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「ハカセさん!危ない!!」
羽角の声が洞窟内に響いた。
ハカセと羽角でクワガタのハサミ部分を抑え込む作戦だったのだが、クワガタのハサミを抑え込む事は出来なかったのである。
「そうだよ…クワガタって飛ぶんだ…」
桃が頭上を飛ぶクワガタを見ながら呟いた。
「飛ぶとかゴキブリと変らないじゃない!」
彩希がクワガタを同類にみている…
クワガタってカッコいいんだぞ!
「キラーちゃん、そのカッコいいのに倒されないでよ。」
前方に居たいくみが言いながら最後方に居た僕の隣に来た。
「これ、戻ってくるのかしら?」
朱音も僕の隣に…
二人共動きと判断が素早い。
「クワガタは私達を捕食しようとしてるんだから、戻ってくるわよ…」
いくみが言う通り、狙われている訳なのだから次の攻撃に僕達も備えないといけないのだが……
「勿論飛ぶとか頭に入れてなかったわよね…しかも後ろ側に回り込まれるとか…」
彩希がそれでも斬りかかる様な姿勢をみせている。
「やっぱりまた地面に降りた時に抑え込むしか作戦はないですよね…」
額に汗を滲ませながら羽角が僕の前に立つ。
「いきなり目の前から消えた事しか分からなかったよ!」
ハカセも慌てて羽角の左側に立つ。
「戻って来た時がチャンスよ…ピンチとも言うかも知れないけど…」
朱音が薙刀を手にしながら、ジッと飛んでいるクワガタを見る。
先程よりもう少し距離が出来たみたいだ。およそ30メートル程僕達の頭を飛びながらターンして地面にクワガタが降りた。
「なんとかこっちも並びをなおせるよね!」
言いながらいくみが僕の顔を覗き込む。
相変わらず美人だな…
「キラーちゃん、ピンチの時なんだから余計な事を思わない!」
一発でいくみに抑え込まれる。
「ちょ、ちょっと待って!ハカセ…右手……」
彩希がハカセの右手の肩付近を指差す。
「うわぁ!血、出てんじゃんかっ!いつ??血を見たら急に痛いし!!」
ハカセが肩付近をいきなり出血していた。
「大怪我では無さそうです。恐らくクワガタのハサミがハカセに触れたんでしょうね…」
羽角が言う通りだろう。
かすり傷とは言い難いが、手もしっかりと動いているので大丈夫な筈だ。
「あのハサミ、やっぱり危ないんだね…」
桃は先程、頭上をクワガタが通っていった時にジッとクワガタを見ていたのだが、その視線が余計に強く見つめる様な気がする。
「ハサミは前に解体する時に思ったのだけど、尖端部は鋭いのよね…」
すずかが鉈を見つめながら話す。
クワガタは飛ぶのを忘れていたのは僕達の失態だが、ここから切り替えていかないと……




