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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

頭奉り 

掲載日:2020/12/10

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 先輩は、人間がどうしてこんな形になったのか、ご存知ですか?

 一説によると、僕たちの先祖はクラゲと大差ない格好で、海を漂っていたらしいのです。それがライバルを出し抜いて生き残るために、目や耳や鼻を発達させ、早く泳ぐために身体の左右を揃えた。

 やがて一部は陸に生活の場を見出して、ひれは手足になったし、情報を処理するための脳が発達する。それから長い年月を経て、骨格が変わっていき、いまに至ったと聞きますね。


 その形を、僕たちは様々な機会に知ることがあります。

 現代では映像や骨格標本で、昔ならば本物のしゃれこうべを見る機会もあったでしょう。「しゃれこうべ」という言葉も、雨に「さらされるこうべ」がなまったという話があります。もし事実なら、野にさらされてそのまま、というケースが多すぎたといえるでしょう。

 でも、その知名度を逆手にとって、身を護る役に立てようという動きも、あったそうなんですよ。僕の地元もそうでした。

 ちょっと、それにまつわる話を聞いてみませんか?



 僕たちの地元では、数百年前まで「こうべ奉り」と呼ばれる、少し気味の悪い行事が行われていたそうです。

 およそ半月に一度、もしくは病が流行ったときにですね。村を囲う堀の外側に槍を立てていくんです。その槍の穂先にですね、しゃれこうべを通していくんです。ほとんどは石や土を加工して、固めたもので代用をしていたみたいですね。でも、中には本物も混じっていたとか……。

 初めて訪れた村を訪れた人は、たいてい驚きます。「なんと残酷なことをするのだろう」と、足を遠のかせることも珍しくなかったとか。けれども村側からしてみると、これには重要な魔よけの意味合いがあったそうです。

 その理由として語られる、過去の事件がこのようなものだったとか。

 

 むかしむかし。僕たちの地元では、大小を問わない競り合いがしょっちゅう起こっていたそうですね。

 集落同士の争いごとから、個々人の刃傷沙汰まで、いろいろと。もちろん犠牲になる人が出まして、彼らは村はずれの空いた土地の下に、葬られていきました。

 ところが、その墓を参りにきた村人のひとりが、ふと気がつきます。

 そこが墓であることを示すための盛り土と、その頂に突き立つ卒塔婆代わりの木の棒。その棒の足下の土の上に、しゃれこうべが乗っかっているのです。

 その墓の主が亡くなり、埋められたのはほんの7日ばかり前のこと。たとえ夏場に外へ放り出していたって、ここまできれいに白骨化するには、いささか早すぎる。置かれていたしゃれこうべには、はがれ損ねた肉の一片すらついていなかったとか。


 ――何者かが、別人のしゃれこうべを置いていったに違いない。嫌がらせだ。


 そう判断し、とって返した村人はすぐさま村長たちに談判。かのいたずらについて詮議を試みたのだけど、結果は想像を裏切るものでした。


 おそらくではありますが、このしゃれこうべは埋められた主の者で間違いなさそうだったからです。実際、土の下に残る分解の始まった遺体からは、頭部がすっかり消えていたのですからね。型などは取っていませんでしたが、故人は常人よりも顔がいくらか大きく、その頭蓋もまた大きいものだったとか。

 そして遺体の中途半端に肉がついていた状態から、首に関する違和感も増します。この首だけは、明らかに何者かの手によってきれいな状態にされた、としか思えなかったんです。

 しゃれこうべは改めて地中へ戻されたものの、それは心なしか生前よりもずっと軽くなっていたように思われました。いかなる企みかを探るため、村人の中でも若い男たちが中心となり、墓地の周りをよく見張るようにしたらしいですよ。

 そして数日後の夜。



 たいまつをかざしながら、村人の一人が墓の間を縫って巡回していたときです。

 右手前の音で、ごそりと小さい音がした。たいまつを向けてみると、棒の足下の土から、ぬっと頭蓋が姿を現わしたんだ。

 雨は降っておらず、風も吹いていない。雨水や突風が土をのけたわけでもないのに、頭蓋はおのずと持ち上がり、眼窩をはじめ、かつての器官がおさまっていた顔立ちをさらしていく。

