ポスター張りを手伝ってくれる和水さん①
「ねぇねぇ馬締君、レミね、馬締君に聞いてほしいことがあるの!」
放課後、一人で帰り支度をしていると、とっくに教室を出て行ったはずの伊刈さんが、沢山の書類のようなものを抱えて戻って来た。
教室にはもう他に人がいない。僕が帰り支度をダラダラとしていたのは、最近えらくガタガタするようになった椅子が気になって、なんとかして直せないか見ていたからだ。結局は無理そうで諦めて今に至る。
伊刈さんが持っているのは、どうやら何かのポスターみたいだけど、伊刈さんが帰る時はそんなものは持っていなかったような気がした。
とりあえず、伊刈さんのような美少女から話しかけられるなんてこと自体、僕のような日陰者には滅多にない嬉しい出来事で、僕は帰り支度をしていた手を止めた。
「どうしたの伊刈さん?」
「あのねあのね、さっき廊下で先生とばったりあってね、このポスターを学校中の掲示板に貼るように頼まれちゃったの」
そう言った伊刈さんは、華奢な両腕で抱えていたポスターを見せてくれた。自転車にまたがっている子どもが、笑顔でヘルメットを着用している。ありふれた感じの交通安全ポスターだった。
「そうだったんですね。でも、どうして伊刈さんが」
「ん~やっぱりレミがクラス委員だからかなぁ、先生からも頼られちゃって困っちゃうよ~」
やだも~と言う伊刈さんに肩を叩かれた。満更でもないらしい。そういえばそうだった。伊刈さんはこんな見た目でもクラス委員をしている。先生たちからの受けもいいはずだ。
「でも結構な量がありますけど、大変じゃないですか?」
「そうなの! だからね、馬締君ならレミのこと助けてくれるかもって思ってきたの」
「え? 僕のことをそんなふうに?」
「うん。馬締君って優しいから頼りがいあるし……ダメ?」
僕はこれ以上ないくらい興奮して、やる気パワーが身体中にみなぎって来るのを感じた。だって、女の子から頼りがいがあるだなんて今までの人生で一度も言われたことないんだもの。
チビでガリガリだから力もないし、脚だって速くない。顔つきも子供っぽさが抜けないし、声変わりもまだこない。そんな男らしさを感じさせる要素がない僕には頼りがいなんて皆無だ。
けれど、そんな僕に伊刈さんは頼りがいを見出してくれたのだ。伊刈さんは僕みたいな童貞にも気さくに接してくれるいい人だから、きっと他人の長所を見つけるのが上手いのだろう。
「ま、任せて! お手伝いするよ!」
「わぁ! ありがとう、馬締君ならそう言ってくれると思ったんだ!」
「ぉお……」
感激した様子の伊刈さんに手を握られる。小っちゃなおててはポカポカしていて温かかった。
「じゃあまずは教室に貼っちゃおうかな」
「うん。じゃあ僕が貼りますね」
「ううん、レミが貼るから大丈夫だよ」
「え? じゃあ僕は何を?」
「上まで届かないから椅子に上がって貼ろうと思って、だから馬締君にはレミのことを支えて欲しいの」
「あ、椅子が動かないように押さえてればいいのかな?」
「う~ん、それよりレミの身体を直接支えて欲しいかな、よろしくね~」
「……え?」
レミさんは近くにあった席の椅子を無造作に引き抜いて、躊躇なく椅子に上る。すぐに支えなければいけないのだけど、正直今はそれどころじゃない。
レミさんは言ったのだ。直接身体を支えて欲しい、とそう言ったのだ。
目の前でレミさんの身体が揺れる。小柄で華奢、ぺったんこ。
もし椅子から落ちてしまったら大変だ。すぐにでも支えてあげなければいけないのに、僕は一体レミさんのどこを支えていいのかまるで分からなかった。
超高速で思考が回転する。
いったいどこなら触っても許されるのだろうか。
腰のあたりだろうか、いや、デリケートすぎてアウトな気がする。
