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(*´▽`)ノ 雪の短編集 ლ(╹◡╹ლ)

しあわせのいちごミルク

作者: 松内 雪

白い吐息。

冷たい風が頬を掠めていく。

辺りはとっくに暗い。もう夜だ。


「今日も疲れたなぁ」


周りに人がいないことを良いことに、つぶやいた。


塾の帰り道。

迫る高校受験に向けて、毎日こんな感じだ。


ーー勉強ってそんな大事かなぁ……

私には分からない。


でも、お母さんは私に向かって、勉強して良い学校に行きなさいと言う。

それが私のためになるからって、毎日のように言っている。


ーー勉強すると、将来しあわせに近付くんだって。


一年ぐらい前、一度だけ勉強したくないって言ったら、すごく怒られちゃった。


お父さんはそれを見て、私の将来のことで、お母さんと言い争いをしてた。


それからずっと、空気は気まずいまま。

なんだか怖くて、息苦しくて……気づいたら私は泣いて謝ってた。


そんな私を見て、お母さんはもお父さんも謝りあっていた。だけどその夜に、また2人で言い争いをしてたことを、私は知ってる。


私のワガママで全部おかしくなっちゃった。

それから私は、ずっと良い子でいるように努力した。


お母さんが選んだ志望校に、私が合格できたら元通りに戻るのかなぁ?


ーー戻らないだろうなぁ。

今では言い争いの内容が、私のことだけじゃなくなってる。お互いの不満を言い合ってるのを、布団の中で私は聞いてる。


深夜なら聞いてないと思ってるのかな。それとも、私のことなんて気にしてない?


どっちでもいいや。

私は勉強で精一杯。もうわかんないよ。


私はお母さんが敷いたレールの上をまっすぐ進んでいく。勉強は大変だけど、それが正しいんだ。


1人で暗い道を歩いていると、余計なことを考えてしまって嫌になる。


なんでこんなにつらいのかな。

この先もずっとこうなのかな。

ほんと、しあわせってなんだろうね。


街灯沿いに、ひときわ大きな光が点滅している。

コンビニの電飾看板だ。


いつも視界に入ってたけど、当たり前の風景だったから、気にしたことはなかったな。


今日はたまたま電球が切れかかってたのか、点滅してたから気になっちゃった。


家に帰れば晩ごはんがあるけど、たまには寄り道してみようかな。


初めて買い食いをする。それぐらい、良いよね。


勇気を振り絞ってコンビニに入った。制服姿で入るのは初めてだ。バレたら怒られちゃうかな。


私はそそくさと買い物を済ませた。

お菓子をいくつかと、牛乳パックのいちごミルク。


店員さんは何も気にしてない様子だった。

気にし過ぎてた私がバカみたいだ。


なんか拍子抜けしちゃったな。

こんなに簡単なことなのに、何を身構えていたんだろう。


コンビニの前で、寒さに震えながらいちごミルクにストローをさした。


冷たいけど、好きだったからいちごミルクを選んだ。ホットだったらもっと良かったけど、コールドしかなかった。


最後に飲んだのはいつだろう。

一年ぐらい前だったかな。

好きだったのに、いつの間にか飲まなくなってた。


一口飲んだ。すごく優しい甘さ。

きっと、しあわせを味にしたら、こんな味なんだろうなぁ。

ふと、そんなことを思った。


なんだか、しあわせって単純だなぁ。


さっきまでの悩みが、嘘のように思えるぐらいに満たされる。


私の悩みなんて、きっと簡単なことなんだと思う。


飲み干したあと、私は再びコンビニでいちごミルクを買っていた。


ビニール袋の中には3本のいちごミルク。

お母さんとお父さんにプレゼントすることにした。

当たり前だけど、私の分も買ってある。


これを飲みながら、3人でちょっと話をしてみようと思う。


そうすれば、きっと良いようになると思うんだ。

……そんな気がする。


私は、軽い足取りで家に帰った。


結局、買い食いしたことは怒られちゃったけど、その空間には、久しぶりの笑顔があった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ともすれば深刻になりがちなテーマを、思春期の女の子が想いを吐露する形で纏めておられるので、身構える事なく、すんなりと物語の中に入っていけて良かったです。 [一言] お久しぶりです。 また作…
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