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聖と魔の名を持つ者~剣を手にした少女は、やがて国を守る最強の騎士となる/ラーソルバール・ミルエルシ物語~  作者: 草沢一臨
第三部 : 第四十三章 時の渦

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(三)警戒線上の悪魔①

(三)


 砦に到着した騎士団は事前に指定されていた持ち場へと移動する。

 この時点ではまだ敵は目視できるような位置には居ない。とりあえずは間に合ったというところだろう。

 砦の守備兵は砦中央部を担当する第二騎士団の下に千名、残りが他の騎士団に均等に振り分けられる事になった。その不足分はまだ到着していないが、近隣の領主の私兵で補う事になる。

 各地の領主は多少の紛争であれば自ら兵を出して対処するが、対国家のような大規模な戦争ともなるとその範疇ではない。今回のような派兵は私費を投じることになるので良い顔をしない者も居たが、国家の危機に際して異論を唱える訳にもいかず承諾せざるをえなかった。

 そうした兵は第三騎士団の到着以降にやってくる事になっているが、果たしてどの程度の兵力になるのかも分からない。

 その第三騎士団は補給物資を運搬してくるため通常の速度での移動とならざるを得ず、到着は明日の夕方といったところ。それだけに、まずやるべきは備品の確認である。

「とりあえず、携行食料があるから今日明日分は何とかなるけど、あとは砦にどれだけあるか。それから戦いに使用できるものがどれ程あるか、だね」

「弓矢の備蓄とか?」

「それ以外、かな」

 各小隊からの報告が終わると、ラーソルバールはシェラを伴って砦の備蓄品の確認に向かった。


 翌日、昼を過ぎた頃だった。

「ゼストア軍、第一警戒線を越えました!」

 警笛が鳴らされ、見張り兵の声が響く。

 ゼストア軍は最低でも四万を超え、攻城戦用の兵器も用意していると偵察から報告を受けている。想定より敵の数が多い。辛うじて第三騎士団は間に合ったが、各領からの支援兵はまだ到着していない。不利な状況で開戦となるのは避けられない。

 警笛の音が聞こえ、ラーソルバールは急いで砦の防壁に駆け上がる。

「あれか……」

 確かに遠くに視認できる位置に、軍勢が見えた。地を埋めるその数にしばし言葉を失った。

「各小隊は弓などを持って警戒態勢!」

 持ち場にやってきた各小隊の面々へと命令を飛ばす。

「ミルエルシ中隊長!」

 防壁の下からシェラの声が聞こえた。

 下の覗き込み、自らの副官に手を振って応える。

「そっちも準備を!」

「了解!」

 シェラが駆け出すのを見届けると、ラーソルバールは振り返ってゼストア軍を睨むように見詰めた。


 一方、ゼストア王国側は上がらない進軍速度に苛立ちを募らせていた。

「こんな馬鹿でかい物を動かすから奇襲にならんのだ。迅速に行動せねば、北方に散っているという敵軍が戻ってきてしまうではないか!」

 そう言って部下を怒鳴るのは副司令官であるボストニック・アルドー将軍。ゼストアの侯爵位を持つ高位貴族でもある。

「しかし、無手で突っ込んでも砦を前にして何もできません……」

「クォラよ、そこを考えるのが貴官らの仕事ではないか。大規模な魔法でも防壁にぶつけてしまえば突入口もできようというもの。そんな時代遅れの攻城兵器など大事そうに運んで来よって……」

 腹を立ててはいても、部下の口答えを許す度量はある。

 アルドー自身は、ヴァストール攻めにそれほど熱心な訳ではない。新造された砦があると伝え聞いていたので、兵力差があろうと攻略が楽ではないと考えているからだ。

「で、カイファー殿下はどうされた?」

「城壁の破壊を見届けるのだと仰って、先団に上がられたそうです」

「なに、私に何も言わずにか?」

 怒りを抑えきれず、アルドーは舌打ちをした。

 先団には別の将がいるため、総司令官としての権限を持つ王子が前に出るのは邪魔以外の何物でもない。戦にかけては自信が有ると豪語しているとは耳にしているが、所詮は机上のもので、役に立つなど思ってはいない。

 出兵の裁可にあたって、宰相に第二王子のお守りという損な役回りを押し付けられたとしか思えない。

「そんなに手柄が欲しければ、自分だけでやれば良いのだ馬鹿王子め……」

「は、何か?」

 アルドーの小さなぼやきは風に流れた。そもそも自身が出兵案を唱えた訳ではない。

 王子が勝手に戦って負けるのなら自分の責任にはならないはずだが、罪を押し付けられても困るし、大事な兵を損なわせるのも気分が悪い。アルドーが空を仰ぐように大きくため息を漏らした瞬間だった。

 前方の上空で何かが弾けた。

 直後、大きな炎が前方の兵を包み込むのが見えた。

「何事か!」

「分かりません! 敵の攻撃とは思われますが砦はまだ遠く、攻撃魔法の効果範囲からは遠く離れております!」

 何が起きたのか、理解できない。だが聞こえてくる兵の悲鳴や、混乱する声、炎上する攻城兵器が確かに攻撃が有った事を物語っている。

「我が隊は一旦停止せよ! まずは殿下の安否確認だ! それから伏兵の可能性がある、偵察を強化せよ。」

 周囲に敵はいないという報告は受けていた。にも関わらず、攻撃を受けたのはどういう訳か。先団も魔法射程外という油断があったのだろうが、こうも簡単に先手を取られるとは思っていなかった。

「砦には悪魔でも居るのか……?」

 アルドーは遥か前方にある砦を恨めしそうに睨んだ。


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