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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第五十章 それは何色か

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(三)己の剣に懸けて①

(三)


 第二騎士団がゼストア王国の捕虜達を護送しながらベスカータ砦へ向かう道中、その初日の野営で問題は発生した。

 一部の捕虜の不満が噴出したのである。

「貴族である我々が捕虜とはいえ、このような待遇で有る事は許される事ではない! 粗末な天幕に加え、手枷をしたまま食事をせよとはどういう道理か!」

 ゼストア王国の名門伯爵家の次男が口火を切った。

 彼の言い分はともかくとして、少なくとも終戦後に王都に連行した際よりは好待遇なのは間違いない。

 野営での食事や天幕なども護送する騎士達と比してそれ程劣る訳ではないし、逃亡や反乱を企図しないよう手枷なども最低限必要なものである。それでも、彼らは帰国できるとあって気が大きくなっているのか、ヴァストールの騎士に食って掛かった。

 周囲にいた捕虜達もここぞとばかりに同調し、一方的に騒ぎ立てたのだから監視役の騎士達もたまったものではない。

 その連絡はすぐに中隊長らを集めた報告会に出席していたラーソルバールらの耳にも届くこととなった。


「先頭の第一大隊管轄の捕虜達が暴動寸前の状態になっております!」

 駆け込んできた騎士は、息を切らしながらそう報告する。

「なに……!」

 中隊長達が一斉にざわめいた。

「……とりあえず想定内と言えば想定内ですが、まずは騒ぎを鎮静化させるとして、何か有用な手段がありますか?」

 一呼吸おいて、一人の騎士がそう言って大きくため息をついた。

「貴族の馬鹿息子共なんざ、一発ぶん殴れば大人しくなるだろう?」

 ギリューネクは事態に呆れながらも、彼らしい言葉で応じる。

 貴族嫌いのギリューネクとは意味合いが違うものの、ランドルフに意見を求めても似たような事を言いそうだと、ラーソルバールは思わず苦笑した。

「手を出したらあとで問題になりかねませんよ……」

 同意するようにかつての上司、ヴェイスが頷く。そのまま立ち上がると、ひとつ手を打ち鳴らし全員を見据えた。

「大隊長達への連絡は私がするので、現場へ行ってください! 第一大隊所属の中隊及び、隣接する第二・第三大隊は現場へ、それ以外は同様の事態を未然に防止するため持ち場へ急いでください!」

「応っ!」

 現在は事務方に回っているヴェイスの言葉に応えるように一同は声を上げ、即座に報告会を中断して急いで天幕を出ると、各自持ち場へと急いだ。


 篝火の間を駆けるラーソルバール達の姿は周囲より明るく照らし出され、騎士、捕虜問わず何事かと人々の視線を集める。

「……ん?」

 グスタークは天幕の脇で食事をとっていたが、金属鎧が忙しく奏でる高い音がいくつも近付いてくるのに気付くと、音のする方へと視線をやった。

 見れば駆けてくる一団の中に、あの金髪の騎士が居るではないか。グスタークは慌てて食器を置いて立ち上がった。

「そこを急がれる一団の方々にお訊ねする!」

 グスタークの腹に響くような良く通る声に、走っていた者達は足を止めた。

「私はグスタークと申す者だが、何やら有ったご様子。非才なれど将軍職を務めていた身、お役にたてるのであれば同行しよう」

 思わず口を突いて出た言葉に、グスタークは自分でも驚いていた。


 先程から遠くから騒々しい声が聞こえており、自軍の者達が何か騒ぎ立てているのではないかと気になったからでもあるが、あの騎士に対する興味から協力を申し出るというのはいささか行き過ぎであったかと後悔した。

 将軍を名乗る自分が行けば、反乱でも企てるのではないかと警戒されて当然である。騎士達は一旦足を止めたものの、案の定顔を見合わせ思案するような素振りを見せた。

 そんな中、ひとりの年輩の騎士が周囲をなだめたかと思うと、押し出されるようにあの金髪の騎士が前へと出た。

「貴国の一部の方々が、待遇に不満があると騒いでおられるのです。こちらで事態を収拾させるつもりですが、穏便に済ませるためにご助力願うかもしれません。ご同行願えますか?」

 意外な反応に驚きつつも、グスタークは大きく頷いた。


 グスタークを伴い、九人の中隊長達が現場に着いたのはそのすぐ後のこと。

 今にも暴動に発展しようかという状況が見て取れ、慌てたのは騎士達よりもグスタークの方だった。だが、ヴァストールの騎士達を差し置いて行動する事などできない。声を出しそうになるところ、唇を噛み拳を握りしめて踏みとどまった。その直後のことである。

「お静まり下さい!」

 喧噪を裂くように、女性の声が響いた。


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