作戦失敗
中庭で人知れずお花の世話をしていた和水さん。
僕は誰もいらないような和水さんの秘密をまた一つ知ることが出来た。
今僕の目の間には、なんとも幸せな光景が広がっている。
あのいつもイライラした顔をしている和水さんが、笑顔でお花に微笑んでいる。かがんでお花に微笑みかけている和水さんは、後ろから見ていると短いスカートが災いして、パンツが丸見えだった。今日は白だ。
僕は和水さんのパンツを眺めながら、新たな彼女の一面をしれたことに達成感を感じていた。
充実した気分のまま、サービスのようにチラチラを見える白いパンツを眺める。
そうしているうちに、僕はあることに気が付いた。
丁寧にお花のお世話をしている和水さんだが、よく見ているうちに何やら急いでいるように見えてきた。
大きな胸を揺らして駆け回り、スカートがめくれても気にせずに世話を続けている。見ている僕からすれば大サービスで得しかないのだけど、あまりにも無防備過ぎて見ているだけでもハラハラしてしまう。
せわしなく動き回る和水さんは、水やりを終わらせると、ジョウロをしっかりと片付けてから急ぎ足で校舎の中に戻って行った。
早足で歩いて行く和水さんを見失わないように、僕も急いで後を追う。
和水さんは一直線に下駄箱に向かっていた。どうやら急いで帰るらしい。僕の追跡もここまでかと思い、時間をおいてから帰ろうかと考えていると、和水さんは下駄箱を一瞥しただけで引き返して来た。
急な方向転換に慌てて、何とか物がげに身を潜める。今ほど身長が低くてよかったと思ったことはない……いや、身長は高いにこしたことはないけれど。
いったいどうしたというのだろうか。急いで帰ろうとしていたように見えたけれど、下駄箱に行った和水さんは靴を履き替えるような素振りもしていなかった。ただ、一瞬下駄箱を眺めて、それからすぐに用はないとばかりに引き返して来た。
一度下駄箱を見た意味はなんだったのだろうか。
急に不審な行動をとり始める和水さんを前にして、僕はまだ作戦を継続する必要があると確信した。
一度和水さんをやり過ごしてから後を追う。気分はまるでスパイ映画の主人公だ。
……傍から見たらただの変態だということは、ちゃんと自覚しています。
余計なことは考えずに、迷わず階段を上っていく和水さんをなるべく距離を開けて追いかける。できればまたパンツが見たかったけれど、ここでは残念なことに不漁だった。
そのまま隠れて和水さんに着いて行くと、彼女が入って行ったのは僕たちの教室だった。
何か忘れ物でもしたのだろうか。それとも誰もいない放課後の教室で何かいけない事でもするつもりなのだろうか。
童貞脳が妄想を繰り広げ、興奮した僕は早速教室の中を見に行こうとしたのだが、何故か和水さんは一瞬で教室から出てきてしまった。
危うく姿をさらしてしまいそうになり、僕は慌てて壁の陰に身を潜めた。
見つかってしまったかもしれない。
焦りで心臓の音が大きく聞こえる。
そんな僕の焦りは杞憂だったようで、幸運にも僕の姿は見られていなかったのか、和水さんはまたどこかに向かって歩いて行った。
ホッと胸をなでおろし、見失ってしまう前にまた和水さんの後ろを着いて行く。いったい今度はどこに向かっているのだろうか。
それにしても和水さんの行動はさっきから意味不明だった。
急いで帰ろうとしたのかと思えば下駄箱を一瞥しただけで校内に引き返し、教室に何か用でもあるのかと思えば、一瞬でその教室も後にしている。和水さんが教室に入ったのは本当に少しの間で、あれでは流石に忘れ物を回収することもできないはずだ。
一体なんのために教室に行ったのかまるで理由が見えないし、今も歩いている和水さんは隠れて見ていると少し様子がおかしい気がした。
足早に教室を出たわりに、今の和水さんはどこかあてもなく校舎をさまよっているようで、とても目的地があって歩いているようには見えないのだ。
あちこちをしきりに見回しながら、とりあえず廊下を歩き続けている。
