二人きりの教室で
現在保健室で治療中。
和水さんにおんぶされてきた僕を見た校医の先生は笑いをこらえきれず噴き出していた。
女の子におんぶされているという状況は僕にとっても恥ずかしいもので、失礼な先生だと思ったけれど、「顔血だらけだよ! 何したの?」と興味深そうに聞いてくる先生は僕がおんぶされていることは気にしてい無さそうだったからとりあえず許すことにした。
体育の授業中にボールが二回顔面に当たったことを説明して、少し震えている先生の治療を受ける。
和水さんの背中から降りた僕は、とりあえず精一杯の内またで座るのに必死だ。
「何モジモジして? トイレ行きたいの?」
「……いえ、平気です」
校医の先生は女性だ。真実を話すわけにはいかない……たとえ男でも言わないけど。
「鼻血は酷いけど骨は大丈夫そうだね。二球とも顔面だっけ?」
「はい、そうです」
「どうして顔で受けようとしたの? グローブなかった?」
「いえ、ちょっとぼーっとしてて」
本当は激しく揺れるオッパイに見惚れていたからなのだけど、それをこの場で言うわけにはいかない。
「じゃあ他に痛いところはある?」
「そうですね……特にない、ですかね」
「倒れて頭打ったりはしてない?」
「二回とも倒れたので、多少は」
「ん~、それだと大事を取った方がいいかもね」
処置が終わると僕は早退するように勧められた。一応大丈夫だとは思うが、頭をぶつけた時は後からフラフラっとする場合があるらしい。家で安静にしているか、心配なら親に付き添ってもらって病院に行くように言われた。
担任や体育の先生には校医の先生から伝えてくれるようで、そこまでしてもらえるなら僕も無理に学校に残ろうとは思わない。今日は大人しく帰ることにした。
「じゃあ教室まで付き添うから」
「え、あ、ありがとう」
処置中も待っていてくれた和水さんに付き添われて教室に戻る。明るい日中から無人になっている教室はどこか新鮮な感じがした。
窓から見える校庭では、クラスメイトたちがソフトボールに熱中している。
僕がいなくなったことでチームが崩壊、なんてことはなさそうで安心した……まぁあるわけないけど。
ここから見ていると、皆本当に楽しそうに見える。
打つ方も守る方も気合が入っているし、遠くで見ている女子の応援もまた熱が入ってきているみたいだった。
その光景には本来いるはずの人が、一人いない影響はまったくない。
まるで今校庭にいる人たちだけで普段から成り立っているかのように歪みがない。
人が一人いなくなったところで、世界は変わらずまわっている。なんてよく聞くけれど、僕は世界どころか、この小さなクラス一つにも、何の影響も与えられていないらしい。
少し悲しくなってしまった自分に自嘲する。
初めから分かっていたことじゃないか。目立たずろくに友達も作れない非モテの童貞。それが僕だ。
いても皆は触れないようにするだけだし、いない方が皆のびのびしているのも納得だ。
……なんて感傷的な気分で校庭を眺めていると、ピシャッと音を立ててカーテンが閉め切られた。
僕の目の前でカーテンを閉めたのは和水さんだった。
「あ、あの、和水さん?」
「どうしたの?」
「いえ、何と言うか僕今、外の風景を見てたんですけど」
「そんなことより早く帰りの準備しなよ」
ごもっともな言葉にぐうの音も出ない。大人しく席について鞄に荷物を詰めることにした。
今のところはだけど、頭にも異常はなさそうだ。
和水さんにいつまでも付き添ってもらっているのも悪い気がする。
僕はもう付き添いは大丈夫と、そう伝えようとして和水さんの方に顔を向けた。
「……え?」
もう大丈夫ですよ。ありがとうございました。そんなふうに考えていたお礼のセリフは一瞬でどこかに吹き飛んでしまった。
それだけ僕の目の前にある光景は衝撃的なものだったからだ。
「な、なな、何して」
僕のすぐ目の前で、和水さんがジャージを脱ごうとしていた。もうすそをたくし上げていて、綺麗なお腹とかわいらしいお臍が見えてしまっている。
