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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十四章 ベスカータ砦の攻防と……

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(二)野心と誠心②

 レンドバール王国で内紛が発生した模様。


 王宮にもたらされた報は驚きを持って迎えられた。

 その事件の重大さは、内容を聞けば明らかだった。

 ヴァストールがゼストアと交戦状態に入った事により、好機とばかりにレンドバール王国内の強硬派が再戦を企図して動き出した事に端を発する。強硬派は国王に開戦許可を得ようと詰め寄ったが、国王は頑として首を縦に振ることはなかった。業を煮やした彼らは同じく強硬派である王太子を担ぎ出して国王を拘束、幽閉したというのである。

 元々穏健派だった国王は先だっての出兵に際し、一度は強硬派の重臣たちの声に押される形で許可を出した。しかしカラール砦の戦いで敗戦し、第二王子であるリファールをヴァストールに差し出さざるを得ない状況になったのを受けて、穏健派が強硬派を押しのける形で一旦は落ち着いていた。

 しかし、状況が変わったことにより強硬派が暴発したのである。


 もともと再戦するにあたり、問題がひとつあった。事実上の人質であるリファールの処遇である。

 もしレンドバールがヴァストールに再戦を企図した場合、その身がどうなるか分からない。側室の子であり、穏健派という第二王子は強硬派にしてみれば居なくなっても困る存在ではないが、国内の目はそうではない。人柄も良く国民の人気が高いリファールにもし何かがあれば、震災後の国内の不満を巻き込んで内乱が起こる可能性もあった。

 だがリファールはヴァストール国内の公爵家の令嬢と婚約を発表しており、その身に危害が加わる可能性が低いという状況が出来上がっており、それが皮肉にも強硬派の行動を後押しする形になったのである。

 機を逃すまいと、国王を幽閉したその日のうちにレンドバール軍は王都を発した。

 あとは行軍中に物資を調達しながらヴァストール王国を目指せば良いのである。相手は北に東にと軍を分けており、手薄になった西部なら簡単に落とせるはずという目算があった。



 対して、ヴァストールでひとりこの事態に迅速に動いた者が居た。

 エラゼルである。


 城からの使者が来た後、慌ただしく登城の支度を始めたデラネトゥス公爵を見たエラゼルは、大きな異変が有った事を察した。

「父上、陛下からのお呼び出しですか?」

「ああ、一刻を争う事態があったそうだ……」

 上着の袖に手を通しながら、ちらりと振り返りながら公爵は答える。

「私もお供致します」

「いや、しかし……」

「王太子殿下の婚約者として、ご一緒するだけですわ」

 そう言って口元に笑みを浮かべるが、眼差しは真剣だった。

 こういう時の娘は頑として意見を変えないのだと知っているし、これが単なる我儘ではなく何か考えが有ってのものだという事は、表情から察することができた。

「……分かった。急いで支度をしなさい」

 エラゼルは許可を得て、ひとつ安堵の吐息を漏らすと深々と頭を下げた。それから間もなく二人は馬車に飛び乗り、一刻を経ずに王宮の門をくぐったのだった。


 公爵が案内された会議用の広間には既に国王と宰相、大臣らが揃っていた。

 ちらりと室内と見ただけでも、その面々に加えて王弟ファスタール・アーデスト公爵や、コルドオール公爵、第二王子ウォルスターも既に着席しているのが分かる。

「おお、デラネトゥス公爵。急な呼び出しで済まなかったな……。と、エラゼル嬢も一緒か?」

 国王が怪訝な顔をしたので、慌てて振り返ると確かに背後にエラゼルが立っていた。誤ってついてきた訳ではなく、狙ってこの場に居るのだという事は表情で分かるのだが。

「これは……申し訳ありません。下がらせますので……」

「いや良い。王太子……オーディエルトも間もなくやって来る。婚約者が居たら喜ぶだろう」

 国王は焦る公爵に笑顔を向けると、二人に着席を促した。

 公爵は軽く頭を下げると、椅子に腰掛ける。続いて椅子に座ろうとするエラゼルの視界の端に、リファールの姿が映った。

(なるほど。今日の用件は……)

 良くない事態であるとは分かっていたが、その中でも悪い方の部類に入る話だと想像できる。エラゼルは眉間にしわを寄せた。

「父上、今日の議題について私に対策案があります」

 エラゼルは隣に座る父に耳打ちをする。

「ん?」

「義兄上殿が居られるというのは、つまりそちらの方面の悪い話です……」

「な……!」

 正確にはまだルベーゼはまだ結婚していないため義兄ではないのだが、問題はそこではない。驚いたように声を漏らしたデラネトゥス公爵に、宰相メッサーハイト公爵が視線を向ける。

「何かありましたかな?」

 宰相の問いとほぼ同時に、扉を開けて王太子が現れた。

 その姿を横目でちらりと見て、軽く会釈をするとデラネトゥス公爵は視線を宰相へと向ける。

「何でもありません、と申し上げたいところですが……。火急の御用とは、レンドバール王国が動いたという事でございましょうや?」

 公爵の言葉に、沈黙していた室内がざわめいた。


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