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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十八章 つむじ風

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(四)想いは彼方②

 子供のようにあやされて、恥ずかしさに少し頬を染めたラーソルバール。

 良い友人を持ったものだと思いつつ、赤らめた顔に気付かれぬよう、うつむいて書類で顔を隠す。

「気にしないでいいよ」とは強がってはみたものの、やはりシェラの優しさは嬉しかった。

「さて……」

 顔を上げる訳にもいかず、誤魔化すように次の書類に手を伸ばす。


 ラーソルバールの前に積まれた書類は多岐にわたる。王都近郊の警備や所管内での事件に関する報告書などから、武器や備品の管理書、個人の日次業務報告書などといった書類まで。

 山積みされていたものをようやく片づけ終わると、ラーソルバールは大きく息を吐いて椅子の背もたれに寄り掛かった。

「お疲れ様でした」

 シェラが声をかける前に、ビスカーラが慰労の言葉を発した。

 この日は小隊長であるルガートが休暇であったため、彼女は少し前に代理で引き継ぎに訪れており、そのまま手伝いをしていたのである。

「手伝い有難う御座いました」

 シェラは素直に頭を下げた。

「しかし……凄い書類の量ですね。同じ事をギリューネク隊長もやっているんでしょうけど、その姿が全く想像できませんよ……」

 ビスカーラが笑いながら言う。

「失礼なこと言ってないで……」

 とは言ったものの、ラーソルバールも必死に書類に向かう彼の姿を思い浮かべて、こみ上げる笑いを二人に気付かれぬよう必死に押し殺した。

「じゃあ、明日の分の書類はこれです。小隊長に渡してください」

「了解しましたっ! じゃあラーソル隊長、明日はごゆっくり!」

 書類をシェラから受け取ると、ビスカーラは笑顔を残して帰って行った。



 シェラ達の協力もあって、見込んでいた時間よりも早く帰宅することができたラーソルバール。だが、帰るなり慌てて駆け寄って来たエレノールにいきなり手を掴まれた。

「な……なに?」

 驚いて尋ねるラーソルバールに、エレノールは黙って唇に人差し指を押し当てた。

「……今、お客様が来られていまして、旦那様が応対されています」

 ラーソルバールの耳元で、囁くように状況を伝える。

「こんな時間に来訪者の予定なんて……」

 父への客と言うのも珍しいが、そもそも誰かが来るとは聞いていない。

 早く帰ったとはいえ、既に日没後であり外は暗い。こんな時間に、事前の連絡も無く父に会いに来る人物とは誰か。王太子なら王宮で済むだろうし、それ以外の要人だろうか。

 気にはなるが、エレノールの様子を見るに覗きに行く訳にもいかないだろう。そう思ったところで、僅かに聞こえてくる怒鳴り声に思わず視線を動かす。

「今の声……」

「ええ、ミランデール子爵がお越しなのです。旦那様からは、お嬢様が帰ってきても絶対に見つからないようにして欲しいと頼まれております……」

「伯父様が……?」

 ミランデール子爵は父の従兄にあたる人物である。ラーソルバール自身、何度か会ったことは有るものの、挨拶程度の会話しかした記憶がない。そんな人物が何の用事で来たのだろうかと疑問が首をもたげる。


 エレノールに誘われ階段下まで来たところで、奥の部屋から扉を乱暴に開く音と共に、大きな声が上がった。

「今日はもういい! 日を改めてまた来る。この話は良く考えておいてくれ!」

 吐き捨てるように言葉に、エレノールは慌ててラーソルバールを階段の陰に隠し、廊下からの視線を遮るようにその前に立った。

「お客様がお帰りになられます。各自失礼の無いように!」

 背後の主人を客に気付かれぬよう侍女達に声をかけると、堂々とした立ち振舞いで頭を下げた。

 ミランデール子爵はエレノールに一瞬視線をやるが、ラーソルバールに気付いた様子もなく、フンッと一度大きく鼻を鳴らし、勢い良く玄関から出ていってしまった。

「やれやれ……」

 あとから呆れ顔を隠そうともせず、杖をつきながらゆっくりとやってきたクレストにエレノールは小さく頭を下げる。

「子爵は随分とお怒りのご様子でしたね……」

「まあ……致し方ないな……」

 クレストは苦笑いを浮かべ、苛立ちを抑えるように頭を掻く。

「何の話だったの?」

 階段脇からひょいと姿を現したラーソルバールは、訳が分からないとばかりに首を傾げた。

「ああ、食事の時にでも話すよ……」

 クレストは大きくため息をついた。


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