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近づく毒.2



ーテオー


この世界は残酷だと思う。

人々には生まれ持った能力という格差があり、それを覆すことはできない。

ポイズンバロメッツに蹴散らされた俺と、ボードンさんは、屈まないと入れないような横穴に逃げ込んでいた。

一向に奴が横穴から離れてくれないことから、意外にも知性が高いことがうかがい知れる。



「いいか、おれが合図をしたらここを飛び出して注意を引け。俺が一旦村に戻って応援を呼んでくるまで持ち堪えたら、あいつの素材は2人で山分けだ。」



あきらかに嘘だとわかったが、もうどうでもいい。

俺が死んだところで悲しむ者は、村には皆無だ。

早く楽になりたいと思った。



「1、2、…3!! オラァッ!!」



ボーッとしていた俺は、ポイズンバロメッツに向けてぶん投げられ、頭から激突して気を失った。





「ぐっ……。」


目が覚めて、まだ生きていることに落胆を覚えた。

意識のないうちに死んでいたらどんなによかっただろうか。

体を起こそうとしたところを誰かに押さえつけられた。



「動くな。」



ロロネさんだ。

村でずっと採取系の依頼を受けている変わり者。

なんでここに?



「…ギルドから様子を見にくるように頼まれた。」


「ボードンさんはうまく逃げれましたかね」


「…いや。」



周囲の様子を伺うと、自分が採取場の中心の開けた大木の影に隠れていることがわかった。

ボードンさんは、狭い横穴を出る時を狙われたのだろう。

上半身だけ脱出することに成功していた。

そして、ポイズンバロメッツがその体を貪っているのが見えた。



「木から姿が見えると、触手で攻撃してる。あまり顔を出すな。」


ひとまずロロネさんの言うことを聞いておくことにした。



ーロロネー



状況は良くない。

見晴らしがよすぎて、ここから動けない。

頼りになりそうな戦力を集めるには、2日間ほどかかるだろう。

そもそも、生存をあきらめられているかもしれないが。


となると、何とかしてどちらかだけでも逃げたいところだ。



「ひとまず、予備の剣を貸しておく。」



邪魔な草木を断ち、素材をはぎ取る用の安物だが、無いよりかはましな筈だ。



「………。」


しかし、少年は受け取ろうとしない。



「早くしろ」



何とか持たせたが、その途端手が震えだして鉈を落としてしまった。

怪訝な顔をした俺を見て、彼は話し出した。






「なるほどな。」



彼は()()持ちだったか。


まれにこの世界には、超人的な能力を持った人間が生まれる。

祝福をもって生まれた人間は、魔法が使えないという共通した特徴があるが、

能力は役に立つものからそうじゃないものまで様々だ。

そして、彼の祝福は武器を持てない代わりに力が超人だという。


代償として激痛に襲われるということなら、一緒に戦ってもらうという選択肢は取れないな。


冒険者は、魔獣を倒すと体力や魔法の威力が上がっていく。

前世のRPGのレベルアップのような現象が起こるのだ。


高ランクの冒険者になれば、戦士系なら全員怪力の持ち主だ。

それなのに、武器を使えないというのはかなり厳しいものがある。


強い魔獣を倒すことでその爪や角を加工し、冒険者は戦闘力を高めることができる。

彼は武器が使えず、全力を出せないという2重苦に苦しんでいる。

今まで相当な苦労をしてきただろうとわかった。



「俺が囮になりますよ」



一瞬、ラッキーと思ってしまった。

だが、先日助けてもらったうえ、年下に囮を任せるのは情けないという思いで顔には出さずに済んだ。



「だめだ。2人で逃げる策を練る。」

「さっきも囮になって死にぞこないました。どうせこの先生きてても、思い通りにはいかないんだ」



そう言って、彼は振り切るように飛び出してしまった。




ーテオー



どうせ死ぬなら、人の役に立つのもいいかと思った。

全力で体当たりすれば、奴の体勢ぐらいは崩せるだろうし。

しかし、走り出した一歩目で全身が引きちぎれる痛みに襲われ、心が折れかけた。


それでも、不格好でも何とか近づこうと試みる。

その時、ポイズンバロメッツから何十本もの触手と麻痺毒が飛び出してきた。



「くそ…!こんな呪いがなければ!!」



触手は何とかかわせているが、麻痺毒は何度も浴びるしかなかった。

奴に近づく前に、体の動きが止まってしまった。



「………」



麻痺毒で声も出せず、全身がミンチになるような痛みが気絶を許さない。

迫る触手が眼前にきても何もできなかった。


体を触手が貫く。







その瞬間、ロロネさんが俺を引っ張り、何とか元の木の裏へ戻ってこれた。




しかし、ロロネさんは代償として触手の攻撃を何度も受けていた。

出血多量、手足も間違いなく折れている。

申し訳なさで押しつぶされそうだ。



「なんで助けたんですか!せっかく逃げられるチャンスだったのに!」


「俺のカバンに包帯がある。薬草の汁を浸して巻いておけ。村まで走ることができるはずだ。」


ああ……


なんて……


この人は、なんて高潔な精神を持っているんだろうか。

今まで自分と同じ落ちこぼれだと思っていた過去の自分をぶん殴ってやりたい。


自分の身を犠牲にして、人を助けることができる冒険者。

そんな、現実ではありえないと思っていた存在を前に、今までにないほど心が揺さぶられていた。





ロロネさんは体中に薬草くさい包帯を巻いてくれた。

テーピングという技法をつかったらしい。

少しだけ痛みが引いた気がした。



「ロロネさん。あなたはなぜ僕を助けてくれるのですか?」

「体が勝手に動いた。もういけ。」



それを聞いて俺は走り出した。























ポイズンバロメッツに向かって。




痛みは相変わらずだったが、俺の心はもう折れない。


生まれて初めて、全力で動いた。

俺の体は、俺がどんな無茶なイメージで動かしても期待通りの動きをしてくれた。

ロロネさんのためなら、どんな痛みにも耐えられる。



触手をかいくぐり、植物の茎のような体を全力でぶん殴った。

殴った衝撃で奴の全身にひびが入り、瀕死の体から麻痺毒が飛び散るのを無視し、引きちぎった。


そして、跡形もなくなるまで殴りつぶした。



ロロネさんのところに戻ると、目を丸くしていた。



「俺も体が勝手に動いちゃいました。」



ロロネさんを背負って村に戻る道中。

俺は、初めて自分の祝福に感謝したのだった。




最後までお読みいただきありがとうございました。

次話も近いうちに。

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