僕と目が合った和水さんは、いつものように悪い笑みを浮かべて、そのままジャージをたくし上げていく。
僕が見ている目の前で、お臍から上の肌がどんどん露出していく。
その光景を見ている僕は、すでにある期待をしてしまっていた。その期待を裏切ることなく和水さんは躊躇なくジャージをたくし上げる。
そしてついにその時はやってきた。
僕の目の前に、ぷるんっと、そうまさにぷるんっと揺れて、和水さんの大きな胸が露わになったのだ。
少し手を伸ばせば触れてしまうような距離に、ブラジャーに包まれた柔らかそうなオッパイがある。
いつも胸しか見ていない僕だけど、今の状況ではそうもいかない。
和水さんは今、上半身にブラジャーしかつけていない。
いつもは見えないような部分の肌がほとんど露出していて、僕は和水さんの身体全体の綺麗さに圧倒されていた。
瞬きも忘れて綺麗な肌を凝視した。
「ふふっ」
揶揄うような笑い声にハッとする。鼻息を荒くして凝視している僕を見て和水さんが笑っていた。
「ち、違いますよ! 何も見てません!」
自分でも無茶苦茶な言い訳だと思うけれど、咄嗟に出る言葉なんてそれくらいだった。すぐに手で顔を隠して見ていませんアピールをする。
指の隙間はあいているから、今もばっちりと和水さんの身体を見ているけれど。
「別に見てていいのに」
「な、何言って、 ていうかいきなり脱ぐなんて何考えてるんですか!?」
「送ってあげるから制服に着替えようと思って」
「え、そんなことしたらこの後の授業が」
「別にいいよ。サボるから」
「ちょっ、ダメですって!」
「私がそんなこと気にするように見える?」
この感じ、僕が何を言っても和水さんは聞いてくれなそうだと思った。もう和水さんの中では僕を送っていくことが確定事項になっているらしい。
なんというかそれは普通に嬉しいから百歩譲るとして、だとしても男の僕がいる前で無防備に着替え始めるのは如何なものか。
「だからってここで着替えないでくださいよ! 見られちゃいますよ!」
「カーテン閉めたし、廊下も授業中だから平気でしょ」
「いやそういう問題じゃ、むしろ目の前に男の僕がいるんですから」
「……わざと見せつけてるとしたら?」
「え、何を」
僕が混乱の極みにいる間に、和水さんは下のジャージにも手をかける。
躊躇なくゆっくりとズボンを降ろしていき、和水さんの綺麗なお尻と生足が僕の目の前にさらけ出される。
その様子の一部始終を、僕は指の隙間から余すところなく眺めていた。
目の前でズボンを脱ぐ和水さんは、なんというか、美の象徴のように綺麗だった。
見惚れていると、和水さんが僕を見て笑っていることに気が付いた。
ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている和水さんと目が合って、僕は慌てて指の隙間を閉じる。
その次の瞬間、顔を覆っていた手は、力づくで取り払われてしまっていた。
「この下着、私のお気に入りなの。似合ってる?」
目の前には完全に下着姿の和水さんがいた。大人っぽい黒のブラジャーとパンツだけを身に着けたその姿は、見ているだけで意識が飛びそうになるほど刺激的だ。
今、この教室という閉め切られた空間には、僕と下着姿の和水さんしかいない。
そんな非現実的なシチュエーションが、僕の心臓の鼓動を加速させる。
あまりの興奮で返事をしようとしても言葉が出てこない。どうやら僕は言葉を忘れてしまうほど馬鹿になってしまったらしい。
言葉をなくした僕は、ただ必死に頷いて見せた。凄く似合っていると伝えたかった。
「……そ、よかった」
満足そうな和水さんが目を細めて見つめてくる。
その瞳を見つめていると、まるで目を離すなと言われているような気がした。
結局、僕は必死に内またになって、和水さんの着替えを最後まで見続けてしまった。
続きは明日投稿します。