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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十五章 金色の髪

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(一)エラゼル舞う③

 相手はモンセント程の知名度がある訳ではなく、その実力は未知数である。故に油断はできない。

 だが……。

 もしかしたらラーソルバールと剣を交えるよりは、苦労しないのではないか。楽観的な考えが浮かび、エラゼルは自身の気構えに失笑する。と、身を縛るような緊張が融雪の如く消えた。


 迫るストーニルの鬼気迫る表情も兜の下に隠れ、エラゼルからはうかがい知ることはできない。もしその表情が見えていたなら、エラゼルも躊躇するところがあったかもしれない。

 相手の挑戦に応え、迎え撃つようにエラゼルは僅かに馬を前に出すと、小さく息を吸ってから呼吸を止める。

(一撃で決める……!)

 みるみるうちに二人の距離は縮まり、ストーニルの剣が風を切りながら唸りをあげてエラゼルに襲いかかった。

「捕えたり!」

 勝利を確信しストーニルは笑みを浮かべた。

 ……刹那。

 ストーニルは脇腹に焼けるような痛みを感じ、振り下ろした剣はエラゼルを捕える事無く空を切った。

「な……にが……」

 自身に起きたことを理解する間もなくストーニルは馬上で姿勢を崩し、苦悶の表情を浮かべながら地上へと滑り落ちた。

 彼の剣が振り下ろされる直前、エラゼルは馬の腹を蹴って前に駆け出しており、その勢いを生かしながら剣を水平に閃かせていたのだ。

「おお……」

 優美な動きとも表現できるような流れるような剣技。見事一撃で敵将を斬った姿にヴァストール軍から感嘆の声があがる。

 風に美しい金髪を躍らせながら泰然と佇むエラゼルの姿に、オーディエルトとリファールはほぼ同時に安堵の吐息を漏らした。

 称賛の声が響く中、エラゼルはゆっくりと振り返り、地に伏すストーニルを見やってからリファールに頭を下げた。それはレンドバールの貴族を斬った事に対する謝罪。リファールもそれは心得ており、エラゼルに応じるように黙って頷いて返した。


 対するレンドバール軍は瞬時の出来事に、誰もが言葉を失っていたのだが。

「おのれ金髪の小娘!」

「我が主の敵!」

 二人の騎士だけが、馬を駆りエラゼル目がけて走りだした。

「今の男の従僕か……?」

 迫る敵に気付いたエラゼルは視線をレンドバール軍側へと戻す。

 同時にグランザーが援護に行こうとするのを遮るように、一騎が駆け出した。

「で……殿下っ!」

 慌てたのはオーディエルトの傍に居た騎士達。制止する間もなくエラゼルへと駆け寄る姿に、誰もが肝を冷やす。

「一騎打ちで無いのなら、婚約者を守る為に私が出ても問題なかろう?」

「殿下、私一人でも問題ありませんのに……」

 背後からの声に振り返る事なく、エラゼルは苦笑するように返した。

舞踏ダンスは二人でするものだぞ。淑女殿」

 オーディエルトは手綱を持ち替えると、双剣を抜き放ちエラゼルに並ぶ。

 直後、二人はレンドバールの騎士二人と交錯するようにすれ違う。

 エラゼルの剣は白く美しい光の曲線を描き宙に赤い花を咲かせ、オーディエルトは相手の剣を右の剣で捌きつつ、左の剣で相手の首筋を切り裂いた。

「殿下、急ぎ退きます!」

 一時の勝利に奢ることなく、エラゼルは馬首を返す。

「ああ、承知した」


 引き上げようとする二人を呆然と見送りかけた時、サレンドラは我に返った。

「逃すな! 敵は少数だ、攻めよ!」

 声を張り上げ、全軍を叱咤する。

 その声は自陣に戻ったエラゼルの耳にも届いた。

「ふむ……。諦めの悪い男か……」

 エラゼルは振り返らずにサレンドラを揶揄する。

 リファールにも聞こえてはいたが今更咎める理由がある訳でもなく、ただ小さく苦笑いを浮かべるにとどめた。


 サレンドラの言葉で背中を蹴り飛ばされるように駆け出した兵たちは、統制のとれないままヴァストール軍へと襲い掛かる。

「何とまあ、無様な……」

 自軍の動きにディガーノンはため息を漏らす。

 先の敗戦に悶々としていたところに、再戦の機会を得て意気揚々と戦場まで来たまでは良かった。だが、つい先程まさに寝耳に水といった話を聞かされ対応に苦慮していたところだった。

 確かに国王直々に出征の命が出た訳ではない。相手方には清廉と言われるリファール王子も居る。彼の発した言葉に嘘は無いだろう。ディガーノンは腹を決めた。

「我が隊も進め!」

 攻撃しろと言わずに進めと言ったのは体裁を整えるためだ、と副官は即座に理解し、各部隊に手信号でその意図を伝えるべく指示を出した。

 こうした動きがレンドバール軍各所で見られ、サレンドラの居る中央部だけが不恰好に突出する形となった。


「さあ、お出迎えだ!」

 サンドワーズの号令とともに編成が組み変わり、レンドバール軍を待ち伏せていたかのように砦の防壁上に多くの兵が現れた。

「モルアール、頼んだぞ……」

 すれ違いざまにエラゼルが微笑みかけたのはかつての戦友であり、旅の仲間。

 魔法の詠唱を初めていたために、モルアールはエラゼルに目配せのみで応じる。

 モルアールを含む魔法学院の生徒の出征、それはエラゼルが魔法院に要請して得た戦場の大事な一手だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この王子、きっと格好つけなければ死んでしまう病気にでもかかっているに違いない……! そして、跨っている馬は白馬に違いない……!(いや、どうでもいいですが) [気になる点] それと本題なので…
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