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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十四章 ベスカータ砦の攻防と……

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(二)野心と誠心③

 宰相に視線を送られた国王は厳しい表情を一段とひきしめた。

「皆が集まったようなので、再度議論を始めようか」

 再度、と言ったのは国王と宰相そして城にいた大臣数名で一度話し合いを行ったものの、結論を持ち越したという経緯があるためだ。

「先程のデラネトゥス公爵の言葉通りだ。レンドバールで強硬派が国王を幽閉し、王太子を旗頭にして我が国に再度軍を向けたということだ」

 国王の言葉にリファールは、恥辱からかはたまた兄の愚行に対する怒りなのか、顔を伏せ苦々しい表情で唇を噛む。

「知っての通り、騎士団はほぼ出払っているし、急ぎ対応できるのは王都の備えに残した第一騎士団しか居ない。北方に居る第五騎士団が戻るにしても数日はかかる。方策を述べて欲しい」

 エラゼルは国王の言葉を受けて、現状の把握と出来うる対策は無いかと思考を巡らせる。


 今回はレンドバール軍が砦を無視して国土を蹂躙する可能性も否定できない。目的が報復もしくは、領土奪取であれば、あえてヴァストールの兵と剣を交える必要はない。となれば、ラーソルバールのやったように、近隣住民の避難は必須で、それは前回以上に広範囲にしかも迅速に行わなければいけない。

 時間的な余裕も無い上に、それが可能なのかも分からない。


 娘の真剣な表情を横目に見ながら、デラネトゥス公爵は静かに挙手をする。

「今回の件ですが、王太子とはいえ国王を幽閉して権力を奪取している以上は、対抗勢力も黙ってはいないはず。我が国との早期決着を狙うにしても、王都の警備を手薄にすることはできませんから、信用のおける将とある程度まとまった兵を残留させている事でしょう」

 父の言葉に黙ったまま小さくうなずくエラゼル。父としては娘に採点されているようで苦笑を禁じ得ない。

「国内統制を後回しにしてでも、我が国に一矢報いたいということですか。その弱味につけ込むことができれば、恐れる必要は無いということですな」

 王弟アーデスト公爵が笑みを浮かべる。国王もそれに同意するようにうなずくが、ふと何かに気付いたように視線を止めた。

「エラゼル嬢、何か言いたそうだな。女だてらに口を挟むべからず、などという野暮な事は言わぬから、思うところ申してみよ」

 意外な言葉に意表を突かれたのか、エラゼルは少し驚いたように目を見開く。

 ちらりと王太子を見やると、彼は微笑みを浮かべ小さく首を縦に振り、エラゼルの心の後押しをした。

「陛下のご厚情に甘え発言させて頂きます。これは宰相閣下にも申請済みなのですが、非常時に備え、公爵領に千五百の兵を用意して有ります。その兵と、第一騎士団を急ぎカラール砦に派遣します。王都の守りは近衛兵だけとやや手薄になりますが、現状の安定した国内状況では不測の事態は起こらないかと思われます。何かあれば大臣方の領から兵の支援をして頂くと……」

 流れるように言葉を紡ぐエラゼルに皆が感嘆の吐息を漏らす。


(陛下も食えぬお方だ……)

 なるほど。エラゼルは得心がいった。わざわざ発言を許したのは、将来の王太子妃、王妃として経験を積ませるだけでなく皆に存在を印象付ける腹積もりだったのか、と。

 であれば、その場を有効活用しよう。エラゼルは腹をくくった。

「ここで肝要な事が二点ございます」

「その二点とは?」

 意図をはかりかねて国王は尋ねた。

「ひとつは、リファール殿下にも砦にお越しいただき、その存在を示していただくこと。更に殿下が正当性を主張することでレンドバールの兵は困惑することでしょう」

 リファールが顔を上げ、少し驚いたように将来の義妹を見詰める。その瞳は責められるだけだと思っていたこの場で、自身の存在意義を与えてくれた事に対する謝意を示していた。

「そしてもうひとつが、レンドバール兵がカラールの悪魔と呼ぶ人物が砦に居ること」

「それは……」

 エラゼルの意図を察していながらも、国王は驚いたように声を漏らす。

「はい、我が友ラーソルバールにございます」

「しかし彼女は今……」

「東方に居ります。よって、当然ながら本人が行くことはできません」

 ゼストアとの戦いの中に身を置くラーソルバールが、東から西へと駆けるというのは現実味に欠ける。にも関わらず、エラゼルがその名を出した理由とは何か。誰もが疑問を持つ。

「では……?」

「レンドバール兵は彼女の顔を知りません。金髪の娘、ということだけでしょう」

「な……!」

 意図を察したのか、デラネトゥス公爵が慌てて娘の顔を見る。

「私が、カラールへと参りましょう」

「何を……」

「私も騎士学校出身であり、本来であれば騎士であった身にございます。幸いな事に背格好も然程変わらない事に加え、ラーソルバール程でないにせよ剣もそれなりには扱えるつもりです」

 周囲の動揺を押し切り、凛とした声で迷いなく言い切るエラゼルに、場が一瞬沈黙する。

「いや、王太子妃となるべき貴女がそこまでする必要は……」

 我に返ったようにメッサーハイト公爵が声を上げる。

「友も戦場におります。それに、国が無くなっては何が王太子妃でございましょうか?」

 穏やかな笑顔を返すエラゼルに、国王は笑い出した。


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