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ツェツィーリア

ツェツィーリアはドイツから帰国した。

ツェツィーリアのフルネームはツェツィーリア・フォン・シュテルネンリヒト(Zäzilia von Sternenlicht)

彼女はドイツ系月州人でアシュケナジームに当たる。

年は18歳。

職業は軍人である。

ツェツィーリアは優雅な長い金髪をしていて、その先端を青いリボンで結んでいた。

ちなみに彼女は月州語とドイツ語のバイリンガルである。

ツェツィーリアは空港から駅に入り、そのまま星見市に入った。

それからバスで軍の基地を目指す。

彼女はキャリーバッグを持っていた。

「特殊防衛隊……どんなところなんでしょうね。あのユーリア様の部隊なんて……すばらしいですわ! ああ! どんな部隊なんでしょう! 今から楽しみですわ!」

ツェツィーリアは期待に胸を躍らせた。

彼女はあこがれのユーリア大佐の部隊と聞いていたので、それが精強精鋭な部隊だと思い込んでいた。

すばらしい部隊員たちとの出会いをツェツィーリアは夢想した。

この後、彼女の虚しい期待は粉砕されることになる。


「ツェツィーリア・フォン・シュテルネンリヒト! ただいま参りました!」

ツェツィーリアがユーリアの前でびしっと敬礼する。

ツェツィーリアは直立不動だった。

ユーリアが立ち上がる。

「ようこそ、ツェツィーリア。よく来てくれたわね」

ユーリアはデスクの前でツェツィーリアを迎える。

「それでユーリア大佐、特殊防衛隊というのは?」

「ああ、それね。少し待っていて。今二人を呼びに行ってくるから」

ユーリアは罰が悪そうな顔をした。

ツェツィーリアは少々不安を覚える。

「二人?」

ツェツィーリアは二人という単語が気になった。

「ユーリア大佐! 天馬大尉入ります」

「フローネ、入ります」

「来たわね。紹介するわ。この人はツェツィーリアさん。フローネさんと同じく、天馬君の指揮下に入ってもらうわ」

「あ、あの、ユーリア大佐? 特殊防衛隊というのは?」

ツェツィーリアが恐る恐る尋ねる。

ユーリアは額を押さえて。

「ツェツィーリアさん。がっかりしないでね。今ここにいるメンバーにサーシャをくわえて、全員で五人の部隊よ」

ツェツィーリアは愕然とした。

もしかしてユーリア大佐は自分をからかっているのではないか?

「は? 五人? 五人の部隊? ユーリア大佐、冗談ですよね?」

ツェツィーリアの顔がこわばる。

「ツェツィーリアさん……がっかりするだろうけど、今は五人しかいないわ」

「そ、そんな……」

ツェツィーリアの淡い期待は粉砕された。

まるでビルが倒れるような錯覚をする。

「でも、安心して。これからメンバーは増える予定だから。能力者に限定しているから、少数の部隊なのよ」

「な……」

ツェツィーリアは声も出なかった。

ツェツィーリアはこの部隊は大部隊で、自分はその一員になると思っていたのだ。

「まずは自己紹介しましょう。天馬君、フローネさん、こちらツェツィーリアさん」

「教官の天馬だ。よろしく」

「フローネです。よそしく」

「……」

ツェツィーリアは無言で天馬を見た。

その目が細くなる。

「? 何か?」

「……」

じーっとツェツィーリアは天馬を見つめた。

ツェツィーリアはこうして天馬を値踏みしていた。

天馬は居心地が悪そうだ。

「ふーん、容姿は平凡ですのね。わたくし、ツェツィーリアと申します。よろしく」

ツェツィーリアは右手を出した。

天馬とフローネもツェツィーリアと握手した。

これが天馬とツェツィーリアの出会いであった。


天馬とフローネ、ツェツィーリアの三人が訓練をすることにした。

訓練は訓練場で行われる。

的が用意され、その的に狙い通り当てるのが練習だ。

三人は全員、ジャージだった。

「まずはウォーミングアップだな。フローネ、小さく制御した矢で的を狙ってくれ」

「はい!」

フローネはクリスタルロッドを出すと、その先から光の矢を放つ。

天馬はあえて小さい矢を指定した。

フローネには光の魔法の訓練をさせていたが、フローネはのみ込みが非常に良かった。

フローネが光の矢を飛ばす。

光の矢は的の中心に近いところに当たった。

「フローネ、光の矢の大きさはよくコントロールできていたな。ただ少し加えるなら、光の矢の制御がまだ甘い。とはいえ短期間でよくここまで上達した。それは評価できるし、胸を張っていい」

「はい!」

フローネが喜んでうなずいた。

「ところで、ここで一つ合間を挟もう。聖書では神は『光、在れ』と言われた。これはどういう意味だと思う?」

「宗教の授業ですか?」

天馬はほほえんだ。

これは聖書の冒頭にある言葉だった。

創世記の一節である。

「まあ、そんなところだ。答えは『意識よ、生ぜよ』という意味だ。つまり、『光、在れ』とは意識の誕生と、意識性の拡大をさしている。つまるところ、より意識してやりなさい、ということだ。おしまい」

