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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 :第五十一章 野心の先

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(二)闇夜①

(二)


 時を遡ること三日前。

 ヴァストール王国の王都エイルディアの一角では、年末も近づいた夜にもかかわらず多くの保安衛士達が慌ただしく駆け回っていた。

「駄目です! 周囲も邸宅内をくまなく探しましたが、居たのは使用人だけで、被疑者は居りませんでした!」

「ちっ……逃げられたか……。まったく見張りの連中は何をやってたんだ! ……とりあえず使用人たちが行き先を知っているかもしれん。全員拘束しておけ」

「はっ、了解いたしました!」

 上司に敬礼を返すと、若い衛士は急ぐように駆けていった。

 衛士達が行方を追っているのはベッセンダーク伯爵。王宮で催された王太子婚約の宴で爆破事件を引き起こした黒幕であるとして、捕縛命令が出されていた。

 宴の場では途中から変装をしていたと思われるため、事件への関与に確たる証拠は無い。だが、爆発物を受け取った令嬢たちの証言した身体的特徴が伯爵と一致しており、また誰もが納得するような動機を抱えている事が決め手となった。

「まったく、法務の連中の処理が遅かったせいだな……」

 衛士の一人がぼそりとつぶやいた。それが聞こえたのか、別の衛士が吐き捨てるように続けた。

「罪状が複数あって処理に時間がかかったと言っていたが、時間稼ぎされたんじゃないか……?」


 実は渦中の人物であるベッセンダーク伯爵は、衛士隊が邸宅を包囲する半刻ほど前、闇に紛れて王都を脱していた。

 その手助けをしたのは最高神シ・ルヴァを祀る教会の神官達であった。彼らと同行することで伯爵は教会関係者を装い王都の門を潜り抜けたのである。

 爆破事件にとどまらず伯爵の罪は多岐に及んだとはいえ、国の中枢である法務にも教会の息のかかった者たちが少なからずおり、伯爵の逃亡のための情報提供と時間稼ぎをしていたのである。図らずも衛士たちの愚痴は核心をついていた事になる。

 そして当然、彼らの背後にはマリザラング大司教の存在があることは言うまでもない。

「教会に多額の寄付をしたのだ。無事に国外に出られるのだろうな?」

 脱税や不法行為による資産の差し押さえが行われる前に、可能な限り現金に換えて教会に預け、その一部を寄付とした。言わば伯爵は教会の客である。

「もちろん、国外の最高神教会まで安全にお送りする予定でございます」

「ああ、ではよろしく頼む」

 小さなランタンの光が二人の顔を照らし出す。

 領地にいた家族も同じように教会の者に手引きされ、既に国を脱している頃だろう。ベッセンダーク伯爵は今にも頭上に覆いかぶさろうとする雨雲を恨めしそうに見上げる。

 食うに困らないだけの金があるとは言え、貴族としての身分を捨てて逃げざるを得ない状況。だが、復讐の機会は必ずあるはずだ。

 あの小娘を殺し損なったのは残念だが、諦めたわけではない。そして自分を捨てたこの国にもいつか屈辱の対価を支払わせて見せる、とベッセンダーク元伯爵は王都の方角を睨んだ。



 そして年が明け、帝国で新年の宴が行われていたのとほぼ時を同じくする頃のこと。

 ヴァストール王国王都エイルディアにあるデラネトゥス公爵家においてささやかな宴が行われていた。

 公爵家の三姉妹は当然揃っていたものの、次女と三女の婚約者の姿はそこには無かった。

 三女エラゼルの婚約者である王太子オーディエルトは、王家主催の新年の宴を中止とした建前上、臣下の宴に出席しないという当然の判断があった。また、次女ルベーゼの婚約者リファールも正式にレンドバール王国の王太子となり、国内の建直しに奔走しており多忙な日々を過ごしており、ヴァストールに足を運ぶ暇などは無かったのである。

 むしろルベーゼがレンドバールに赴くべきところなのだが、それは安全上の問題で拒否されているというのが実情だった。


 この日集まった友人たちとの会話の中で、婚約披露の宴に話が及んだ時の事。

「全く、ラーソルバールときたら……」

 エラゼルはそう言って不満げに口を尖らせた。

「何?」

 穏やかな会話が続いていたところで。いきなりエラゼルの怒りの矛先が向けられて、ラーソルバールは驚いたように目をしばたかせた。

「宴のあと、待っておれと言っておいたのに、さっさと帰りおって! しかも直後には遠征で不在になるなど……。どれだけ私が心配したと思っているのだ……」

「いや、心配してくれるのは有難いけど……。あの時は治癒のおかげでもう完治してたし、エラゼルは陛下とのお話やらご挨拶やらで遅くなるからと、ウォルスター殿下に追い出されたんだってば! それに……遠征は私の責任じゃないし……」

「むむむむ……」

 エラゼルはウォルスターの名を出され、怒りの行き場をなくしたように口を閉じた。

 実際に、あの後ウォルスターはラーソルバールを気遣って、安全を確保するために信頼する近衛兵を護衛としてつけ、無理やり邸宅まで送り届けさせたのである。

 婚約者補とはいえ、たかが男爵には過分な措置ではないかと思っているのだが。


「それはそうと原因の『蔦に鹿』が行方をくらましたと聞いたけど……」

 話題を変えるように、シェラが口を開いた。


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