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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十二章 幕開け

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(四)大忙しの一日②

 エレノールさんから薦められたネックレスは、どれも私にとっては派手に思えるものだった。

 悩んでいると、ふと、目に入ったものがあった。

 工房のテーブルの隅に置かれた小さな箱から、少しだけ顔を覗かせた物だった。

「ご主人、申し訳ありません。あれを見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あん? ああ、あれか」

 ご主人は、工房から私の指差したものを持ってきてくれた。

「これは、売り物ですか?」

「ああ、一応な。これは今年、仕事を止めちまった俺の親父が最後に作ったモノだ。質はいいんだが、金持ちのご夫人からは見向きもされなかったんで、引っ込めたんだ」

 手に取ると、派手さは無いが細やかな見事な装飾が施された地金と、美しい青い宝石が存在感を示し、両者が見事に調和していて、私は思わず見惚れてしまった。

「ほうほう……」

 エレノールさんが身を乗り出す。

「お嬢様、ちょっと着けてみませんか?」

 ちらりとご主人を見やると、無言で頷いてくれた。

 遠慮しつつもゆっくりと丁寧に首にかけてみる。それを見守っていたエレノールさんの笑顔が弾けた。

「おお、お嬢様! よくお似合いですよ! これなら赤いドレスにも映えます!」

「ち、親父に嫉妬するな。金を持ってるだけのババァに売れる物より、こんな綺麗な娘さんを飾って、美しさを引きだせるような品を作る事の大切さが、身に染みたぜ」

 これで気合が入ったのか、エレノールさんはすごい勢いで店内を見て回り、指輪と腕輪を見繕ってしまった。

 結局、それらを購入したのだが、ご主人のご厚意で少し安くして頂いた。と言っても、かなりいい金額が飛びました。

 当然、父の言った、私の命の値段よりも高いです、ハイ。お金の出所は言わずもがな。あの家から貰ったものです。


 このあと父の服を買い、私の服を受け取り、次は難題フェスバルハ伯爵への祝いの品の選び。

「お酒で良いです」

「え?」

 何を買うか悩んでいたところ、エレノールさんからあっさりとしたアドバイスが。

「良い酒であれば、それで良いです。そういった物を置いている店はありますか?」

「父の酒を買っている店なら、高い物も有りますし、相談もできると思います」

 昨日、父に渡した酒もそこで買ったものだ。

「よし、行きましょう」

 ずんずんと進むエレノールさん。いつの間にか私を追い越していた。

「店の場所、分かってます?」

 私に言われて足を止め、顔を真っ赤にした。

「す、すみません。空回りしてしまいました」

 そう言うと、また私の半歩後ろに下がった。

 エレノールさんはフェスバルハ伯爵の事が余程大事と見える。けれど常にこうでは無いところが、この人の良く分からない所だ。

 二人で色々と荷物をぶら下げて歩く。

 以前ならひったくりに遭遇していたかもしれないが、今は治安も良くなったのか、そういう事も減った。父上には内緒にしてあるが、以前そういった輩を撃退した事があるので、私の事を避けているのかも知れないが。


「ここです」

 私は店の前で足を止めた。気持ちがはやる様子のエレノールさんに合わせて、二人で足早に歩いてきたので、予定よりも早く到着した。

「よう、ラーソルちゃん、いらっしゃい。この間は高い酒を買っていってくれて有り難うよ」

「いっつも安酒しか買ってませんからねえ」

「そう言うなって、それでも常連さんは大事なんだよ」

 店のおじさんはいつも明るい。おかげでここに来ると少し元気になる気がする。

「おほっ!」

 店内を物色していたエレノールさんが奇声を上げた。

 何かあったのだろうか。

「これこれ、伯爵の好きな酒です! 滅多に手に入らない珍しい品です。それも、いつも見るのより上級なやつです!」

 酒の事は良く分からないので、エレノールさんにお任せしよう。

「おや、姉ちゃんお目が高い。いい酒だぜぇ。うちの自慢の逸品だ」

「じゃあ、それください」

「……んあ?」

 おじさんが固まった。


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