どこか教室に入ることもなく、ただ一部屋ずつ覗いて何かを確認して、すぐにまた歩き出す。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いているから、初めは僕の観察がバレているのかと思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。むしろ今の和水さんの姿は、何か探し物をしているように見えた。
しばらく校舎を歩き回っていた和水さんについて観察していたが、結局歩き続ける和水さんは校舎を一周する勢いで済み済みまで何かを探していたが、目的の物は見つけられなかったようで、また教室に戻っていくらしかった。
教室に入っていく和水さんを陰から見守る。
またすぐに出てくるのかと思ってその場から様子を伺っていると、今度はなかなか和水さんが出てこない。
しばらく待ってみるも何の動きもなく、中の様子が気になった僕は密かに教室を覗いてみることにした。
ゆっくりと教室に近づきながら、和水さんの行動の意味を考えてみる。
放課後の様子を見ていれば、少しは和水さんのことが分かるかと考えていたけれど、今日の行動を見ていると、余計に彼女の謎が深まってしまいそうだった。それくらいには和水さんの行動は意味不明すぎる。
……などと考えていたのがよくなかった。
思えば僕は油断しすぎていたのかもしれない。お花に水やりをする和水さんをじっと見ていても気が付かれなかったから、いつの間にか自分が尾行のプロにでもなったような気がしていたのだ。
「何してるの?」
教室の中をそった覗くと、すぐ目の前にある胸で視界が塞がれた。この大きな胸が誰のものかなんて、今更見間違えるはずもない。
恐る恐る顔を上げると、案の定和水さんが僕を見下ろしていたのだった。尾行作戦失敗の瞬間である。
「あ、和水さん! いやぁ偶然ですね」
「さっきから私のことつけてきてたじゃん」
咄嗟に偶然を装う作戦も失敗だ。どこからかは分からないけれど、僕の尾行は和水さんにバレてしまっていたらしい。
「コソコソ隠れて私のことを見てたけど、いったい何してたわけ?」
ずいっと顔を寄せて来る和水さんに圧倒されて、僕は思わず後ずさる。すると和水さんが距離を詰めてきて、僕はそのまま壁際に追い込まれてしまった。
和水さんからものすごい圧を感じる。壁に追い詰められると、胸の圧迫感も凄まじかった。
いろいろな意味で追い込まれてしまったけれど、僕にとって唯一救いだったのは、和水さんが怒ってはいなさそうなことだ。
普通後を付けられていたなんて知られたら、ガチで気持ち悪がられると思っていたけれど、和水さんの表情からはそんな空気は感じない。
他の人に向けるような鋭い睨みでもなく、純粋に興味があるといった感じに僕には見えた。ただそれでも、下手な嘘は通じそうにない。本当のことを話すまで、僕を逃がさないというような眼力も感じる。
実際に尾行していたことも見られていたなら、もう言い訳のしようもない。
僕は意を決して、正直に白状することに決めた。
「ご、ごめんなさい! 和水さんのことをその、ちょっと見てました」
「ふ~ん、ちょっとなの?」
「……普通に見てました」
「だよねぇ? だって私が気付いてからずっと後ろを追いかけてきてたもんね。それに、私が気付く前からなんでしょ?」
「……はい」
「正直に言えて偉いねぇ」
「あ、えへへ」
和水さんに頭を撫でてもらえた。やはり正直者は得をするらしい。嘘はよくないよね。
「で、何でこんなことしてたわけ?」
この時僕の脳内では、ナデナデのご褒美のおかげで、嘘はよくないとすっかりインプットされてしまっていて、何でも馬鹿正直に言うことしか考えられなくなっていた。
「それは! 和水さんのことがもっと知りたいと思ったからです!」
言ってしまったあとで、僕は自分がとんでもないことを言っているような気がしてきた。目の前にいる和水さんも、珍しく驚いたように目を見開いていた。
続きは明日投稿します。