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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十五章 金色の髪

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(二)駆け引き③

 レンドバール軍はエラゼルの警戒をよそに、その日の日没まで動くことは無かった。

 再編に手間取ったというよりも他の意図が感じられ、むしろ策を巡らせているのではないかという懸念も生まれる。

 日没後、今後の対策のためにカラール砦の会議室には王太子オーディエルトやエラゼル、第一騎士団長サンドワーズと配下の三月官以上の騎士、魔法学院の教師達、そしてリファールと、主だった面々が集まっていた。


「すぐに立て直して攻め寄せて来るかと思っていたのですが、何かの機会を窺っているのでしょうか? 時間を引き延ばせば我々に救援が駆けつけると言う事も承知しているはずですが……」

 サンドワーズが現状への疑問を口にする。

「我々の攻撃で恐れをなした、ということは無いとは思います。相手は前回の敗戦を経験にしているため、十分に周囲への警戒はしている事でしょう。戦力の分散を避け、夜陰に乗じて攻めてくる可能性もあるのではないですか?」

 魔法学院の教師の言葉に皆がうなずく。

「此方から動かなければ、それだけ時間が稼げると言うのであれば有難い。もちろん夜間の警備は厳重するよう手配はしてあるが……」

 敵の意図が分からないが、ヴァストール側から戦闘を仕掛けるつもりはない。このまま敵が不安に駆られて瓦解してくれるのならば一番だが、それはあくまでも希望に過ぎない。

 仮に攻めてきたとしても、宮廷魔術師や魔法学院の生徒四百名を含む総勢五百名にも及ぶ魔法使いが居るため、初戦で腰の引けた相手なら十分以上に防戦できる。

 オーディエルトは思案するように眉間を指で押さえた。

「よろしいですか?」

 皆が沈黙したところで、グランザーが発言の許可を求める。

 サンドワーズの補佐として居る立場と認識しており、王太子の居る場ということで慎重な姿勢を見せる。

「遠慮なく、言いにくいことでも言ってくれて構わない」

 オーディエルトは微笑みを湛えつつそれに答える。

「では、率直に申し上げます。相手が動いた際に、何らかの条件と引き換えにリファール殿下の身柄を要求してきた場合はどうされるおつもりですか?」

 リファールが同席する中、まさに言いにくいことを正面から口にする。

「リファール殿下は我が国の正式な客人である。レンドバール王国の国王の名での交渉事であれば一考の価値もあるが、今回はその可能性は無いだけに交渉の余地は無い。個人的な意見も付け加えるなら、義兄上になられる方の身をどうこうしたくはない、というのが本音だ」

 正論を述べていたオーディエルトだが、最後は私情を覗かせ苦笑いというよりは、やや照れ隠しのような笑みを浮かべた。

「オーディエルト殿下のお心、有り難く受け止めさせていただく。だが、()()殿()の揺さぶりの結果、私に接触を試みてくるものが出ないとも言えないが、そこの対応は如何にお考えか?」

 オーディエルトの発言を受けての事だろうが、リファールから含みを持たせたように「義妹」と言われ、エラゼルは少々照れ臭そうに苦笑いを浮かべた。

 レンドバール軍の中には国王に反旗を翻す形で幽閉し、出兵を強硬したサレンドラを見限って、リファールを王の代理として立てようという動きが出る可能性がある。逆にそう見せかけて、リファールを誘きだして始末しようという策も有り得る。

 そこまではエラゼルも折り込み済みだが、問題はその対応である。

 オーディエルトの判断を聞くため、あえてエラゼルは沈黙を守る。

「接触を図ってくる相手次第でしょうか? リファール殿下にとって信に足る人物であれば、一考の価値はあると思いますが……」

 オーディエルトの言葉にエラゼルは小さくうなずく。

「まあ、そこまで伺ってから言うのも何だが、正直なところ側室の子である私は国内では風当たりが強い。誰が参戦しているかも分からないが、私を引き込んだり旗頭にすることに抵抗がある者も多く、可能性は低いとは思っているのだが……」

 リファールの言葉通りなら、接触があればほぼ罠という事になる。

 罠であると分かるなら、それを逆手にとる方法は無いだろうか。エラゼルは黙ったまま思案を巡らせた。


 結局、救援が来るまで防戦という基本方針は変わることなく会議を終えたのだが……。

 会議終了後、戦闘には至らなかったものの、月の覗かぬ闇に乗じてレンドバール側の偵察と見られる小規模な部隊の接近が幾度かあった。その折に砦の厳重な警備のわずかな隙を突くように、相次いで投じられた三通の矢文。

 これによって誰もが眠れぬ夜を過ごすことになる。

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