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「ねぇ…何も出て来なかったのに、池だよ……」
朱音が言葉少なめに呟いた。
彼女がハカセと共に先頭に居るのだから、勿論先に確認はできるのだが、こんなに何も出て来なかったのは今まで無かった訳で…
池まで着いたのは二度目なので、それ程珍しがる事でも無いが…
「途中で練習が出来る予定だったのに、池って事はぶっつけ本番なのか…」
彩希がウンザリした表情で池を見つめる。
「別にクワガタ探すのに戻ってもいいけど、結局はカニに勝つ為の自主トレだったんだから別にぶっつけ本番でも良いんじゃない?」
いくみが前回の池に到着した時より軽い感じで彩希に言った。
前回のいくみといえば、カニは厄介と話を聞いただけで警戒しかしていなかったのだが、前回の逃げられたとはいえ完全に勝ちに近い攻撃からの3日間の自主トレの成果が見れる事で、お互いの期待が上回っているのだろう。
「さぁ!憎たらしいカニをきょうは倒すよ!あんなの食べたいとも思わないし!!」
桃は前回の池に到着した時とは全く違う気合いである。
食べたいからの、食べる気も失せた為に、倒すという……なかなかの悪者キャラみたいな……
「桃が倒す気合いが入っているのも珍しいよね!あの槍がどれだけ今までより変化してるのかも知りたいし。」
いくみが言う通り、槍の穂先が三つに分かれているのも今回の注目である。
「池からカニが出て来た時は今まで見た事無いけど、いきなり出て来たら危ないから、なるべく反対側を歩いた方が良いよね!」
いくみが言いながら、僕を池側に歩かせた。
流石だよ……
「当然でしょ?キラー君がみんなを守るなんか!ハカセは前をしっかり見ていればいけないのだから、後ろ側から暇そうに歩くだけのキラー君はみんなを守るって大切な立場をいくみから戴いたのよ!有り難く思いなさい!」
彩希さん?
僕はみんなを守るって役割りを戴いたのですか!
いくみ様……ありがとうございます。
本当は丁重にお断りしたかったのだが、喉元迄言葉が迫って来た時に、自らの危険察知能力が作動して思い留まる。
危うく刀を新調した彩希に試し斬りをされる所であった。
さて……絶対にカニは出て来る筈だ。
勝てないという選択肢は誰も持ち合わせていないのは、確かな事である。
緊迫感は緊張しかしないな……