「勉強になりました」

フローネが答える。

「ところで、ツェツィーリアはいったいどんな能力を持っているんだ?」

「……わたくしが答える義務がありますの?」

「ツェツィーリア……」

天馬はかける言葉を失った。

ツェツィーリアは明らかに天馬に不審なまなざしを向けていた。

ツェツィーリアは天馬の問いを黙殺したのだ。

フローネは少しむっとした。

「将来俺はこの部隊の隊長になる。その時のために、俺は君の能力を知っておきたい」

「……」

ツェツィーリアはそっぽを向いた。

つまりサボタージュだ。

「そんなに教えるのが嫌か?」

天馬は初めて会った時からツェツィーリアの自分に対する不信に気づいていた。

ツェツィーリアは明らかに天馬を信用していない。

握手はしたが、積極的な自己開示はまだされていない。

おそらく、ツェツィーリアはこの部隊そのものに不信感を抱いているのではあるまいか。

「……いいですわ。その一部を見せて差し上げあげましょう」

ツェツィーリアがエーテルのマテリアライズをする。

すると一本の青い銃砲が現れた。

ツェツィーリアが狙いを定める。

青い銃砲はビームを放った。

的にビームが当たり、的は粉々に砕け散る。

天馬にはツェツィーリアが不満をぶつけたように見えた。

「これは……すごい威力だ。的が粉々とはな……」

天馬は目を見張った。

「まあ、わたくしの力はこんなものですわ。わたくしにはこんな訓練なんて必要ありませんの」

ツェツィーリアは冷笑し、片手で長い金髪をかきあげた。

フローネはこの態度にカチンときたようだ。

すぐさま意見を述べる。

「そんないい方はないんじゃあありませんか? 天馬さんは教官ですし、私たちの直属の長の当たります。いくら何でも不敬ではありませんか?」

「あなた、この男に惚れてるんですの?」

ツェツィーリアはニイッと笑った。

「な、な、な!?」

フローネはしどろもどろになり、あわてて狼狽する。

「わたくしは自分より弱そうな人に従うつもりはありませんの」

ツェツィーリアがフンと鼻を鳴らした。

天馬はツェツィーリアを見る。

天馬は侮辱に耐えるような男ではない。

しかし、自分の隊員の信頼を得られないようではこの先部隊を率いていくことはできないだろう。

天馬はツェツィーリアとあくまで対話することにした。

「弱そう、ね。つまり、君は俺が君より弱そうだといいたいわけだ?」

「そう聞こえませんでしたか?」

「じゃあ、どうすれば君は俺を認めてくれる?」

ツェツィーリアが会心の笑みを浮かべる。

ツェツィーリアには何か腹づもりがあるのだろう。

「簡単ですわ。『決闘』ですわ! このわたくしと決闘してくれませ! 私に勝ったならあなたを上官と認めましょう。もっともほんのわずかの可能性もありませんが」

ツェツィーリアは優雅に歩いて去っていった。

かくして二人は決闘することになった。


それを聞いたユーリアは頭をかかえた。

天馬がそこに報告に来ていたのだが、そこにはサーシャもいた。

「やれやれ……まったくあなたたちは軍隊の規律に従えないのかしら?」

ユーリアがジト目で天馬を射抜くように見てくる。

「しょうがないですよ。天馬君は悪くありません。それに天馬君が勝てばいいわけですからね」

とサーシャが楽しそうに言った。

というより楽しんでいる。

サーシャにはこの『決闘』が興味津々なのだろう。

天馬にとっては腹立たしいが。

「サーシャ、いくらあなたでも軽んじすぎるわよ?」

「はあい、失礼しました」

反省の態度がみじんもないサーシャ。

ユーリアはいつものこととあきらめている。

「要は俺がツェツィーリアに勝てばいいわけでしょう? それですべて解決ですよ」

ユーリアはデスクの上でほおづえをついた。

その瞳が厳しく天馬を見る。

「それで、やるからには勝てるのでしょうね? もし負けるようであれば、私はあなたを教官から解任するわ」

ユーリアの言葉は厳しい。

ユーリアの言っていることは間違っていない。

隊員に負けるようであれば、教官としても部隊長としても失格だ。

天馬は勝つ以外にはないのだ。

敗北のリスクは当然、考えておかねばならない。

「わかっています。俺も部下にやられるようであってはチームを率いていくことなどできないでしょう。でも、俺は勝ちますよ」

「勝つ自信はあるのね?」

ユーリアが念を押す。

ユーリアも心配しているのか、懸念を持っているのか……。

「もちろんです。高慢の鼻をへし折ってあげましょう」

天馬は自信たっぷりに答えた。

ただ不安要素がないわけでもない。

それはツェツィーリアの能力だ。

ツェツィーリアは射撃系統の能力を持っているようだが、はたして、それだけなのか。

まだ見ぬ能力を隠し持っているのではないか。

それに天馬は接近しなければ、ツェツィーリアを倒せない。

いずれにせよ、天馬は決闘に敗れるわけにはいかないのだ。

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