 しかも、ひとつだけじゃなかった。

 周りの墓もまた、土がもぞもぞと動き出す気配があったんです。しかし盛り上がり一辺倒ではなく、少し膨らんでは引っ込み、また少し膨らんで……という不可解な動きを繰り返します。

 それはどこか、頬いっぱいに食べ物を詰め込んだ人が、どうにか喉の奥へ中身を押し込まんと、必死に咀嚼を繰り返す姿を思わせ……。

 

 そう考えると、男はうかつに身動きできなくなってしまいます。ひょっとしたらこの土の下に、人の頭蓋をなぶる何者かがいるとしたら。そいつにこちらの存在を気取られてしまったら……。

 触らぬ神になんとやら。彼は地面がおとなしくなるまで動けず、ただたいまつの明かりを慎重に動かしながら、土の動きがおさまるのを待つしかできなかったそうです。

 そして、おとなしくなった端から、またしても浮かび上がってくるいくつもの頭蓋骨。土を掘り返すことなく、透き通るかのように浮き出てくるさまは、水中から浮かび上がるかのごとき様相だったとか。

 

 村人はその件を報告し、のちに多くの人も頭蓋が浮かぶ瞬間を目にしました。

 そのたび土を掘り起こし、頭蓋を埋めていったのですけれど、何度目からかはそれも通じなくなってしまいます。

 頭蓋が逃げるんです。土を掘り起こそうとすれば、勝手に横へ転がり、離れていく。上から押さえつけようとすれば、先ほどまで頭蓋を支えていた土がその固さを失い、それに乗った頭蓋がするりと横へ逃げてしまう。その動きはまるで、空中に浮かぶ羽毛を押さえんとしたときのようでした。

 

 ついに村人たちが頭蓋を追いきれなくなると、やがて頭蓋たちはつと地面を離れて、中空へ浮き上がっていきます。ぶらん、ぶらんと小さく左右へ揺れながら高度を上げていく様子は、釣りあげられた魚のようにも見えました。

 そして村の墓から、形の整った頭蓋がすっかりなくなってしまうと。今度は生きている村人たちに異変が起こり出しました。

 最初は生活の中で、ときおりつむじからぎゅっと、上へ持ち上げられそうな感覚がするんです。初めは一瞬のみですが、何度も繰り返されるうちに一回一回の時間は長くなっていきます。

 次に、動きに精彩を欠き、頭の働きが鈍くなります。軽いものでは相手の名前をど忘れし、重いものでは急に体の動かし方が分からなくなり、指一本動かせないまま、寝たきりになってしまいます。

 ついには、息を必死に吸おうとしても吸えなくなり、死に至るのです。被害者は皆、必死にのどを鳴らして空気を取り込もうとして、それがかなわぬまま逝ったとか。

 そして彼らの頭部に関しては、一様に軽くなっていることが判明しました。ある一人の頭を開いたところ、本来は頭蓋の中へおさまっているべき、脳の姿がそこにはなかったとか。



 そうして死を迎えたものの頭は、漏らさず奪われてしまいました。

 埋葬した者はもちろん、防腐処理を施して家族の手元へ残したものさえ。やはり頭を釣られ、胴体から切り離され、手も土も屋根も押さえとしてきかないまま、空の彼方へ連れられていってしまうのです。


 幾度となく繰り返される、頭部の奪取。それを見て、村人の一部が提案したそうです。「頭を模した像を作り、身代わりにできはしないか」と。

 脳がなくなるのは、奪い主にとって必要でないから。ならば初めから脳の詰まっていない、頭蓋を模した像を用いて、あざむくことはできないかと。

 村人たちは、その案をれました。直近で亡くなり、まだ頭蓋が奪われていない者の遺族の許可をもらい、頭蓋の型を作成。その形にならって、石や土、必要に応じて他の獣の骨などの加工が行われ、頭蓋の像を大量に作成。それを墓地や村の周りへ設置したんです。


 効果はてきめんだったようですね。

 その見えない奪い主は、次々に頭蓋の像を釣りあげていき、50個を数えるときにようやくその動きを止めたと伝わっています。被害者に見られる奇怪な症状も、おさまっていったとか。

 しかし半月ごとに同じような兆候が現れたため、人々はそれに対応できるよう、頭奉りの準備を行い続けたそうです。頭が奪われなくなっても長く続けられ、住民たちの無事が祈られたのだとか。

 


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