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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第一部 : 第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)

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(二)情熱①

(二)


 大会は二日目を迎えた。

 エラゼルにとって、気になるのは、ラーソルバールの初戦だった。多少は腕の立つ者も居るようだが、気にはならない。

 敵はただ一人、と決めている。

 どのような試合をするのか。幼年学校の時のように、訓練を思わせる戦い方をするのだろうか。

 はたまた、自分と同じように、さっさと終わらせるのか。

 それが高揚感であると、エラゼルは朧げに認識した。

 エラゼルの視線が注がれる中、ラーソルバールの試合は始まった。

 相手はエラゼルと同じクラスの推薦入学の男子生徒だった。

 推薦入学者だけあって、弱くは無いし、資質もある。対人訓練でも時折、エラゼルの相手を務めることがある。

(はて、名は何だったか)

 だが、エラゼルにしてみれば名を覚える程ではないらしい。

 それでも一応は、魔法でもどんどん使って、ラーソルバールを困らせてみろと少々期待してみた。

 エラゼルの思惑通り、動き出す前に、何か魔法を使用していたようだ。恐らく、速度上昇(ヘイスト)魔法盾(シールド)あたりを重ねがけしたのではないか。

 自信を持って突っ込んだように見えたものの、手を出す前に、ラーソルバールの一撃であっさり勝負がついてしまった。

「ふむ……」

 容赦ない。エラゼルは大きく息を吐き、苦笑した。

 エラゼルとは違い、寸止めに近い軽い当て方で済ませる辺りが、ラーソルバールらしいと思わせる。

「やる気が有るのか、無いのか」

 表情も変えずに引き上げてくるラーソルバールを見て、エラゼルは呆れた。


 この日はガイザの他、エミーナや、グレイズ、ジェスターらが登場し、難なく初戦をクリアしていった。

 意外だったのが、隣室のミリエルだった。

 戦斧を手に、ひと降りで相手を倒してしまったのだ。

 女戦士さながらの見事な戦いぶりに、ラーソルバールは思わず拍手をしていた。

 食事を共にした事はあるが、稽古をした事もなく、噂も聞かない。少々楽しみにしていたのだが、良い意味で期待を裏切られる形になった。

 興奮気味にラーソルバールが「私も頑張らないとね」と言った瞬間、シェラは眉間にシワを寄せた。

「アナタはこれ以上、何を頑張るって?」

 よく分からないが怒られた。

「ガイザが強くなったのは勿論だけど、グレイズも相当腕を上げたね」

 話をそらそうと、この日に有った試合の話を振ってみる。

「ジェスターも休学中に、何をしていたか分からないけど、強くなったみたいだね。戻って来てからは、大人しくしてたみたいだけど」

 何とか誤魔化せたようだった。

 時折ラーソルバールを睨んだりするものの、それ以外は以前と違って大人しく見える。

 むしろ、何か思うところが有りそうなので、考えを改めたと受け取るのは、時期尚早な気がする。

「そう言えばさ、昨日お父様が見に来てくれたんだけど」

「?」

「知り合いの方から、デラネトゥス家の誕生会で、白のドレスと赤のドレスを着た二人の共演が素晴らしかったって、聞かされたんだってさ。何の事だか、知ってる?」

「え?」

 シェラの言葉に、思わずむせかえる所だった。

「エラゼルさんの誕生会行ったんだよね?」

「う…うん、出席だけ……」

「白のドレスはエラゼルさんとして、赤のドレスってラーソルでしょ?」

 こういう時のシェラは鋭い。

「何したの?」

「何もしてないよ。公爵から会の出来事については守秘義務が有ると言われているから」

 さすがにシェラ相手でも、暗殺者と戦って王子と踊りました等とは言えない。

「なぁんだ、つまんない。どうせ色々しでかして来たんだろうと思ったのに」

「人聞きの悪い……」

 それ以前に妙な噂が立っている方が気になる。内容が暴露されていないだけ良いが、今後どうなるか分からない。

 変な尾ひれがつかなければ良いが。

 少し不安になったラーソルバールだった。


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