(二)父親の存在①
(二)
多くの貴族が集まった新年会。
新大臣達の紹介が終わると、料理と酒が運ばれてきた。
この国では十八歳になるまで飲酒が許可されていない。当然、ラーソルバールらは酒を飲む事が出来ない。
酒なしで、食事と茶を楽しむという事になる。
あとは出席者との会話なのだが、先程の事が、ラーソルバールはややトラウマになっている。
エラゼルから離れるものか、としっかりと腕を掴んだ。
感触に気付いたエラゼルは自分の右腕を見て、ラーソルバールの手がそこにある事を認識すると、微笑を浮かべる。
自分が居ない間に何が有ったかは知らないが、友のためには離れないほうが良いのだろう、とエラゼルは考え、そっと左手を添えた。
エラゼルの手で安心したラーソルバールは、視線を上げる。同時に、視界に入った光景に少し驚いた。
「あれ、エルフ?」
国王の近くに数人のエルフが居る。
王都で見かける事はほぼ無いと言っていい亜人種だ。妖精に属するとも言われている。
ラーソルバール自身、見るのは初めてではないが、このような会に出席している事は驚きだった。
周囲の貴族も、彼らに礼を欠かさぬよう努めているのが、遠くから見ても分かる。
「ああ、ティアールの森に住んでいる者達の、長とその家族だ」
ラーソルバールの言が聞こえていたのか、父が教えてくれた。
「覚えておきなさい。彼らは、陛下の臣下ではない。集落や街が王国内に在るとは言え、彼らはこの国の法にはとらわれない。自治領主というか、小さな別国家のようなもので、彼らはあくまでも友好の為に招かれているんだよ」
「私は始めて見ました」
エラゼルの言葉にシェラが頷いた。
実のところ、エラゼルが口にした言葉は意外ではない。
エルフの民はあまり人間との接触を好まない。そうではない者も存在するが、あまり多くは無い。
従って、エラゼルのように、エルフを見たことが無い人間の方が多いのは当然と言えた。
「こういう機会でもなければ、彼らと接点を持つ事など無いに等しいでしょう。だからといって、奇異の目で見るのは失礼にあたる」
そう言うと、エラゼルはエルフ達から視線を外した。
「ああ、そうだ。エラゼルさん、シェラさん、ご挨拶がまだでしたね」
そう言うと、父は二人のほうへ向き直った。
「私がラーソルバールの父、クレストです。娘がお世話になっております。そして、これからも宜しくお願いします」
父は頭を下げた。娘の友に対する礼儀というには丁寧さに過ぎる。
エラゼルもシェラも、それが娘に対する父親の愛情の表れなのだということが、すぐに理解できた。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
二人が声を合わせ、同時に頭を下げた。
父はにっこりと微笑み、ラーソルバールの頭をぽんぽんと叩いた。
「それからエラゼルさん、私は貴女のお父上にご挨拶をしなければいけないと思っていたんです。ご紹介頂けますか?」
「え、…ええ。問題ありません」
突然の事に、エラゼルは一瞬驚いた。同時にエラゼルの腕を握る手に、少し力が入る。
デラネトゥス家との接点を持とうと、自分に近づいてくる者は多かった。
この人にも、そういった考えがあるのだろうかと考える。
だが、ラーソルバールのような人間を育てた父親が、そのような人物のはずが無い。エラゼルは雑念を振り払った。




