ポスター張りを手伝ってくれる和水さん③
「それで、なんで一人でこんなことしてたわけ?」
「それはですね……」
少しの間和水さんに頭を撫でてもらった後、僕は和水さんから事情聴取を受けていた。
「実は教室にいた時に伊刈さんから頼まれて、さっきまでは一緒にやってたんですけど」
伊刈さんがクラス委員として先生から頼まれたらしいことと、教室の分は二人でやったけれど、その後は伊刈さんに大事な用事があるから帰ってしまったことを、僕は包み隠さず和水さんに伝えた。
「チッ……クソビッチのチビが」
「ひぇ」
仲が悪いのかどうかは知らないけれど、和水さんは伊刈さんの名前を聞くと少し怖くなる。
「残りも全部一人でやるつもり?」
「えっと、はい。頼まれたからには途中で投げ出せないですし」
「……なら手伝う」
僕はまた呆気に取られた。昨日の出来事はただの気まぐれのはずで、気まぐれが二回も続いておきる確率はどれくらいなのだろう。優しく頭を撫でてくれたり、当然のように手伝うと言ってくれた和水さんが何を考えてそうしてくれるのか、僕には本当に理解できない。
今僕の目の前にいるこの人は、昼間イケメンたちの心をグチャグチャにした人物と本当に同一人物なのだろうかと疑ってしまう。
そうこうしているうちに、和水さんは床に置いていたポスターを一つ手に取り、僕の椅子の上に登ろうとしていた。
「あ、待ってください! 僕の椅子ガタガタしてて危ないですよ!」
慌てて呼び止める。振り返った和水さんは、またあの妖艶な笑みを浮かべていた。辺りに色気が漂っているような気がする。僕は見つめられたまま動けなくなった。
「危ないことは私がやってあげる」
「え、でも、和水さんも危ないから」
「なら、ちゃんと支えてて」
「え、あ、椅子をですね!」
「違う……私の身体を、ちゃんと触って」
和水さんに腕をとられ、そのまま引き寄せられる。
「ぁ、ぁぁ、でも」
「どうしたの? あのチビの身体も触ったんでしょ?」
「へぇあ!? そ、それは伊刈さんがそうしろとおっしゃってですね」
「私もそうしてって言ってるの」
和水さんは躊躇なく椅子の上に立った。
瞬間、椅子が少し傾く。
危ない! そう思った時には、もう僕の身体が勝手に動いていた。
「ぁ、す、すごい」
思わず声が漏れた。抑えられなかったのだ。
僕はとっさに和水さんの脚を支えたけれど、慌てていたからつい抱き着くような恰好になってしまった。
小さい伊刈さんとは違い、今僕の顔の前には、太くてムチムチとしていて、それでいて無駄のない綺麗な太ももがある。
僕はその太ももに抱き着いていて、腕と頬でその感触を感じていた。
張りがあるのに、柔らかい。
少し、ほんの少しだけ、僕はつい出来心で太ももにそえている手に力を込める。
ギュッと握りしめるようにしてみると、指と指の間に肉が溢れ、ムチムチしている太ももが張り詰めた。
「……んっ」
上から和水さんの吐息が聞こえた。その声色がまた煽情的で、ドキドキと僕の胸の鼓動が大きくなる。それは収まることなく大きくなっていき、まるで自分の身体全体が脈打っているように感じた。
鼓動が五月蠅い。
血の流れが速すぎて頭がクラクラする。
それでも目と鼻の先にある太ももから目が離せない。
知らぬ間に、握りしめる手にも力が入ってしまう。
「ちょっとくすぐったい」
「はぁ、はぁ……ご、ごめんなさい」
「いいよ。そうやってしっかり力をいれて私の脚を押さえて」
「は、はい、はい!」
もう一心不乱だった。
和水さん本人から言われたから、そうしなきゃいけないと思った。
「もっとしっかり、全身で支えて」
「も、もっとですか?」
「落ちたら怖いでしょ、ちゃんとギュッとして」
「はぁ、はい、ギュッとします!」
もう僕は和水さんの脚にしがみつくようにな体勢になっている。
ムチムチとした太ももに頬をくっつけ、まわした腕に精一杯の力をこめて抱きしめ、手は肉をもむように力いっぱい握りこむ。
もう自分でも訳が分からない。
なんでこんなことをしているのか。
こんなことをして本当にいいのか。
そんな常識的な思考はもうどこにもない。
ただ目の前に差し出されているような、圧倒的に肉感の太ももに夢中になっていた。
「ふふ、かわいぃ」
「はぁはぁ……へ?」
「ほら、画びょうをとって」
「あ、は、はい」
僕はもう言われたことだけをする機械だった。フラフラと視線をさまよわせ、床に置いていた画びょうを一つとって上を見上げる。
「ぁ、あ、そんな……」
体勢的にはその光景が見えるのは必然だった。
だって和水さんは椅子の上で立ち上がっていて、僕は膝をついて和水さんの脚を支えているのだから、上を見上げたら何が見えるかなんて決まってるようなものだ。
今までだってちょっと上を見れば普通に見えたはずだ。
そうしなかったのは太ももに夢中になっていたから。
だから僕はそこで初めてそれを見た。
和水さんのスカートの中を、真下から見上げた。
僕が抱き着いていた太ももの付け根。
その太ももよりも、さらにすごい肉感のお尻がスカートの中に隠されていた。
肉付きのいいお尻を隠しているはずの下着は、かなり面積が小さい。
あまりにも小さすぎた。
ヒモのようにすらみえるそれのせいで、締め付けられているようにすら見える。
その光景は綺麗で、それでいてもっと別のベクトルの感情を揺さぶられた。
「ほら、画びょう」
「あ、はい」
視界の端に和水さんの手が伸びて来るのが見える。僕はスカートの中から目が離せないまま、感覚で画びょうを渡した。
案の定上手くは渡せなかった。和水さんが怪我をしないように、自分の手に向けていた画びょうが少しささる。
鋭いはずの痛みも、鈍く感じる。
それくらい、今の僕は全ての意識が和水さんのスカートの中に奪われていた。
「そのまま、ちゃんと押さえてて」
「はい」
言われた通り、太ももを握る手に力を入れ、僕はスカートの中を覗き続ける。
和水さんが力を込めるたびに、お尻がゆれる。
……触ってみたい。
それしか考えられなくなった。
ダメだと、自分に強く言い聞かせる。
我慢するように太ももをこれでもかと握る。
「んぅ……」
僕が力をこめて太ももを握るたびに、和水さんの吐息が聞こえてくる。
その吐息が、スカートの中に手を伸ばしたいという僕の欲望を煽る。
その欲望と必死に戦いながら、もう血が回っていない脳でふと考えた。
和水さんは、きっと僕がスカートの中を覗いていることを知っている。
それなのに、どうして僕は許されているのだろう。
以前、軽率に和水さんの肩を触ったクラスメイトは、それからの時間を泣きながら過ごすことになった。本当なら、スカートの中を覗いたり、太ももを触ったりしてしまったら、もっと酷い制裁がまっているはずだ。
なのに、なのにどうして僕は怒られないのだろう。
どうして和水さんは、僕には優しいのだろう。
そんな疑問が湧き上がり、すぐに消えていく。普通ならおかしいと思うことも、今の僕にはどうでもいいことに成り下がっていて、深く考える気にもなれない。
何も考えられない僕は、それから何か所ものポスターを貼るたびに、言われるがままに和水さんの太ももに抱き着き続けた――。
続きは明日投稿します。