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無口で怖いとクラスで有名なギャルの和水さんが、僕だけに優しいんですけど  作者: 美濃由乃


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僕だけの和水さん①


「…………もう、ダメだ。潔く諦めよう」


 自分の運命を悟った僕は観念して起き上がった。


 アイマスク代わりにしていた和水さんのブラジャーを外す。


 カーテンを開ければ外はもう明るい。


 今日も快晴らしく青空が広がっていた。春らしい陽気な一日になりそうだ。


 窓から差し込んでくる清々しい朝日が眩しい。


 寝起きにはぴったりのシチュエーションだ。温かい日差しのおかげで、寝起きでもきっとすぐに目が覚めたことだろう。


 今日も一日を頑張ろうと、そう思える程の気持ちいのいい朝。


 ただし、それは普段通りにちゃんと寝ていたらだ。


 僕は手に持っていた黒のブラジャーを握りしめた。


「結局、一睡もできなかった……」


 僕の作戦は大失敗に終わったのだ。


 和水さんのオッパイの匂いに包まれたまま眠れば、きっと最上級の睡眠をとれるに違いないと考え、貰ったブラジャーをアイマスク代わりにする僕の作戦。


 最上級の眠りどころか、和水さんの匂いに興奮した僕は夜の間を悶々としたまま過ごすことになった。


 しかもだ。僕は和水さんがノーブラで帰って行ったということにも気が付いてしまったからもうどうしようもなかった。


 帰り際の和水さんはノーブラだった。制服の中、薄いブラウスの下には生のオッパイがあったのだ。


 僕はそんなノーブラの和水さんと会話をしていた。


 その事実を認識してしまっただけでリビドーがほとばしる。


 僕のカーディガンを羽織って帰ったとはいえ、和水さんはそのままノーブラで家まで帰ったのだろう。


 僕は眠ろうと必死に目を閉じながらも、ノーブラを隠して恥ずかし気に帰る和水さんの姿を妄想してしまい、ずっと興奮していたのだ。


 しかもブラジャーから香る和水さんの匂いが、僕の妄想にどんどんと活力を与えてくるから大変だった。


 目はギンギンに冴えわたり、脳は活発に稼働して妄想を繰り広げた。


 そして、気が付けば今。


 そう、もう朝だった。


 やっと少し眠気がやってきたところだったのに、この時間ではもう意味がない。


 いや、むしろ今から眠気が来るのは大変危険な事だ。


 このままベットに横になっていれば、確実に昼過ぎまで寝てしまう自信がある。


 当然今日も学校はあるからそんな事態は避けなければならない。


 せっかく和水さんから名前で呼んでもらえるようになったというのに、初日から遅刻しては何となくばつが悪い。


 それにもし学校に遅れたら、昨日頭を打った僕を心配してくれていた和水さんに、もっと心配をかけてしまう事になるかもしれないのだ。


 ただでさえ昨日は和水さんにお世話になりっぱなしだったから、これ以上迷惑はかけたくない。


 喩え一睡もできていなくても、男にはやらなければならない時があるのだ。


「いつもより早いけど学校に行っちゃお」


 このまま家にいたら、着々と強まってきている眠気に負ける自信が大いにある。


 そならばと、僕はいつもより早めに出発してしまう事にした。


 先に学校に行ってしまえば、いくら眠気に襲われても遅刻する事はないからだ。


 完璧な作戦を思いついた自分の脳を褒めたたえ、僕は活動を開始した。



 ちなみに、我が家の家宝になった和水さんのブラジャーは、プラモデルを飾っているショーケースの中に安置した。


 安物のショーケースだけど、中身が素晴らしいおかげでしっかりと高級品に見える。


 和水さんのブラジャーが飾ってあるだけで、僕の部屋の価値が上がったと言っても過言ではないだろう。


 ただの机が今や、何か貢物をささげる祭壇のようにさえ見える。


 その神々しさに、僕は自然と和水さんのブラジャーに向かって手を合わせていた。


「……ありがたい」


 ブラジャーに向かって充分な祈りをささげた僕は、この時だけは眠気も忘れて意気揚々と出発したのだった。


 昨日は何度も鼻血を出したり頭を打ったちと大変な事もあったけれど、和水さんが家に来てくれて最高の一日になった。


 今日もきっといい日になるに違いない。


 この晴天と、和水さんのブラジャーが僕にそう確信させてくれた。



 そのはずだったのに……。




 いつもより早く学校に到着した僕は、何となく違和感を感じていた。


 普段ならあり得ない事だけど、誰かに見られているような視線をどこからか感じるのだ。


 自意識過剰だと言われたら反論はできない。


 いつもなら僕だって自意識過剰だと思うからだ。


 僕なんかが人からの注目を集めるはずがないのだから。


 けれど今日だけは、自分にどんなに自意識過剰だと言い聞かせても本当に見られているような気がして仕方なかった。


 初めはいつもより早く学校に来たから、珍しいと注目されているのかとも考えた。


 家が近い僕は、いつもギリギリのタイミングを見計らって登校している。


 だから早めに来た今日は珍しいから見られているのかもしれないと、そう思ったのだ。


 けれど、冷静に考えればそれはあり得ない事だ。


 だって僕は普段から注目される事なんてない。


 クラスメイトのほとんどが、僕がどの時間帯に登校してきているのかすら知らないはずだ。


 だから僕が珍しく早い時間に登校してきたとしても、それだけで注目されるはずもない。


 そうなると理由は何か別にあるはずだ。


 何の理由もなく、僕なんかが誰かの興味を引くはずがない。


 アイマスク代わりにしていた和水さんのブラジャーはしっかりと家に置いてきた。


 だとしたら寝ぐせでもついていて笑われているのだろうか。


 それとも背中に鳥の糞でも落とされたか。


 一向に消えることのない誰かの視線のせいでソワソワして落ち着かない。


 気になって我慢できなくなった僕は、トイレにでも行って身だしなみを確認する事にした。



 それが間違った選択だとも知らずに……。

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