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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十七章 夏嵐去りて

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(四)火種①

(四)


 バハール帝国首都にある、皇城の一室。

 広い室内にテーブルを挟んで向かい合うように腰掛ける初老の男が二人。その表情は険しい。

「ドグランジェ卿の仕掛け、自国に損害が無いのは良いが結果的にはあまり大きな効果を上げなかったようですな」

 レンドバール王国とゼストア王国の二か国が、ヴァストール王国に攻め込み敗戦したとの報を受けての事である。鼻で笑うように言われ、ドグランジェは露骨に不快感を示した。

「ゼオラグリオ卿は我が国も参戦し、三方から攻め入れば良かったとでも言うのか?」

「いやいや、たかが一国相手に二国を利用してまで攻め入ったとなれば、帝国は独力では何も出来ぬ卑怯な国よと蔑まれる事になりましょう。もとより力で捻じ伏せるような戦いでなければ、皇帝陛下も納得されるとは思えませんな」

 ゼオラグリオはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

「そもそも先に件の国に仕掛けたのはゼオラグリオ卿ではないかね? ファタンダールとかいう怪しげな男を使い、見事にしくじったと記憶しているのだが?」

 一年前の事を持ち出して、優位に立とうとする相手を牽制する。

「おお……そういえば最近、奴の姿を見かけぬが、どこぞに雲隠れでもしたのかな? よもや飼い犬に手を噛まれて処分したという事ではあるまい?」

「む……」

 続けざまに言い放った言葉が的を射ていたため、ゼオラグリオは一瞬言葉を詰まらせた。

「奴は失敗し、不要になったから責任を取らせて処分しただけだ。……そんな事より今回の件、陛下には何と報告するのだ?」

 苦し紛れの言い訳を誤魔化すように、話を切り替える。

「なに、交渉していた国が暴発して勝手に動いたと言うまでのこと。さしたる問題がある訳でもない。《《誤って》》他国に踏み込んだ不幸な兵が居たが、それは私の管轄ではないしな」

「だが、外交に精力的に動いておきながら、大事な駒を先に使い果たしたと責められれば言い訳のしようも無いのではないか?」

 腹の探り合いのような応酬が続く。あえて穏やかな表情を作りつつ、腹の内を隠す老練な手管。

 二人は同じ侯爵位を持つ将軍職であり、同世代ということもあって接点は多い。敵対している訳ではないが、過去も現在も協力関係にあったことは無い。どちらかと言えば好敵手という存在に近く、互いの功績や能力は評価しているだけに対抗心もあり、相手に対する警戒感は強いと言える。


「ふむ。それは皇帝陛下のお考え一つだが、貴殿の言うように独力で捻じ伏せるのを好まれるご気性であれば、心配することも有るまい」

「確かに陛下のご機嫌次第では、むしろ件の国が持っている戦力や人物についての情報を得る良い機会だったと捕えて頂けるやもしれんな」

「そのようにご理解頂けると有難いな」

 含みが有るような苦笑いを浮かべたドグランジェ。

 説明に自信が無い訳ではないが、現皇帝はまだ若く先代と違って気性が荒い。言葉を誤れば叱責を受けるだけでは済まなくなる。

「こういう時、貴殿には良い参謀がついていたではないか。彼はどうした?」

「ルクスフォール伯か……。儂も顔を見に行ったのだが、病に侵されておりもう長くは無いと言われ続けている程で、生きているのが不思議なくらいの状態だったよ……」

 辛うじて生き永らえているのは薬か魔法によるものか、それとも死ぬに死ねないという強い想いがあるからなのか。ドグランジェは良き友人でもある男の姿を思い浮かべ、天を仰ぎ嘆息した。

「そうか、気の良い男だけに惜しいな」

 目の前に置かれていたティーカップを手にすると、ゼオラグリオは少し寂しそうな表情を見せた。それは演技では無く、本音なのだとドグランジェにも分かる。

「まあ、いずれは彼の息子がこの国の重職を担うようになるだろうさ……」

「ほう……それは面白い。貴殿がそこまで言うような者なら会ってみたいものだ」

「ああ、折を見て顔を出すように言って置こう」

 僅かに笑みを浮かべると、ドグランジェは自らもティーカップにを手に取り、表情を隠すように口をつけた。

 暫し沈黙のが室内を支配したが、ゼオラグリオは大きく息を吐いた後、控えていた侍従達に室外へと出るよう手で合図を送る。そして本題とばかりに、身を乗り出した。


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