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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十一章 エラゼルとラーソルバール(後編)

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(三)激突②

「どう思う?」

 試合を見ていたジャハネートが視線を外さずに、ランドルフに聞いた。

「あの娘、多分また全力出してないぞ。それに近いくらいは出してるようには見えるが…」

「デラネトゥスの娘との戦いが楽しいのかね」

 髪を指に巻きつけながら、不思議そうに呟く。

「ああいう、正面から真っ向勝負できる相手がいいんだろうな」

「どっかの筋肉バカみたいにかい?」

「……俺の事じゃないよな?」

「アンタ以外に誰がいるんだい?」

 サンドワーズも、大臣も沈黙する中、横に居たシジャードだけは楽しそうに笑って聞いていた。


「エラゼル。本気でかかってきてね」

「何を言っている、私はさっきか……」

 言いかけた瞬間、ラーソルバールが突然迫ってきたかと思うと、死角の真下から剣が飛ぶようにやってきた。

 辛うじて避けたが、次の瞬間には全く違う真横から襲い掛かってくる。

 次々と繰り出される攻撃を凌ぐ事何度目か。ついに対応しきれず、エラゼルは剣を弾かれてしまった。

 さらに襲い来る攻撃を避けると、慌てて剣を拾いに転がる。

 剣を手にする事に成功したものの、大きく息は乱れていた。

(先程までと違う……)

 内心、焦りが出てきたが、エラゼルは一切表情には出さない。

 歓声が聞こえる。

 激戦を見て沸き立っているのだろうか。両者の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 声援が後押ししてくれている。だが、誰の声だろう。

 家中の者の声のような気がする。

 自分は、家を背負って戦っているのか。ラーソルバール・ミルエルシという宿敵に勝ちたい理由は、デラネトゥスという家名の為か。

 違う。勝利を欲しているのは、自分自身の為だ。

 エラゼルは吹っ切れた気がした。

「貴女は私が倒します」

 あの時と同じだ。たとえ泥臭くても、勝てば良いという想い。いや、あの剣に勝ちたい。

 その気持ちを胸のうちに隠して、ラーソルバールを睨み、剣を握りなおす。


 真っ直ぐすぎるエラゼルを見て、ラーソルバールの心は揺れた。

(戦うことでエラゼルを拒絶したくはない。だけど、私は彼女の宿敵で居続けなければいけない気がする。それに……)

 本気でやらないのは、何よりエラゼルに対して失礼だ。

 剣を取り、立ち上がったエラゼルを見て、ラーソルバールは決意した。全力で行こう、と。

 ラーソルバールは地を蹴って、舞うように剣を繰り出した。

(速い!)

 エラゼルには、その速さが今までとは違うものだとすぐに分かった。

 そしてそれがラーソルバールの本気であり、対戦者への最大限の礼儀だという事も理解した。

「それでこそ、宿敵!」

 次の攻撃に対応して出した剣は、するりと避けられ、ラーソルバールの髪の一部を揺らしただけにとどまった。

 だがこの後、魔法を使う間も与えられぬ猛攻に、エラゼルは防戦一方に追い込まれた。

 幾度もの攻撃を剣で受け流してはいるが、時折剣が鎧を掠める。

(ここまでの差があるとは)

 そう思った直後だった。

 ラーソルバールは一瞬身を低くすると、斜め下から剣を繰り出した。

 それはエラゼルが見たことも無いような速度で、正確にエラゼルの剣を狙い、弾き飛ばすための攻撃だった。

 次の瞬間に、エラゼルの剣は宙を舞っていた。


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