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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十五章 金色の髪

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(一)エラゼル舞う②

 レンドバール軍が視認されてから間もなくカラール砦の門は開き、中からヴァストール軍が姿を現した。

 砦から出たヴァストール軍は整然と部隊を展開し、レンドバール軍を待ち受けるように布陣する。全軍の中央部には王太子オーディエルトとリファールが馬首を並べ、それを守るように第一騎士団が周囲を固めていた。

 それは数において劣勢であるヴァストール側は砦に籠って応戦するもの、というレンドバール軍の予想を大きく裏切るものだった。

 前回の戦いで同様に砦から出た部隊を正面から相手にして、手痛い目にあったレンドバール。今回は無闇に進軍するのを避け、一旦足を止めると警戒の度を強めた。


 レンドバール軍の足が止まったのを確認すると、リファールは僅かに手綱を動かして前へと進み出る。そして数歩進んだところで天を仰ぎ見て、手綱を引いて馬の脚を止めた。

 リファールは一度大きく息を吸うとレンドバール軍を睨みつけた。

「私はレンドバール王国の第二王子、リファールである。従軍している者全てに問う! 此度のヴァストール侵攻には大義は有るのか?」

 魔法により全軍に響き渡るリファールの問いかけに、レンドバール軍は沈黙する。

「先の戦の折りには敗走時に追撃されることもなく、戦後にも震災復興中であるからとヴァストール王国から温情を受けた。にも関わらず、此度は出征に反対する国王陛下を幽閉してまで再び軍を興すとは、厚顔無恥にも程がある。例え王太子殿下の行いとて許されるものではない!」

 国王幽閉という事実を知らない者も多かったのか、レンドバール兵達の中に動揺が走る。

「黙れリファール! 根も葉もない虚言で我が軍を揺さぶろうとは、そなたは我が国を裏切ったか!」

 同じように魔法を行使するのに手間取ったか、僅かの間の後にレンドバール王国の王太子であるサレンドラの激昂する声が野に響いた。

 自軍の動揺を抑えるため、リファールを悪者に仕立て上げてしまえば良いという打算が見える。だが、リファールはそんな事など想定済みであった。

「先の戦後交渉で今後五年間は互いに軍を以て領を侵すことを禁じると、取り決めされていた事を知らぬ兄上では有るまい? 国家間の約束ひとつ守れぬような国、今後誰が信用してくれようか? 国王の椅子を奪い、一度交わした約束を守れぬような者を戴いてレンドバールは滅びの道を歩むのか?」

 痛いところを突かれ、レンドバールの将帥達も言葉を失った。

「悪口許し難い! 言うに事欠いて……」

 サレンドラが言いかけたところで、一人の騎士がリファールの横にゆっくりと並びかける。金髪を風になびかせ剣を抜き放つと、ゆっくりと切っ先をレンドバール軍へと向けた。

「あれは……」

「カラールの悪魔だ……」

「今度は俺達の命を奪うつもりだ……」

 レンドバール軍は畏怖する存在の出現に動揺し、統制を失いつつあった。


「殿下、お下がりください」

 金髪の騎士の声が低く聞こえ、リファールはそれに従うように馬首を返す。怒りを抑えるかのような騎士の声。それは幾度か聞いたそれとは異なってはいるが、確かにエラゼルのものだった。

 リファールが下がると同時に、それを待っていたかのように騎士たちがエラゼルに並ぶように馬を前に出した。

(第二騎士団がここに居ないことで、偽物だと気付かれてはいまいか……)

 エラゼルの頬を冷たいものが伝う。

「リファールを……いや、あの金髪の娘を斬り捨てよ! 小娘一人に恐れをなしてどうするか! 誰か居らぬか!」

 僅かに狼狽の色を見せるサレンドラ。

 カラールの悪魔については、先の戦に赴いた兵達の噂話から耳にしている。レンドバール軍を罠に嵌め、モンセント伯爵をも切り捨てたという憎むべき相手であり、またその存在が恐ろしくもあった。

「殿下、ご安心を。僭越ながら、このストーニルが悪魔めを切り捨てて参りましょう!」

「おお、ストーニル男爵か! 剛の者という噂は耳にしている。行って見事、悪魔を退治せよ!」

「はっ、勝利を殿下に捧げまする。ご照覧あれ!」

 ストーニルは言うが早いか馬の腹を鐙で蹴り、単騎駆け出した。

「金髪の娘! ストーニル男爵が一騎打ちを所望する!」

 怒号のような声がエラゼルの耳に届く。

 偽物だと気付かれていないと、安心しながらもこれから切り結ぶ相手の力量が分からないだけに、全身に緊張が走る。


「一騎打ちなどお受けになる必要は……」

 傍らに居た騎士が制止するように言葉を紡ぐ。

 エラゼルはその声に聞き覚えが有った。サンドワーズからは知己の者を護衛に付けるとは言われていたが、顔を合わせる時間が取れず、ここに至るまで誰なのかは知る機会が無かった。

「ああ、その声はグランザー殿ですか。お久しぶりです……が、挨拶はまた後ほど」

 迫りくるストーニルを迎え撃つため、エラゼルは剣を構えた。

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