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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十六章 時の運・人の運

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(二)反撃②

「入り口は炎で一時封鎖しました! 門付近の部隊は協力して侵入した敵兵を殲滅してください!」

 シャスティは魔法による音声拡張効果を使い、大きな声を張り上げて下で戦う者達に状況を伝えた。これには味方の士気を上げるためだけでなく、敵の動揺を誘うという狙いもあった。

 戦いの最中に視界の端に入る黒い柱、それはシャスティの言葉を裏付ける証。門の外で立ち上る炎は、奪った命を黒い煙に変えて天へと昇って行く。

 剣を交えて戦う数がほぼ同数である今、敵がこれ以上増えることが無ければ、多方向から攻撃できる守備側が有利なのは間違いない。炎がいつまで入り口を塞ぐ役割を果たすのか分からないとはいえ、勢いに押され気味にあった戦況は一息つけることになる。

 僅かに光明が見えたヴァストール軍の士気は上がった。

「押し返せ! 今が好機だ!」

 フェザリオが叫び、騎士達の雄叫びが続く。

「第二の連中に良いところを取られるな! 団長に殴られないよう第八は気合を入れていけ!」

「第四が突撃だけが取り柄ではないと見せてやれ!」

 呼応するように次々に声が上がり、ヴァストール側は一気に攻勢に転じた。


 砦に侵入したゼストア軍は後ろは炎に阻まれたうえに頭上からは矢が襲い掛かり、前面には勢いを取り戻した相手と、全てにおいて状況は悪化したと言って良い。だが、それを甘受できるほどにグスタークは諦めの良い男ではなかった。

 士気を上げる為に、西門まで抜けて門を開き味方を導き入れるのだと豪語したのだが、この兵力ではそこに辿り着くまでに損耗するのは目に見えている。せめて上部からの攻撃を無くし兵力を無駄にしない場所で戦う事が出来れば、味方の再突入までの時間は稼げるはず。

 その時まである程度の戦力を維持できれば、敵を挟撃する事も可能になる。

「門を背にした方角へ一点突破を図る! 重装兵で左右は敵を抑え、前面に戦力を集中しろ! 己の腕に自身の有る者は我に続け!」

 剣を手に若くして将帥に昇ったグスタークには、己の武に対し揺るぎない自信がある。この一刻の猶予も無い状況を打破するには自身が動くしかない。グスタークは味方の兵をかき分け最前部に躍り出た。

「ヴァストールの弱兵共よ! このストリオ・グスタークが武に恐れおののけ!」

 グスタークはそう叫ぶなり圧倒的な力を見せつけるように、振り下ろした剣で立ちはだかった相手の剣を叩き折りながら鎧ごと両断した。

「コーザス!」

 自身の真横で部下が切り捨てられ、ギリューネクは声を上げた。その直後にもグスタークの進路を阻んだ騎士が、二合と打ち合わずに斬り捨てられた。

 このままでは包囲を抜けられる。危機感が背中を押す。

 これ以上味方に損害を出す訳には行かない。ここは何としても止めなくては。ギリューネクは焦燥感を覚えつつも敵を視線で追った。瞬間、兜の隙間から覗く敵将の狂気を纏ったような目に気付き、背筋が凍りつき全身に悪寒が走った。

 恐らくあの敵は剣を叩き折る剛力だけでなく、他者を圧倒する技量も持ち合わせているに違いない。自分が出て行っても勝てる相手ではないと、全身が警鐘を鳴らし戸惑いが足を縛り付けた。

『生きて帰った者が勝ちなんじゃないか?』

 そんな言葉が頭に浮かぶ。

(違う! あいつならそんな事は……!)

 ふと脳裏をよぎった後ろ姿。

「あいつって何だ!」

 反発するように口にした瞬間、体が動いていた。


 さながら暴風の如くヴァストール軍の包囲を切り崩しにかかる存在に、ラーソルバールも気付いていた。恐らくは騎士団長級の強さがある敵だけに、放置すれば損害が大きくなるのは間違いない。だが自身が援護に行こうにも、眼前の装甲兵に阻まれ身動きが取れるような状態でない。その時だった。

 グスタークの進路を阻もうと動く存在が見えた。それが誰なのか、何故かラーソルバールには瞬時に理解できた。

「……! 第四中隊! 全力でギリューネク隊長に魔法盾シールド展開! 急いでっ!」

 ラーソルバールの叫びを耳にした騎士数名が、驚きつつも無詠唱で次々と魔法を展開させる。

「ちっ、余計な真似しやがって……! これで負けたら、ただの恥さらしじゃねぇか……」

 苦笑いを浮かべつつ、ギリューネクはグスタークの進路を阻むように力一杯剣を横に薙いだ。だが、風をも切り裂くようなギリューネクの一撃も、グスタークは軽々と受け止めると立ちはだかろうとする存在を睨み、そして不敵に笑った。

「命知らずか?」

 剣と剣がガリガリと音を立て擦れ、視線が絡み合う。

「……いんや。命は惜しいんだがね、同じように部下の命も惜しいんだ。……昇進に関わるからな」

 照れ隠しをするように、余計な一文を付け加えたギリューネク。剣を一旦押し込むむと反動を使って後ろに飛び退き、僅かに距離を取った。


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