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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十五章 金色の髪

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(三)矢文の波紋①

(三)


 カラール砦に投じられた三通の矢文の宛先はいずれもリファールだった。内容はもちろんヴァストール側の査閲が入るという前提で書かれている。

 最初の一通、それは王太子サレンドラの記名のあるもの。

 やや長い文面であったが、要約すると以下のようになる。

『第二王子リファールは、直ちに単独で我が軍に参じ我が命に従うべし。汝の生命の保証をする事と併せ、速やかに軍を引くことを約束しよう。但し、明朝の日の出を刻限とする』

 この通りに実行したとすれば、王太子は弟を奪還するために軍を率いてきており、目的を達成すれば引き上げるという、軍事行動にあたかも大義名分が有ったかのようなものになる。人質として身を預けていたが虐げられていた、と声高に触れ回れば国内外への体裁は整う。退くとしても敗戦ではなく、目的達成によるものという言い訳もできる。

 だが今回、国王を幽閉してまで軍を興したことによる反感や失望は少なくない。これを機に、王太子を廃してリファールを後釜に据えようと言う動きが出る可能性も高い中、命の保証をすると言われても信じられるものではない。


 そして二通目と三通目。

 記名は同一人物であったのだが、内容は全く異なるものだった。

『リファール殿下はヴァストール軍の最高責任者を伴い、サレンドラ殿下のもとへ足をお運びください。現状を変えるためには、剣よりも言葉を尽くすべきと臣は愚考いたします。速やかに今後の協議を行うべきです』

『リファール殿下はヴァストール軍とともにレンドバール軍中央の本陣へと赴いてくださいますよう、お願い致します。その際には我が部隊がお供致します』

 文面の最後に記された名はエルヴィン・アテスター。

 猛将ディガーノンの叔父にあたる人物で、レンドバール国内では良識派で通っている。リファールとは個人的な接点もあるが、侯爵という立場もあって王位継承権を無視するような行動をとったことは無かった。似たような文面で有りながら、後者は具体的な目的が書かれておらず、内容も受け取り方によって意味が変わる。

 いずれにせよ、リファールとの個人的な繋がりが有る人物を騙ったものが紛れているわけで、どちらかが本物かそれとも両者とも偽物かと判別しなくてはならない。


 矢文の報告を受けて、再び会議室に主要な面々が集まる事になったのだが。

「この際、兄からの申し出の判断はお任せします」

 リファールは意見を求められ、開口一番真顔で答えた。

 手紙の筆跡が兄のものであると認めたうえで、自分の身柄はヴァストールに委ねているという前提で考えて欲しい、と前置きしたのだ。

 素直にサレンドラの言葉に従ったとしてもレンドバール軍が撤退する保証はなく、ただリファールの処断を目的としている可能性もある。だが、交渉内容を信じて決めるのはヴァストールの責任者であるオーディエルトである。

「そこは先程も申し上げた通り、素直にリファール殿下を差し出す気はありません」

 オーディエルトが「義兄上」と言わなかったのは、話の内容を考慮しての事だろう。リファールはその言葉に黙って頷いた。

「では、もう二通。アテスター侯爵の記名の手紙ですが……」

「……そうですね……。アテスター侯爵とは長年の交流のある知己の間柄ですが、彼は距離感を弁えていたのか親密という程ではありません。その立場から言わせて頂くと『剣よりも言葉を尽くすべき』という文面は、いかにも侯爵の言いそうな事ではあります。……が、筆跡を似せてはいますが彼のものとは若干異なる気がします。恐らく彼との交流を知る者が画策したものでしょう。そしてもう一通は……」

 そこまで言って、リファールは悩むように口元に手を当て沈黙した。

「侯爵本人のもの、という事ですか?」

 先程の会議でも押し黙っていたエラゼルが口を開く。

 その問いに一瞬だけ躊躇したものの、リファールは肯定するように無言で首を縦に振った。

「断言はできませんが、彼の筆跡であろうと思います……が、中身が何を意図したものかが読み取れません……」

「……そうですね、停戦交渉の為に来てくれれば口添えをするという意味にもとれますが、……それ以外の可能性もありますね」

 手にしていた書面をサンドワーズに手渡し、エラゼルは一度言葉を切った。

「それ以外、とは?」

 サンドワーズは文面に視線を落としながら、興味深そうに尋ねた。

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