それなら胴か、もしくは生足か、思考は加速するばかりで、一向に答えは見えてこない。
「わわ、椅子に立つと結構怖いねぇ。じゃあ馬締君、しっかり支えててね」
「あ、あの、伊刈さん」
「ん、どうしたの?」
「いや、あの、どこならというか、どこを支えていたら一番安定しますか?」
考えても分からなければもう聞くしかない。我ながら意識しすぎている童貞のような感じがハンパない気がするけれど、実際に童貞なわけだから仕方ないのだ。
「ん~わかんないけど、じゃあとりあえず脚」
「脚、ですね」
「ギュッって掴んでてね」
「ギュッってですね」
ゴクリッと生唾を飲む。僕は緊張していた。伊刈さんの生足にこれから触れるわけだから当然だ。ギャルの生足を触ったことなんて、夢ですら体験したことがない。これから成す偉業を前にして、僕の手は震えていた。
「では、ギュッっといきます」
「よろしね~」
伊刈さんのなんとも軽い返事をきいてから、僕は覚悟を決めて細い脚をギュッと掴んだ。
「ほぁぁ……」
伊刈さんの脚は、なんというかとにかくスベスベで、骨しかないのではと心配になるほど細かった。これが、女の子の生足! 僕は量の手に全神経を集中させたかったが、手汗が出ていないか心配で気が気じゃなくなった。
「ん~画びょうが刺さらないぃ」
「ぁ、ぁ、あ」
伊刈さんは苦戦しているのか、力を入れようと身体を小刻みに揺らしている。そのたびに僕の顔の前にある小ぶりなお尻がフルフルと可愛らしく揺れて、僕の目が勝ってにお尻を追いかけてしまう。
手では生足の感触を感じ取り、目は忙しく揺れるお尻を追跡する。
ここは天国……いや、むしろ地獄かもしれない。
童貞には刺激の強すぎる時間で、きっと僕の脳はオーバーヒートしていたのだろう。気が付いたら伊刈さんがポスターを貼り終えていた。
「オッケー。ありがとね馬締君」
「こちらこそありがとうございます」
「何が?」
思わずお礼を言ってしまうという失態をおかし、なんとか誤魔化そうとしていると、天の助けか担任の先生がやってきた。
「お、さっそく貼ってくれたんだな伊刈」
「もちろんで~す。あ、馬締君も手伝ってくれたんですよ」
「そうなのか、馬締もありがとう」
「いえ、僕は何も」
ただ伊刈さんの生足を触って揺れる小さなお尻を追いかけていただけです。
「じゃあ今日中に残りも頼んだぞ」
担任はすぐに教室から出て行った。どうやら軽く様子を確認に来ただけらしい。あの先生は一見ゆるそうだけど、実際にはこうしてチェックしに来るような結構厳しいところもある。言われた通り、今日中には済ませておいた方がいいだろう。
「じゃあ他のところにも貼りに行きましょうか」
「う~ん、そのことなんだけどね」
「どうかしまたしたか?」
何かを言いにくそうにしている伊刈さんが上目遣いで見つめてくる。
「あのね、実はレミこれから大事な用事があって、もう時間がギリギリなの」
「え、そうだったんですか?」
「うん。だから急いで帰らないといけないのに、まだいっぱい残ってるから、どうしようかなぁって困ってて」
伊刈さんはそう言うと頭を抱えてしまった。用事がある忙しい時に先生から頼まれごとをしてしまうなんて、なんて不運なんだ。
僕は頭を悩ませている伊刈さんの力になりたいと思った。
「それなら残りは僕に任せてください」
「え、でもまだこんなに」
「大丈夫です。僕は何も予定ありませんから」
「そうなんだ……ホントにいいの?」
「もちろんです。大事な用事に遅れないようにすぐ帰ったほうがいいですよ」
「馬締君……ありがと~」
「ぉぉう」
ぶっちゃけると若干狙っていたわけだけど、伊刈さんはまた軽くハグしてくれた。
女の子ってなんでこんなにいい匂いがするんだろう。僕はレミさんの固い胸の感触を感じながら表情筋を保つことに必死だった。
後編は夜に登校します。