらわなくてはなりません。軍はダエモノイドや魔獣とすでに接触しています。それと一人の女性に能力者としての適性があったというのは本当ですか?」
天馬はうなずいた。
「はい。これはサーシャからの判断になりますが、星名 フローネさんは能力者としての適性があるようです」
「そうですか」
ふと、ユーリアはため息をつく。
「どのような能力なのかは発言してみないとわからないのが玉に傷ですね」
ユーリアが自嘲する。
ユーリアは特殊防衛隊司令である。
特殊防衛隊とは対魔獣部隊のことである。
この部隊は能力者を隊員とする条件があった。
今はまだ、天馬、ユーリア、サーシャの三人でしかない。
「天馬大尉」
「はっ!」
「あなたは教官となり、フローネさんを指導なさい」
「!? 私がですか?」
「うふふ……あなた以外に適任がいるとでも?」
ユーリアはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「今後、あなたのもとに能力者を配置します。その能力者を訓練して、魔獣やダエモノイドと戦えるようにしなさい」
「はっ!」
天馬は敬礼して、ユーリアの部屋を退出した。




